第34話

敵軍の計略により前衛と後衛を分断されたノエル達のPT……

その危機を覆すべく前衛に援軍となって現れたのは、このPT内で“回復役”の一人として活躍をしていた『ローリエ』なのでした。

それにこの時ローリエは、前衛後衛を阻害している敵兵を……


「〖土の力よ、石塊いしくれの畏れよ、我が呼びかけに応じ、穿うがつ力と成れ〗―――〖クラスター・レイン〗」


戦場に散らばる数多あまたの“つぶて”が、術師の力に呼応し一転して襲い掛かる“驚異”となる―――それもさながらにして、前衛に追いつくなり……


「〖癒しの力よ、傷を負いし者に救いの手を、その段階を一つ上げよ〗―――〖キュア・ブライトヒール・プラス〗」


的確な判断力で負傷し疲弊した仲間達を癒す手となりえた―――

しかしながらそれは、味方にとっては救いの手とも言えましたが、反面敵としては……

「ンぬううう―――……あと一息で、オーガ率いる部隊の一角が崩れていたものを……」

「(!)いけませんローリエ!あまり前に出過ぎては!」

「余計な口出しを!ええい―――先にお前から始末してくれるわ!獣人のチビめ……」


『あと一息で―――』その魔王軍大幹部、『将軍』の一言は“いつわり”ではなかった……この時ローリエの到着があと数分おくれていたら、前衛の全員……ではなくとも、少なくとも一人ノエルは失われても不思議ではなかったのです。

けれども、その機会が失われてしまった……とでも言う様に、殺害の対象を女性エルフに差し向ける『将軍』……しかし、またしても、魔王軍側からしてみれば面白からぬ言動があった為、殺害対象が切り替わる―――ものの……

「あっ! うっっ―――くうっっ……!」

「ちょこまかと!その場に縮こまっておれば苦しまずに死ねたものを……だがまあいい―――今や敏捷性を欠いた【韋駄天ストライダー】ほど畏るるに足りぬ!」


“黒豹”―――であるがゆえの、敏捷性があるが為……ノエルのスキルは重宝されました。

しかしそれも、『敏捷性があるが為』。

その時上手くかわせたと思っていたのに、足を掠めた刃は大傷となり大量に流される血潮……


今や、もう―――ここにノエルの“運命”は、定まってしまいました。


敏捷性を欠いてしまった彼女ノエルには、『将軍』からの兇刃にあらがうべくの術は、ない―――……

けれど仲間は―――【清廉の騎士】や【神威】は、自分達も『将軍』の配下を相手としながらも、仲間を見捨てようとはしなかった―――


見捨てようとはしなかった―――けれども、“手”が足りない……


【清廉の騎士】は片手間でも≪晄楯こうじゅん≫を展開しようとしていたし、【神威】もまた、障害を討ち払うべくの≪鬼道術≫を展開しようとしていた……


しかし“片手間”でしのげるほど、魔王軍は甘くはありませんでした……



だから―――こそ……………



「ヌハハハ―――死ねぃ!」


            ――【韋駄天ストライダー】ノエル――



#34;ハナ………手折れるタオレル  トキ



『最早……これまで―――』

と、ノエルが観念した、その時………


ノエルの目の前を、大きな影が塞がりました―――


そして、飛び散る………大量の血飛沫ちしぶき―――



   大きな


           一つの影が


                       二つに割かれた時


ノエルは、その名を叫びました―――………


「(ロ……)ローリエ……………?」


イヤ……………


            イヤ―――



       イ  ヤ  ァ  ア  ア  ア  ――――!!


ノエルが、『将軍』の手にかかろうとしていた時、彼女の身代わりとなって果てた存在がいました……


その、名こそが『ローリエ』―――……


エルフ王国、『エヴァグリムの王女』―――


者……



彼女の上半身は


               遠くに離れ――――――


傷口からは

                 赤黒くなった血が流れ出していた……………


大きく損傷してしまった臓腑は


                  むごたらしくも覗いて見え


今や【美麗の森の民】とまで称された者の、見る影もなかった―――

しかも、身を挺してまで救ったはずのノエルの危機は、いまだ終わってはいませんでした……

に重傷を負い、しかもローリエの下半身が覆いかぶさり、更に自分の所為せいで大切な仲間を失ってしまった“自責の念”や、今までにない“恐怖心”を刷り込まれた事で戦慄わななくことしか出来なかった……


とは言え、こんな絶好の機会を、『将軍』が見逃すはずが―――ない……


「ハハハ―――! 死ねぃ!!」


           ―――お前がな……………


「ヌウッ?! 貴様―――ヴァーミリオン!」


「よくも私の仲間を……!貴様はこの世に、骨の一片も遺さん!」


  ≪フレイム・ストライク≫―――≪メルトダウン・シンドローム≫


“邪魔者”を討つ為に―――と、振り下ろされた『将軍』の大斧ターフ―

図らずも、“標的”としていた者の身体を分かつことはできませんでした……


が――――――


今自分が胴を断った存在も、魔王軍内で殺処分順位の上位であったがため、どこかしら溜飲りゅういんは下げられた様子となっていた……。

しかしながら当初の目的であった【韋駄天ストライダー】ノエルの動揺は鎮まっておらず、また自分の手柄も増やせると思ったためエルフの血を吸った大斧はまたもや大きく振り被られたのでした……


が―――……


ここでようやく、後方にて分断されていた本隊が追い付いた……

そしてそこで見る惨状にヴァーミリオンは激昂し、魔王軍大幹部の一人を猛火のなかに沈めた……

その意として、『燃え尽き、落ちた“核”はやがて、地の反対側に達する』とされている、“技”によって……


        * * * * * * * * * *


そして―――事の一部始終を聞き終えたシェラザードは……


「それが……ローリエ様の最期―――」

「彼女は、エルフの王族の身でありながら庶民である私達にも隔てなく接してくれました……そればかりか、こんな私の為に―――」

「そんな事は言わないでください。 その気持ち……私にも分かりますから。」

「そう……けれど、これだけは言わせて頂戴。 あなたの生命は、あなただけのモノじゃない……現にローリエを亡くしてしまったことは、この私の心……いえ、私達の仲間にも深く刻まれているし、逆に私があの時死んでしまっていたら彼女の心をえぐる事にもなっていたのでしょうから。」


現代いまにして知れる―――種属エルフ唯一の英雄の最期……

そして、―――変わってしまった、種属の体質。

当時の『王女』であるローリエの死が及ぼしてしまったのはPT内だけではなく、やがては王室内における“保守的”にして“日和見”体質を強くしてしまった……それに、身内に蔓延はびこる“悪徳の芽”はこれ見よがしにと浸蝕し、現在の王室はそうした者達の“傀儡”の何者でもなかった……


ローリエの死は、彼女自身の死―――だけではなく、その後のエルフの王国の運命をも変えてしまったのです。





つづく

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