第33話

なぜ―――ギルドマスターであるノエルが、エルフの王女一介ただの冒険者であるシェラザードのもとを訪ねてきたのか……それにはある理由があるからなのでした。

その“きっかけ”となったのは、前日の―――“あのやり取り”の後、自宅へと戻ってきたササラをノエルが見咎みとがめた事から……


「―――あら、お帰りなさい。 ……どうしたの?ササラ、戻って来たのに何も言わないなんて……。」

「(……)お母上、お一つ、お聞きしてよろしいでしょうか。」

「(……)―――どうしたの……。」


ササラには、ある経歴がありました。

それも、出生にまつわる経歴が……


そう―――ササラは、その出生時、早産の所為せいもあり……


「お母上―――私がこの世に生を授かる時、“さある方”より血を分け与えられた……そう仰っていましたよね。」

「(……)ええ―――私はあの時……二度目の死を覚悟したわ。」

「二度目……」

「そう……一度目はあの魔王ルベリウスの大幹部の一人と死闘を交らわせた時、そしてもう一度はあなたの出生の折……私の身体は、魔王ルベリウス達との闘いに於いて酷使しすぎてしまった、本来なら子を為す事も無理と言われていた……けれど私は―――この世に“私”と言う遺伝子を遺したくて……ササラ―――“あなた”と言う子宝を授かりたかったのよ。」


ササラの母であるノエルには、過去に二度ほど生命の危険に係る事案がありました。


その一つが、当時の魔王軍との死闘の末に―――

そしてもう一つが、愛娘ササラを出産する折に……


しかも、後者は母子共に生命の危険があった。


けれど今、二人は生きている―――


             ?   ??   ???


その理由が明らかに…つまり『何者かによる意思の介入』があった事を示しているのです。


「当時―――いえ、これは今でもそうなのだけれど、この魔界せかいにおける〔三柱みつはしら〕の一柱おひとり―――【大天使長】『ミカエル』様……その方が、ご自分の血を早産の所為せいで圧倒的に血の足らなかったあなたの口に含ませたの。」


その“意思”とは―――この魔界せかいに於いての、『三』つの大きな権威……


〔聖霊〕〔昂魔こうま〕と並ぶ〔神人〕……


その統括である天使族の【大天使長】と呼ばれた存在―――『ミカエル』


その存在が、その存在の意思により獣人族の英雄の子を救った……

それはやはり、魔王を討伐してくれたことに報いる為であろうか……

それはそれで、納得できる理由ではあったのですが―――


するとササラからは、『やはり』との返答がありました。

その事をノエルはただして見ると……


「実は、今日―――ミカエル様に非常によく似た雰囲気を醸されている方とお会いしたのです。」

「(!)誰―――?」

「今、私が所属しているクランに以前から所属していたと見られる方……『吟遊詩人バード』のミカと言われる方です。」

「ああ―――あの人か……」

「ご存じなのですね?」

「ご存じも何も―――そのクランはかつて私も籍を置いていた処よ、それにミカは私達と同期のメンバー……それにササラ―――あなたが疑った様に、私達の時にもあの人の事を疑ったことがあるの。」

「そう……なのでしたか―――」


やはりササラは、ミカと初対面をした時からその『吟遊詩人バード』の事を自分の生命を救ってくれた大恩人と結びつけをしようとしていたのです。

だからこそササラは当事者の一人でもある、母ノエルに確認を取りたかったのです。

しかしながら、ノエルと同じクランに所属していた『吟遊詩人バード』の事を、ほぼ同じを持つ【大天使長】とひも付けを行おうとしていた経緯はあったようでしたが、結果を見れば―――との事だったようです。


それはそれで良かったのでしたが……


「それと、あともうお一つ―――お母上の最初の生命の危険に係る事なのですが……」


その事は……思い出したくても、思い出したくなかった―――

あれは、そう……当時の魔王大幹部との一戦に於いて―――


その当時ノエルは【韋駄天ストライダー】と呼ばれ、“黒豹人”の特性を大いに活かし“斥候”や“偵察”、“罠の敷設”など、どちらかと言えば陰で主メンバーを支える役目を負っていました。


そして―――ここに……運命の一人。



#33;“運命”前夜



「こちらへいらっしゃい―――ノエル、髪をかして差し上げるわ。」

「ありがとうございます―――『ローリエ』……」


その当時、【緋鮮の覇王ロード・オブ・ヴアーミリオン】が組んでいたPTメンバーのなかに、【美麗の森の民】と呼ばれていた女性エルフがいました。


名は、『ローリエ』……


そしてPTメンバーの誰もが……

いえ、この当時に於いて誰もが彼女の事を知っていた―――


次期エヴァグリム国王―――女王であると。


現代の世では考えられない……エルフの王族がなぜ、生命の危険が伴う冒険者と成り得ていたか……


これは、後世こうせいに明らかになるのですが―――そう、『シェラザードの日記』によって……


つまり、ローリエが生きていた時代より今世こんよに繋がる不安は、どこかしらあった……そう、『身中の蟲』と呼ばれる奸臣かんしんたぐいが、いつかは王族を―――王国をむしばんでくるであろう、予感を……

だからこそ、ローリエは自らが動き、その実績をして自分達エルフが優れている事を示したかった……


ただ―――その思惑は、彼女が思っていた通りには……なのですが。


閑話休題話しを元に戻すとして――――――


そう、その時代の誰しもがローリエがエルフの王族であることを知っており、誰もがその慈愛を求めてきた……


彼女は、例え誰であろうが“差別”をしない―――

多少の無礼があろうとも、寛大とも思えるまでに許せていた。

それに戦闘に於いても一流で、時には攻撃魔法で―――時には回復魔法で―――PTの要ともなっていた……


けれども、やがて『運命の日』は訪れる―――


身分の貧富であろうが、実力の強弱であろうが、“平等”に訪れる『運命』―――


すなわち『死』である……


その日ノエル達は、魔王軍大幹部である『将軍』と激しい戦戟を交らわせていました。


              ≪影殺;畜生道≫

「後方との連絡は、まだですか―――!?」


               ≪晄楯こうじゅん

「分断されたみたいだ―――さぁっすが、魔王軍『将軍』……その肩書は伊達じゃないみたいだね!」


             ≪一閃;流仙月華≫

「ただローリエがこちらに向かってくれているようです。」


魔王軍『将軍』の奸計により、前衛と後衛を分断されてしまったノエル達……

前衛には“隠密”や“暗殺術”を極めた【韋駄天ストライダー】としてのノエル―――と、前衛に於いて味方の“壁”役をこなす【清廉の騎士】―――や、時には剣、時には修めた術式で闘う【神威】が、いました。


けれどこの三人では、その傷を癒すことなどできない……

『回復役』の不在―――

そんな時、応援に駆け付けようとしていた者がいた……

それがこのPTの回復役の一人でもあったローリエだったのです。





つづく

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