第48話

この、魔界に於いての―――


     絶大的――————―   絶対的―————――


な“権威”と“権力”を与えられた者……


この印象を与えられてシェラザードが辿り着いたのはたった一つの存在でしかありませんでした。


けれど―――


同時に“その存在”は『緋鮮の記憶あのお話し』では徹底的な“悪役”として描かれていたのです。

かつて【緋鮮の覇王ロード・オブ・ヴアーミリオン】達が少なからぬ犠牲を払いつつも討伐うちたおす事が出来た存在―――


それこそは…………



#48; 魔       王



「(この魔界せかいの……“絶対的”な―――?)けれど……“それ”っ―――て……」

「判るわ―――その気持ち、判ってはいるけれども口には出来ない……なにしろ、私達が力をあわせて討伐うちたおした存在こそ、あの当時の『魔王』―――『ルベリウス』だったのだから。」


この魔界せかい“全体”の『王』……それは、一種属の王族たるシェラザードの比ではありませんでした、そう……『この魔界せかい“全体”の王』―――と、言う事は、魔界全土に住む“各種属の代表自分達の王”―――の、『代表』……


それを―――『討伐』??


では、『緋鮮の記憶あのお話し』はその解釈をたがえると……


           ――世界の王にあらがった者達の物語――


             ?   ??   ???


「あなた……何を惑っているのか判らないけれど、勘違いはしないで頂戴。」

「えっ??でっ―――でも……」

「ショックなのは判るわ、第一この話しを持ちかけられた私達でさえ当初は耳を疑ったものだもの。」


『世界の王にあらがう』―――言わば『反乱記』『叛逆記』……そうとも取れなくもなかった、けれどアンジェリカはまず“その事”を否定しました。

そして自身も、この話しをヴァーミリオン達から持ち掛けられた時『正気の沙汰ではない』と思ってしまっていたのです。


けれど―――


「私も、にわかには信じられなかった……だから、ヴァーミリオンに説明を求めたの、そしたら彼女は―――」

「何と仰られたんです―――?」


          * * * * * * * * * *


「“公主”―――そなたにも感じぬか、の時代の異常を……」

「確かに……異常その事は私も耳にするわ、けれど―――魔界せかいの王たる御方にそむくとは!!?」

「その魔王自体がゆがんでしまっているのだ。」

「はあ?なぜそのようなことが……」

「この私が交流を深めてきた……そうだな―――『盟友とも』としておこう、その方からの指摘があったのだ。」


ゆがみ始めたこの魔界をただす方法はただ一つ……今代の魔王を討伐うちたおす必要がある―――何しろこの異常のもとが『魔王そこ』なのだからね、だから……盟友ともよ―――この私からの頼みを受諾してもらえないか、そして君達が魔王を討伐うちたおした暁には―――この私が成ろう……次代の魔王に。』



この時―――真実は明かされる……『緋鮮の記憶あのお話し』の“導入部”にもあった『知恵ある者の“導き”により』―――その『知恵ある者』こそ、今代いまの魔王―――


けれどしかし??


「あのっ―――ちょ……ちょっとごめんなさい……さすがに、ちょっと理解がおっつかない―――って言うか……」

「そうね、“それ”が『普通』の反応よ、第一『この魔界せかい“全体”の王』―――と、言う事は、数あるこの魔界せかいの種属同士の“意思”を統合し、理解し、そして調和させる……その上で不平等にならない様に利益を分配させる……350年前以前の魔王ルベリウスもまでは『名君』と讃えられてはいたけれど……“ある時点”をして『豹変』してしまった―――」

「それじゃ……『緋鮮の記憶あのお話し』って―――」

「そう……人が変わってしまった魔界の王のお蔭で私達の暮らしぶりも激変してしまった……富める者は更に富め―――貧しさにあえぐ者はより苦しめられた、私達とてそうした者達に救いの手を差し伸べたかった……けれど、それは同時に魔王への反逆行為―――“謀反”に他ならなかった……しかも、私達『神仙族』は〖聖霊〗と言う“派閥”の代表格でもある、そんな私達が義憤とは言えそうした行為に及んでみなさい、結果どうなってしまうか……たった一人の軽挙妄動によって“派閥”全体の種属達に迷惑をかけてしまう事でもあるのよ。」


『緋鮮の記憶』本編でもつまびらかにされなかった“裏事情”……


なぜ、ヴァーミリオン達が魔界の王でありながら“悪”と成ってしまったルベリウスを数多あまたの困難を乗り越えて討伐したのか―――

けれど、知れば知るほど、矛盾点は視えていく事となり……


「でも、それってちょっとおかしいんじゃ??あなたの言っている事が正しいとしたら、だったらなぜ……鬼人オーガであるヴァーミリオン様や、ヒト族であるリリア様やホホヅキ様、それに獣人族であるノエル様が……」

「答えは簡単よ、現在ではそんなにまではないけれど、あの当時はそれは種属間の隔たりと言うものは酷くてね……」

「えっ―――」

「そう言えばあなた……ヴァーミリオンの“郷”に行ったんですってね、それでどうだった?鬼人オーガ―――」


そこで、初めて気付かされる事となる―――

マナカクリムのギルドマスターであるノエルからの“お使い”で“鬼人の郷スオウ”へと行くことになった当初、付いて回った風聞もありエルフである自分がどうにかされるのではないか―――と、気を揉んだものでしたが……スオウの門を潜った時こそ“視線”に晒されはしたものの、あの郷に身を置いているリリアやホホヅキのしつけが行き届いていたからか……それとも、郷の英雄のお蔭もあったからなのか―――それとも、ノエルから手渡された『徽章エンブレム』のお蔭もあったからなのか、特段として自分に害が及ぶことはなかった―――

それどころか、リリアからしごかれた後に催された宴会では皆で肩を並べての―――


あ……れ?  どうして今まで気付かなかったんだろう……  私―――あの郷の鬼人ひと達と……


「350年前当時は、鬼人オーガヒト……獣人や亜人は今ほど地位を与えられてはいなかったの、鬼人オーガは“野蛮”で“粗暴”―――ヒトは“貧弱”にして“軟弱”―――獣人や亜人に至っては奴隷にされることも儘にしてあった……あなた達の種属であるエルフがいまもって彼らの事をさげすむのはそうした事が原因でもあるからなのよ。」


その“現実”を突き付けられると、シェラザードは……ただ、ただ―――沈黙するしかありませんでした。 そして、同時に“こう”思いもしたのです。


じゃ……あ私、クシナダやヒヒイロ―――ひいてはササラに、無意識に失礼に当たるようなことを……していた?


自分では、そんな風に振舞った無意識に失礼に当たるような覚えはなかった……のに―――?“受けた”側は、果たしてどうだったのだろう……

すると、そうした彼女の顔色がんしょくを読んだのか―――


「多分、あなたが心配しているような事はないと思うわよ。 だって、先程述べた印象はくまで“あの当時350年前”のモノだもの。」

「えっ―――……」

「今の、こうした“ご時勢”に変わった転機が350年前―――あの当時……『角ナシホーン・レス』とさげすまれた『ヴァーミリオン』、『凄腕の傭兵』として名を馳せた『リリア』、『巫女』だてらに刀を振るい、流血の味を覚えてしまった『ホホヅキ』、『盗賊の首魁』として他人の生命や財産を軽んじる『ノエル』―――……本来なら、同じ道を―――志を同じうする事なんて莫きに等しかった彼女達をある“異質ヘテロ”が一つとしてくれた、その“異質ヘテロ”の名こそ『ローリエ』―――エルフにして、その王族でありながら唯一“差別”をしなかった者……」

「ローリエ様が……ヴァーミリオン様達を―――」


今でこそ、『緋鮮の記憶あのお話し』により“英雄”としてまつり上げられた者達……その“前身”―――ゆがんだ世界だからこそ、ゆがんだ評価が付いて回る、あのお話しがなければ世間の鼻つまみ者のままで一生を終えたであろう『緋鮮の記憶』の登場人物達……

けれど、そこに投げ入れられた“ヘテロ”―――その“ヘテロ”があったからこそ、“波紋”は広がり————やがて彼の者達は“英雄”と成る。


しかし、ならば……どのようにして“ヘテロ”は投げ入れられたのか―――



お話しその舞台は一路『過去』へ―――






つづく

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