第45話

その日は“いつも”と変わりありませんでした。

そう―――“あの時”が来るまでは……


         * * * * * * * * * *


その日は“いつも”と同じように長閑のどかな一日でした。


暖かな陽差しが照り。   風に草花がそよぎ。

清らかな水をたたえた川のせせらぎ……


いつもと       変わらぬ       日常―――


それが       突如       破られる……


その突端は新たなる魔獣の出現でした。


この魔界に於いては複数の特徴を持ち合わせる―――と言う『合成魔獣キマイラ』は存在していました。

頭には“獅子”“鷲”“山羊”の3つを持ち、胴は“山羊”、手足は“獅子”、尾は“蛇”―――と言うオーソドックスな『キマイラ』。


頭・前足・翼は“鷲”、胴・後足・尾は“獅子”―――と言う『グリフォン』。


しかし、突如として現れた魔獣はその“どれも”当てはまらなかった……

全くの“新種”にして、“未知”の存在……


「しかしまた、どうして―――?」


と、皆が惑う中、“ある者”が、その存在を知ったが如くに、“ぽつり”と漏らす……


「あれは―――『オピニンクス』?!あのレベルの存在が、もう……?!こうしてはいられないわ、早速報告―――いえ、今は撃退させるのが先決か!?」


普段は『天使騎士』を“自称”し、周囲からは白い目で見られていた者―――

しかし出現した『未知なる魔獣』を目にし“いつわり”の仮面が剥がれ落ちる……


「一体何の騒ぎ……うわっ?!なんだ?ありゃ―――……」

「あっ、エルフのお姉さん―――至急、この街の皆に避難を呼びかけて!」

「ン・ゲッ―――誰かと思ったら“自称”ちゃんか……それよりあんたも意外とまともな時もあったもんだなあ?」

「そんなことはいいから―――」

「はいはい、皆に避難の呼びかけね……それよりあんたはどうすんの?」

「私は―――この先にいるかもしれない、逃げ遅れた人達がいないか確かめてくるわ。」

「(……)OK―――じゃ私はクランの皆に話しを通しとくよ。」


街の異変の確認を―――と、出会ったのはシェラザードでした。

そんなシェラザードも、自分も見たこともない“超”獣には驚いたようで、そこでアンジェリカは人命第一を考え、住人への避難の呼びかけをしてもらうよう頼んだのです。

その一方でアンジェリカ自身は、自身の危険を顧みず避難先とは反対方向に進み逃げ遅れた者の発見と救助を目的としようとしたのでしたが……


自分と別行動をとる際、背中越しにアンジェリカを見送った―――

すると少しばかりアンジェリカが進んだ後、建物の大きな瓦礫が、落ちてきた―――


             ?   ??   ???


自身の危険を顧みずに行動を起こした者の安否を気遣いながら、シェラザードは彼女から頼まれた事を遂行するのでした。

そして通達したクランのメンバー達と、クランメンバーでありギルドマスターを母に持つササラの呼びかけによりギルド自体もその行動を早めてくれたおかげで予想よりも早く街の住人全員の避難を終えさせることが出来た……


だから―――


「シェラ―――どこへ行くと言うの?」

「アンジェリカを探しに行くんだよ。 あの子は自分の身の危険も顧みないであの先に進んだ―――もしかしたら助かっていないのかもしれない……けれど、助かっているのかもしれない―――あの子のやった事って『英雄』のそれなんだよ……私が目標に掲げ、その背を追い続けている【緋鮮の覇王ロード・オブ・ヴァーミリオン】の“それ”なんだ!」

「(……)判りました。 けれどあなた一人では手が足りないでしょう?」

「いいの…?死ぬかもしれないんだよ―――」

「一人寂しく死ぬよりかは、いいでしょう?それに……あなたばかりにいい恰好はさせないんだから。」

「(……)一言ヨケーなんだよ、あんたは……じゃ―――行くよ。」


「おい―――ちょっと待てよ。 1人よりかは2人……2人よりかは―――だろ?」

「そうですね―――」

「では、私も加わりましょう。 ですので、その間のここの防衛はお任せしますね、コーデリアさん。」

「(……)判りました―――私も眷属の子らを死なせるのは忍びませんから。 それに“アレ”は……まあとにかく、あなた達も死なぬようお気を付けを。」


街の住人全員の避難を確認すると、安否が気遣われる者の捜索をしようとするシェラザード。 すると、彼女に協力を願い出るかのようにまず“悪友クシナダ”が同調をしてくれた……それが契機となり、続いてヒヒイロカネやシルフィ、更にはササラまでも―――けれど、自分達が抜ける穴を埋める為にと目を付けたのはコーデリアでした。


しかしながら……コーデリアは、こう思ったのです。


「(フフ……見事、“あなた様”に出し抜かれてしまいましたか―――しかしまあ……なんと美しい事か―――未だ明かす事すら叶わぬ我らに尽くしてくれると言うのだから……)」


はっきりとしたことを述べるのならば、今回に関しては人的被害は出る事はなかった……なぜならば、避難を完了させている住人達は“地”をつかさどる『四大熾天使』の庇護の下にあり―――また、『未知の魔獣』を相手にしているのは……


         * * * * * * * * * *

「アンジェ~~!どこ~~―――!?」

「おい、アレ―――!」

「あの子の装備の一部だわ??」

「そんっ……な―――」

「くっ―――!」

「(あ……)どこへ行くと言うの―――シェラ~~!」


「(!)水……―――皆さん、お気を付けを!水です! 水……が―――」


“未知なる魔獣”の被害に遭い、所々に散見される瓦礫……そのなかで、危険を顧みずに逃げ遅れた住民がいないかを確認しようとした冒険者の装備の一部が発見され、思わずも想像したくない事を想像してしまった―――だからシェラザードはその冒険者の安否を祈りながら、また無事であることを希望しながら先に進もうとしたのですが……。

ふとした時に、現場には“水”が確認された―――

それも“水溜り”や“ぬかるみ”が、1つや2つではない……やもすれば後処理が大変になるまでの“水気”を多く含んでしまったこの場所―――その事にササラは気付き、注意を促せる意味もあって口にした……


その瞬間―――かけられていたタガが外れる……


「(周辺に“水”―――この状況、あの時と全く同じではありませんか! なぜ……今まで見落としていたのでしょう、あの時あれ程までに話し合っていたと言うのに……

不思議なまでに残された“水溜り”や“ぬかるみ”―――

不自然なまでにその死体に遺された爪痕―――

なぜあれ程までに圧力にけ、身体中の水分が失われ、鋭利なモノで斬り裂かれ、逆位置の負荷によって捩じ切られたのか―――その総ての原因が“水”であることを!)」


魔界にある『魔法』に通じ、時には『天使言語術』さえ操ると言われている【黒キ魔女ササラ】ですらも、記憶の迷路に落とし込まれてしまった―――


しかしそれも、今思えば不自然ではなくなった―――


それが出来るのは、“眷属”たる獣人族では、ない―――



#45;“水”の畏れを体現せし者



すると―――

              {顕現せよ}


……と、何処いずこよりの言葉に応じ、沸き立つ“水”がありました。

そう……―――の、“水”……

そしてその“水”は、瞬くの間に人型ひとがたを形成し、その人型大ひとがただいとしての“大きさ”、“形状”を保ちながら“超”獣に相対あいたいすると……

『その者』がほんの少しばかり“念”を込めると地に潜んでいた水が浮き上がり……そしてまた少しばかりの“念”を込めると水は回転まわりながら『』を形成―――やがて『』は、紙よりも薄くなり―――ながらも、その回転速度はさらに早まり、周囲の岩や木々を斬り裂き始めた……そのことによりその『薄き水の』の強度が岩や木よりもある事を知らしめられたのです。


しかし、その事を見せられた―――


「(“水”が……物体を斬った―――?!しかし……これで“水”によって斬り裂かれた遺体の謎が解けました……すると、やはり―――この一連の事象を起こした“張本人”は……。)」


その時見せられた権能チカラの有り方により、判ってきたことがありました。

“あの”不可解な“水溜り”や“ぬかるみ”も―――

“あの”不自然な死因の遺体も―――

総ては“神の域”に近しい権能チカラを有するこの『水の人』だったと言う事を……


すると『水の人』は“戯れ”であるかのように手をかざし―――軽く振り払う諸動作をした……“それ”に応じるかのように『薄き水の』は、“超”獣を斬り裂いた―――


≪水環斬≫

その権能チカラの行使こそは、その『水の人』の持つ≪霧露乾坤むろけんこん≫と言う、その者が持ちし固有の権能チカラだったのです。






つづく

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