第47話

一つの出来事が終息おさまりを見せ、しばらく経った頃の事―――……


その日も、不承不承ながらも“自称”ちゃんアンジェリカからの協力さそいを請け、シェラザードは依頼クエストの一つをこなしていました。


……が―――


「(……っったく、なああ~~んで私がこんな事を゛~~!(イライラ) それに、“自称”ちゃんこいつったら~~~!(イライラ)

なぁ~にが……


『斬るでヤ~んす☆』

『突くでヤ~んす☆』

『避けるでヤ~んす……と、思わせてか~ら~の~~足下をすくうでヤ~~んすッ☆☆』


てぇぇ~~他人をおちょくっとんのかぁ~!)」


“自称”を、天使騎士と言っている軽装剣士アンジェリカ―――

何もふざけていたのは“自称”としている事だけではなく……なんとその“技名スキル”に関しても、他人への“イラ値ヘイト”を稼ぎ出している様でありまして……しかも、繰り出しているスキルの精度・性能も“優秀”―――とくれば、寛大なココロの広いシェラザードとてイラ値ヘイトは増すばかりのようではありまして……


「ムフフ~ん☆『達成S』だってえ~~あげぽよ~~♪」

「―――……。」

「あれぇ~?どしたんですかあ~?シェラさぁ~ん、機嫌悪いですよねえ~?」

「ふぅ~ん、判るんだ……“自称”ちゃんあんたにも……ま、私が“イラっ”と来てるのはなまじっかあんたの所為せいだけでもないんだけどね。」

「ほえ?私の所為せい……だけじゃない?」


シェラザードがいつにもまして不機嫌な理由―――それは、“自称”ちゃんと厨二病華麗なる勘違い野郎共と付き合い始めた頃からでした。

自分がマナカクリムのギルドマスターの“お使い”で鬼人の郷スオウへと赴いていた時、自分が所属しているクランに損害を出させた者達……その者達が一体どう言った存在で、何の目的をして、自分の所属しているクランに近づいたか……それを探り出す為にこの者達とPTを組んだのでしたが―――それが運の尽き、だったのか……。

思えば、その時から付きまとう様になって来た……事実今も協力を請けざるを得なくなっているのも、まるで『駄々をこねるガキんちょ』の様に付きまとわれたから……

それもあるのでしたが―――実は……シェラザードの“イラつき”の原因はばかりではなく―――……

「(……)あんのさあ―――この前まであんたと一緒にいた、“誇大表現する厨二病”錬金術師は、どこ行った?」

「えっ―――私より、あの人の事、気になるんですかぁ~~?しょんなあ~~この私のどこが気に入らないって言うんでぷかあ~?私……あなたに、あんなに尽くしたのにぃ~~私とは所詮“遊び”だったのねえ~~?」

どぉわぁ~れがそんな事言っとるちゅんじゃ~~い! て、か、毎度毎度同じ手で逃れようとしたって、逃れられるもんと思うなよ―――?」

「怒られちったあ~~さげぽよぉ~~★★★」

(イライラ)「一応さあ……他人には、限度―――てもんが、ある……てこと、知っとこうか? あ゛??」(イライラ)

「え~~~でも―――でもぉ~~あの人とはぁ~以前までの関係だったんだしぃ~~今は、ほら―――私もフリーランスで冒険者してる~~てなワケでして~~」(テヘペロ☆)


徐々に“スゴ味”を増してくるシェラザードの態度……けれど、そんな彼女を前にしても顔色がんしょく一つ変える事もなく“自称”ちゃんはまかり通る―――

これは余程“対人能力コミュ力”が高い―――と、言わざるを得ませんでしたが……

どこか“空”を―――“水”を……掴むかのような感覚にも似ていた……


そこで―――切り口を変えてみて……



#47;魔界せかい真理ことわり



「ま……あんたの事は、ひとまず“優秀”―――てなのは、認めよう……。」

「認めてくれるんでぷかあ~?ヤター☆♪」

「だから、そろそろあんたが『何者』か―――教えてもらえない?」


「……えっ―――」


「あんた……“達”ってさあ―――誤魔化すってことにかけては……他人ひとを欺く事にかけては私達よりも“巧み”―――なんだよね……ここ最近、あんたの方でも妙には思わなかった?こんな私でさえイラついてんのに、あんたからの“協力おさそい”、請けてる……って事に。」


シェラザードが“自称”ちゃんアンジェリカからの協力を、“不承不承”ながらも請けていた―――と言うのは、理由がありました。

それは、自分自身がイラつきながらも、ストレスを溜め込みながらも……どうしてもシェラザードのなかわだかまった部分を、すっきりとさせる為―――


そう……


『シェラザードのなかわだかまった部分』―――


態度としてはお道化ふざけている反面、気付いてしまった―――


「へえ~~…………私―――“達”…………が? 誤魔化す―――…………どうして、そう思っちゃったんです?」


「『あの時』―――だよ、この魔界では見かけたこともなかった得体の知れない魔獣……そいつらにここが襲われた時、いつもお道化ふざけていたあんたはそこにはいなかった……」


“その時”までは、“いつも”のように、他人を“イライラ”させる態度に言動でしかなかった……


“いつも”のように、『間延びした語尾』―――

“いつも”のように、『不必要とも思える、身振り手振り』―――


戦闘時でも、真面目にやっているか疑わしいまでなのに、繰り出す技は隙さえ見せない―――



けれど



確信を衝くような質問を投げた時―――

目の前にいる“自称”ちゃんの口元が“微笑”をたたえ始める―――


それは、“なぎ”から少しばかり風が出てきて、ザワつき始めた水面にも似たように……


すると、アクアマリンの軽装剣士は、“パチン☆”と指鳴りをすると……


「フフフフ―――さすがね、とは言ってもそれまでに“ヒント”になるようなものは出し過ぎちゃった事もあるしね……。」


「(えっ……)今―――何をしたの?」


「『隔て』たのよ、“私達”と、“他の人達”とを―――なぜ、そうするのか……って? だって、これから話してあげる事は“他の人達”にとって必要のない事だもの。   けれどあなたは、“私”や“彼女”の正体に気付き始めてしまった……ええ、全くもって“そう”よ―――“こちら”での私達は私達本来の正体を判り難くするため“敢えて”“繕って”いるの。 それに“あなた”に関しては最初に協力してもらった時から『マスキング』をしなかったの―――」


「『マスキング』―――?!」


「“記憶の錯綜”……と言ってしまえばいいのかしら?あなたも、もう判り始めているように、この世にある“真実”には“不都合な部分”は沢山ある……。」


やはり―――そう言う事だった……

自分達のクランに損害を与え、その調査をする為に協力をしてあげた時も―――

また、『未知の魔獣』に街が襲われ、その対処に追われていた時も―――

“水の人”と“自称”ちゃんが同一おなじに見えてしまった―――……

それからも、不承不承ながらも協力を請けてきたのは、“自称”ちゃんの正体しっぽを掴む為……


けれど、相手の方が一枚も二枚も上手だった……


この人は、自分が抱いている疑問など最初ハナから判っていて、それでも“敢えて”、“いつもの”擬態を繰り返していた……

ではなぜ、“彼女”は、こんなにまで回りくどい事を―――?


「一応……この事だけは、言っておいてあげるわ。 『私は、あなたを、諦めない』―――“今”はある『御方』が欲しているあなたをどうこうしようとは思ってはいない……けれど―――だったら今、私が出来る事を……この“強烈過ぎる印象“自称”ちゃん”を、与えるだけに留めておく……。」


「『刷り込み』―――?」


「ええ……“今”の私が出来る事は、これが精一杯―――今の世はさきの魔王が討ちたおされてより多寡だか350年――― 一応は、“力の均衡”は取れているの。」


(ゴク・・・リ)「力……の、均衡―――」


「知らないの?この魔界には〖神人〗〖聖霊〗そして〖昂魔〗―――と、支える三つもの『柱』が存在してある……私は、その内の〖聖霊〗という“派閥”に属している『神仙族』の一人―――『竜吉公主』よ。」


『隔て』られた空間のなかで、“真実”は語られ行く―――

すると、“いつも”お道化ていた『ヘラ顔』の彼女アンジェリカはどこへやら。

この街を襲いきた“超”獣達を殲滅させた時でさえ、見せなかった実態―――

その種属のNo,2とまで言われた、本来の彼女竜吉公主の素顔が覗いて見えた……


それに―――


「それに……安心しなさいな、何も私もここで強引に出てあなたに嫌われたくはないもの。」

「(嫌われたくない?私に―――?)なぜ、そんなにまでして―――」

「(……)あなた―――“あいつ”から何も聞いていない……教わっていないのね? 全く―――これだから……」


これまでにも、ウザったくなるように纏わりついてきた、“自称”ちゃんアンジェリカ……

手を煩わせるものの、どこか憎めない―――それはそれで判ってきたのでしたが。

彼女自身も口にしたように『あなたには嫌われたくははない』―――なぜそうまでして自分にこだわるのか……その疑問を口にすると、“あいつ”―――ヘレナがどこか大事な情報ぶぶんを敢えて口にしないようにしている……?


すると、“水”を操ることにかけては右に出る者がいない実力者から、『こんなこと』がもたらされる……


「ねえ?あなた――― 一つ聞くけど、この魔界せかいに於いて『絶対的な権威』をお持ちの方の事を……知っている?」

「(この“魔界せかい”の―――“絶対的”な……?)けれど……―――って!!?」


        * * * * * * * * * *


処一方―――『天使族』の“領域”である『エデン』にては……


「ウリエル―――」

「なんでしょう、ガブリエル―――」

「どうやら『神仙』の“公主”が、グリマーとの接触を濃密にしているとの事ですが……」

「(……)まあ―――さきの戦争に於いても、一番の被害を出した“陣営”が〖聖霊あそこ〗でしたからね、それにエルフは〖聖霊〗に属しますし……アドバンテージは自分達にこそあると思っているのでしょう。 しかし、焦って事を為そうとしてしまえばいずれどこかで破綻を来たしてしまいます、フ・フ・フ―――“狙い目”はそこですよ……」






つづく

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