第46話

「あの“権能チカラ”の在り方―――」

「ササラ、知っているのか?」

「はい―――この私の身には“天使”の血が流れています……そして、天使のなかには“水”の顕現チカラを行使する方の事を知っています、その御方こそは“水”をつかさどる四大熾天使―――『ガブリエル』様……けれど、あの『水の人』は見ての様に天使としてのていを成していません、するとならば―――あの『水の人』こそこの魔界を支える“三柱みつはしら”が一つ、〖聖霊〗に属しその派閥を統括する『神仙族』がお一人……その実力は“おさ”たる者に次ぐとされている―――」



#46;竜吉公主



そのを、ある『お話し』の愛読者であった者は、知っていました。

その、ある『お話し緋鮮の記憶』に斯くあり―――



〖その者、清流を思わせる透明感のある“水色”の髪をし、靜やかなる湖底を思わせる“群青”の眸、その肌は肌理きめ細やかな“白砂”を思わせ、身を包む装束は“瀑布”を思わせる。 しかしながらその者の怒りに触れるとそのおもては立ち処に『逆鱗に触れられた竜』の様に成ると言う。 しかして、その者のこそ竜吉公主。 く水の“めぐみ”を知り、またく水の“おそれ”も知ると言う。〗



その神仙の存在を、知ってはいました―――が、その記述はあまりなく、ただ主人公たる【緋鮮の覇王ロード・オブ・ヴアーミリオン】達が迷いの岐路に立たされた時“しるべ”を示す担い手として現れる事があった事をシェラザードは思い出していました。


そして―――『空想』が『現実』に……


しかしながら“戯れ”であった為か、“超”獣は仕留めるまでには至っていませんでした。 それどころか、奇異なる叫び声を上げ……


「ゲッ―――仲間を呼びやがった?」

「このままでは―――」


助けを呼び、自分の危機を伝えた……そして仲間の危機を聞きつけ、駆け付けて来たその数……『四』、たった一体だけでも討伐するのが困難な“超”獣が計5体、これでは水の神仙どころか自分達の身も危うくなってきた……

ここで“退く”か“留まる”かを選択しなければならない―――


だが、“それ”を―――


「“退く”なんて論外だよ……何も出来なくたって、この眼に焼き付ける価値はある!」


何が彼女を、そうまで言わせたのかは判りませんでしたが。

その彼女のげんが聞こえていたのか―――いなかったのか……そこは定かではありませんでしたが。

急に自分達を包み込む薄い水の膜の様なもの―――≪泡沫盒ほうまつこう≫それこそはやはり『霧露乾坤』の権能チカラの在り方の一つであり、保護に徹したるものだった……


ただ……そのことで―――


「あ、あっ―――竜吉公主様が!?」

「くそっ―――!オレ達はこのまま指をくわえて見てろってのかよ!!」


俄然、“超”獣達からの集中攻撃に曝されてしまった―――

けれど、いまもって、その“真の姿”までは、晒してはいない―――

この時点でも、まだ“水”の人型ひとがたのまま……


すると―――


{フ・フ・フ―――心ゆくまま、の身を斬るがよい、砕くがよい、穿うがつがよい……今のは“水”に過ぎぬ―――水であるならば、斬れはしても断たれはせぬ、砕いたとて散りはせぬ、穿うがてたとてあなは開きはせぬ……}


『水』をたたえ、あがたてまつればその“めぐみ”は我らのかてとなると言う―――

あらゆる“生けとし生くる者”に、きるよろこびを与え、はぐくむ力を与える……

ただ、『水』を軽んじてしまえば、立ち待ちの内にその“おそれ”はありとあらゆるものを奪うと言う……それも、慈悲なくして―――“生けとし生くる者”達の生命を……その営みを。


その時の竜吉公主は、まさに“後者”でありました。


いくら“超”獣にその『水』としての身を削られても、まるで意に介さず―――

それどころか、その水は逆に“超”獣達を包み込んでしまった……


いや―――その表現は、いささかにして生温かった……

違うモノの見方をすれば、その『水』は―――“呑み込んだ”……


すると―――それをったが如くに……


{⦅済まぬ、我が“依り代”よ、代わってくれ―――⦆}

{⦅その声―――ヴァーミリオン? しかし―――なんで……⦆}


けれど、“その人”からの返答はなかった……が、どこか懐かしの“気”にてられたから覚醒めざめたか―――判ったような気がしたため、またも“あの術”は解放されることとなったのです。

そして、その呼びかけにより逆巻く焔と共に現出したる英霊エインフェリアル―――


{久方ぶりだな―――ヴァーミリオン……}

「そなたこそ―――竜吉公主。」

{しかし、またなぜ現出をした。 この程度の者共、一人では討ち払えぬとでも思うたか。}

「いや―――これは単に私の独断だ、今は英霊このような身に身をやつそうともこの志はが為に捧ぐものか、 知らぬはずはありますまい?」

{フ―――……まあ、そう言う事にして遣わそう……}


緋鮮の覇王ロード・オブ・ヴアーミリオン】も、竜吉公主も、互いの事を知り過ぎるくらいに知り過ぎていた……その同じ時代を生きてきた―――時を紡いできたからこそ、繋がり合う気心……これから、互いが何を為すべきかその言葉を口にせずとも伝播する感情…… それは例え、”未知なる魔獣”が複数いたとはしても彼の2人にしてみれば“三下Mob”も同然―――

【緋鮮の覇王】の焔の剣閃が舞う反面、【“水”の神仙】竜吉公主の権能チカラが展開する―――その権能【霧露乾坤】により巨大な水柱が6つ……立ったかと思うと、6つもの水柱はやがて1つに集束され……


うぬらの薄汚い面はもう見飽きた……故に―――が水の“おそれ”が一つ、『圧』の力に依りて潰れてしまうがよい……醜い虫けら共め―――!}


※≪水禍大瀑布≫

すくいの水の“圧”は、そんなには感じることはない……けれど、“大きさ”“量”“いきおい”などが加わると例え鋼鉄であろうとも原型を留めなくさせられてしまうと言う……


そう……“生身”よりも硬いとされている、“鋼鉄”であろうとも……


しかも“おそれ”より転じ、今や『竜』となりさらばえた水が襲いしは“超”獣といえど生物でありました。

こうして神仙の逆鱗に触れし者達は原型もとがなんであったか判らなくなるまでにされ、ここに一つの脅威が鎮められたことを識るのでした。


……が―――


「さすがですな―――良いものを見せてもらった。」

{栓無き事―――だが、この姿を眷属の子らにさらしてしまった……}

「なにを申されているやら、聞いていますぞ―――ベサリウスより……」

{あの者か……あの者は信用ならん、その事はそなたが一番心得ているであろう、ヴァーミリオン。}

「確かに―――あの者の甘言に惑わされ、多くの同胞や護らなければならぬ弱者の多くを傷付けられた、ですがな公主よ―――あやつは今、かつての存在とは違う……今はあのヘレナなのです。」

{(……)判っておる―――}

「それは重畳ちょうじょう―――ですが話しを逸らせてもらっては困りますな。」

{話しを?何のことか……}

「この“超”獣―――そもそもが、そなたらがいなければ這い寄る事はなかった……よもやこの私の盟友が為すべきことを妨げると言うのなら……例え戦友とてこの剣を向けねばなりませんぞ。」

{ほ・ほ・ほ―――戯れなるぞ、ヴァーミリオン……}

「戯れ―――?」

は、おさの意を汲み為しているに他ならぬ、それはそなたとて同じこと―――それを、そなたがの為す事に何を感じたのか、判らぬが―――まあよい、ここは大人しく下がらせてもらおう。}


そう言うと、まるで周囲に溶け込むが如く、その“水”は存在を薄まらせ、消えて行きました。


とは言えその場には、説明し難い現象に立ち合ってしまった者達ばかり……

だからこそ、事情をよく知っていそうな存在に―――と……


「あ―――あの~ま、またお会いしましたね、ヴァー……」

「ベサリウス―――そこにいるのだろう。」

『はいはい―――そんなおっかない顔をしなくても…』

「これでお前の条件は満たした、早急に引き合わせるのだ。」

『“条件”?ああ~一応は、ねぇ。』

「貴様……これ以上引き伸ばしてなんとする!ぐずぐずしているから“チョロチョロ”と嗅ぎ回る輩が出てくるのだ!」

『まあ―――お待ちなさいよ、あんたが『あの御方』の事をおもんばかって憤慨してくれてるのは有り難い…が、ならば、これまでの関係構築を『ご破算で願いましては』―――に、したいのかい?こちらとてタイミングを見計らっているんですよ、それも“早く”もなく、また“遅く”もなく……まさに“絶妙”と言えるタイミングを―――ね。』

今回の事の顛末を聞こうとしたシェラザードでしたが、事の一部始終を看過し続けてきた事を知っていたものと見え、ヴァーミリオンは少し強い口調でその者を呼びつけた……すると何処いずこからか姿を現せたヴァンパイアの公爵は『何か』をする為の“条件”が充たされた事を認めながらも、そのタイミングを見計らっているとしたのです。






つづく

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