第51話

ニルヴァーナ達がしのぎの削り合いをしていた―――と、ほぼ同じ頃…

別の場所―――別の処である邂逅が発生していました。

その場所とは集落から集落を繋ぐ“みち”―――そこから程なく離れた場所に建つ『庵』……その庵を訪ねてきた人物こそ―――


「ご在宅でいらっしゃいますか?」

「ああ、君か……待っていたよ。」


後世に【美麗の森の民】とまで称された―――当時のエルフの王国『エヴァグリム』の王女『ローリエ』……

そして彼女と直接対面していたのは……〖昂魔〗の証しでもある立派な角を頭に頂き―――盛る火焔の様な『熾緋』の長髪―――その眸に宿せるは情熱の焔と見紛みまがえるばかりの『熾緋』の眸―――同じ女性だとて溜息が漏れそうになるまでの豊満な身体つき……


そして、この人物こそが、後の―――



#51;今昔こんじゃく道標しるべ



「それで―――?」

「はい、一応王室より容認を取り付けて参りました。」

「そうか……これで“ようやく”―――だね。」

「それより、本当に現れているのでしょうか。」

「その点については心配ない、この私が数十年来交流を深めた者に対しある種の“導き”を行ったからね。」

「それで……その方は―――」

「種属としてはオーガ―――だが、その志には大いなるものを持っている。」

「オーガ……ですか―――」

「不安……かい?」

「―――はい…あなたからの“教え”にはたっているのですが、その印象が強い余りに……」

「私は、その風聞は何者かの意図によってそうされてきたと思っているけれどね。」


この当時の『エルフの王女』と話し込んでいたのは、自身が修めた学識で迷える者に対し“導き”を行っている、“学者”の類でした。

その知識は“確か”―――確かであるがゆえに揺るぐことはない―――しかも高い知力によって、普通ならば理解するのに難しい説も噛み砕いて分かり易いようにさせる……そうした者が、この魔界に存在しているのです。

それに“今”は、エルフの王女がこの学者風の人物の教義にたっていた……と、言う事実―――


「それが『差別』―――と、言う事ですね。

「うん―――」



私達はこの世に『産まれた』と言う時点から平等であるはずなのに、実はその『この世に産まれた瞬間』からそうしたモノは発生していると言った方がいい、“それ”は種属の『別』もさながらに、産まれ出た瞬間の『身分』『家柄』に関しても言えることだ。 王女―――あなたが『エルフの王族』に産まれてきたのは、あなたの運命だ、あなたが『エルフ』と言う種属に産まれてきたのも、またあなたの運命なのだ。 そこは“あなた”がどう思い悩んだところでどうしようもない……ならばその“運命”を利用してしまえばいい―――

“あなた”が『エルフ』であると言う事……

“あなた”が『エルフの王女』であると言う“立場”を利用して出来る事は、ある。



ローリエは、『エルフの王女』―――これは誰が……そして自分がいくら否定しようとも不変の運命かえられないさだめと言うものでありました。

産まれてくる子供に―――産んでくれる母体おやに、その差別は、ない……どちらも選択えらんで、産む事……産まれる事など出来はしないのだから。

だとてローリエは、その事で苦悩をしていたものでした。

それはまた、シェラザードが変革を起こそうと決意するまでの気持ちを表せた彼女の『日記』にもあった事なのですから……

自分達は高貴な身分やんごとなき方々であるがゆえに、佞臣ねいしんの類が自分達には不都合な真実を知られまいと耳を塞いでくる……


しかし、王女ローリエは知ってしまう……


それはまた、エヴァグリムの城を訪れた一人の『吟遊詩人』の手によって……


            ?   ??   ???


吟遊詩人のその“語り”により、城下に住まう者達の……そして国外に住む様々な種属達の実情を知っていくこととなる王女ローリエ。

ただこの時代がシェラザードの時代より“幸い”だったのは、まだこの頃にはエルフの王国は開かれていた……だからローリエは―――王女だとしても、“自由”に国外へ出て魔界の様々な実情を知ることが出来たのです。

そして様々な伝手つてを辿り―――行き着いた先が、この『庵』……

〖昂魔〗と言う魔界三大派閥の一つ―――他のどの種属よりも魔力が高く、内蔵させる量も豊富で知力・知性共に高く、また身体能力に於いてもかのオーガをも凌ぐ集団……

そしてこれまでにも、幾人もの『魔王』を輩出させてきた優秀なる派閥……

そうした派閥に属する種属の一人であるはずの、この学者風の女性が他者との交流を断ちたった一人で何かの研究に没頭している……

ただ、この解釈も一つ違わせてみればそう“ぼっち”に見えるものの、いざ話し込んでみるとそれぼっちは間違いだと気付かされるのです。


「まあ―――私も私だが、私自身の“師”もかなりな変わり者だからね。」

「あなたにお師匠様が―――?!」



ああ、そうだよ。 私が身に着けたこの高度な学識も、私が独自で得たモノではない、しんば出来たとしても限度と言うものがある、この世の総てのことわりを解し、更なる高みに昇華のぼるのならば良い“師”を見つけ“師事”しなければならない……。



その―――あなた様のお師匠様とは……?!



熾緋あかき学者風の女史は、“その名”を口にする―――

この魔界せかいときを紡ぐこと数千年であり―――

その身は決して朽ちることはなく、飽くなき知の探究を求めし者……

死せる賢者リッチー』とも―――『大魔導士ロード・マンサー』とも―――『大悪魔ディアブロ』とも、称されたる者……



「『多彩なる称号マルチ・タレントの保持者ホルダー―――」

「あの人に弟子入りしたまでは良かったのだけれどね―――それからというものは徹底的にしごかれたものだったよ、ただ……そのお蔭もあり『私は盲目ではなくなった』―――」

「確かそれは……『私は盲目だった、けれど今は視える』―――でしたね。」



その通りだ。 君も今は私と最初に出会った時より物事は“視え”ているはずだ、そして以前私との交流で“導き”にたった私の『盟友とも』を探し出し、その“”のなかに入りなさい。 そして君がそのなかに入る頃には様々な運命が私の盟友ともを取り巻いている事だろう……



        だから―――……     期待をしなさい……


      “あなた”が求めているモノが     きっとそこにある……


                  そして


  あなたの旅路ものがたりは     ここから始まるのだ



           “運命”――――――

                  そして  

           “運命”――――――


歴史上の事実だけを述べるのならば、この後王女を待ち受けていた運命の終局は過酷そのものではありましたが、逆説的に言えばこの“繋がり”こそが錯綜し合っていた『運命共同体』達を一つに纏めたとしたならば―――?


         * * * * * * * * * *


そして場面は―――


「―――なにっ?!」



なんだ……このひかりの――――――



『盗賊の首魁』が修めた“忍”の暗殺術は、確かにオーガの急所を捉えたはずでした。


が……


その直前に、“何か”に阻まれた―――


それは“晄りの帯”の様であり、“盾”の様にも見えなくもなかった……

そんなものは今までにも目にしたことなどなかった……とは言えども、その事によってオーガは一命を取り留めていたのです。






つづく

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