第35話

マナカクリムのギルドマスターの突然の来訪と、衝撃の告白により自分の先祖に当たる方の凄絶な最期を知ることとなったシェラザード……でしたが、その時分じぶんに自分がギルドマスター自身の最高の友人と“同じ”……つまり、エルフの王族出身であることが知れてしまうと―――


「ええ~~っ?なんでえ~?このクエスト受けちゃいけないワケェ~?」


何分なにぶん、ギルドマスターよりの指示ですので……」

「その理由までは、判りませんが―――」

「特にあなた様が危険を伴うクエストを受けそうになった時、受け付けることを止めよ―――と……」


オイオイオイ……これじゃ城にいた頃とナンも変わんないジャン?

とは言え~~少なくとも私が『王族だ~』って事を知らせないだけ感謝しないといけないんだろうなあ~~


彼女自身の正体―――つまり、『エルフの王女』であることがギルドの管理者に知れてしまった途端、シェラザードは高難度のクエストが受けられなくなったのです。

しかしこれでは、王国の城にいた頃と変わらない……『過保護』に程好く似通っていた為、愚痴をたれるしか他はなかったようです。


思わぬ弊害―――先祖の死の詳細が判ったときには感謝したものでしたが、こうまで気遣われてしまっては以前の“束縛”と何ら変わりはない……

おまけに、クランのPTでクエストを行おうとしても、自分だけハブられるし―――しかも、“悪友クシナダ”のニヤついた表情かお……


チ……ムシャクシャするわ゛あ゛~~~!

……んにしても、クシナダめぇ~~

私がいない間に、ヒヒイロに、モーレツアターックかますんだろ~なあああ~~

ムキー!悔しいッたらありゃしない!!


つまる話し……今のシェラザードの憤懣ふんまんたるや相当溜っていたようでありまして―――

ところが……そんな時に―――


「ここにいたのね。」

「(あっ)ギルドマスター様……」


今、自分がこんなにまで暇を持て余し気味になった原因を作った人が、訪ねてきた……

一体―――何のために?


「うちの職員から聴いてね―――私も第二のローリエを作りたくなかったものだから……けれど、それは逆にあなたを“束縛”するものでしかなかった―――そこの処は反省しなくちゃね。」

「(あ~~)は・あ―――……」

「それで……ね、お詫びの意味も込めて―――なのだけれど、私からの“お使い”を頼まれてもらえないものかしら。」

「(……)あなた様からの―――“お使い”?」


こんなにも、ていよく謝られたら責めようにも責められない―――と、言った処か……

しかもギルドマスターからはクエスト―――ではなく、“個人的”にして軽微な“お使い”を申し込まれたのです。


しかして、その“内容”とは―――


「(……)この―――“お手紙”を?」

「それを、私の友人に手渡して欲しいの。」


ふゥ~ん……こーりゃ確かに、“お使い”だわねぇ……

けど、ま……暇してるよりは幾分かマシ―――か、な。


ノエル自身がしたためた“手紙”を、ノエル自身の友人に送り届ける―――だけ……

確かに、クエスト未満のにもならない“お使い”だった―――


けれども??


その……ノエル自身の“友人”がいる場所―――とは……



#35;鬼の郷スオウ



「(ふえっ?)オ……オーガ―――?!」


その、場所こそは“オーガの郷”と知られている『スオウ』……

しかも以前にも語られた様に、オーガは他種属との交流はほとんどなく、更に言えば自分達の種属エルフとは、“ゴブリン”“オーク”以上に険悪だった……


そんな処に―――自分が?


とも、思ってしまったのでしたが……


「そこは大丈夫よ、あなたには『コレ』を預けておきますから、もし彼らに絡まれそうになった場合に見せなさい。」


ギルドマスターから貸与たいよされた『徽章エンブレム』―――

果たして“こんなモノ”が冒険者以上に気性の荒いオーガの連中に何ほどの役に立つか……とも、思われたモノでしたが―――

いや、それにしても……黒豹人族であるノエルの“友人”がよもやオーガだった―――とは??


それはそれで、“半分”正解だったのです。


それとして……目的地に着いたシェラザードは―――


うっはァ~~……郷の門潜った辺りから、スンゲェ~プレッシャー感じるんですけど……“こんなモンエンブレム”で私の貞操、守れるんでしょうねえ~?


か弱いエルフを、凶悪で知られるオーガが襲うのはよく聞く話……日頃はか弱いエルフ種属としてのイメージ―――とはまた一味違うモノイメージを醸すシェラザードであっても、この郷に足を踏み入れた途端“雰囲気”に呑まれてしまったのです。


すると……戸惑っている彼女に近づいてくる一人のオーガが……


「そナた―――オレ達の“カシラ”訪ねてキた?」

「(えっ?へっ??)い、いや―――その……“カシラ”って言うより、私達のギルドマスターの“友人さん”を訪ねて……」

「ふ・ム……なラ―――こっチこい。」


有無を言わさず暴を振るう―――そうした野蛮な種属ばかりだと思っていた……のに?

礼儀正しく客人を迎え、現在では自分達をまとめる“カシラ”なる者に取り次いでくれた……その時慌てて『ギルドマスターの友人を訪ねてきた』むねを話すのでしたが……


少し冷静になって来た処で―――……


……あれ? ちょっと待てよ??もしかすると~~その“カシラ”って人が、ノエル様のご友人??


そして―――案内されたところが、なぜか……『大衆食堂』?


「(へっ?ハレ??)ここ―――食堂?」

「“女将おかみ”―――! ご案内いタしやシたあ!!」


そこは……疑いようもなく―――紛れもなく……の、『大衆食堂』でした。

しかし?こんなところに種属をまとめる“カシラ”が?


―――と、そう思っていた処……


「おう―――待ってたよ。」


「ん?アレ??あなた―――ひょっとしてヒト族?」

「―――ッハハ!そうだよ、私はヒト族……んだけどねえ~“ある機会”をしてオーガの血をこの身体に受け入れる事になってね。」

「その話し……どこかで聞いたことのあるような?」

「私は、これからこの人と話すことがあるから後の事は頼んだよ……だからと言って……いいかい、お前達―――この私がいないからって手ェ抜いたりしたらタダじゃおかないからね!」


自分以上に気風きっぷがいい―――それに、その人自身が明かした事……その人自身は元はヒト族……だったのだと言う―――

しかも“ある機会”をしてオーガの血をその身に受け入れた―――この凶悪な種属をよろしくしつけていると見られる『女性』……

けれどシェラザードは、どこか『その話し』を聞いたことがあった感じがした……


そしてこの後―――知ることとなる……

ギルドマスター・ノエルが、“お使い”をお願いした理由と、、この地に棲まう―――生ける伝説を……。






つづく

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