第21話

“それ”は、今回の行動の為に『身代わりシルフィ』を立て、城の外での状況を把握すべく……に、至るまでの動機が詳細にわたってつづられた、『ある日』の項でした。



#21;X-デイ決行の日



×/×

今日は少し、これまでとは書いてきた事とは違う事を主旨としたモノを書いておこうと思う。

なぜなら“おやじ”のヤツが、どこか勘付いてしまったようだから……



“それ”は、『異変』―――

それと言うのも、その項以外では触れたことさえなかった“おやじ”……

いや―――ここでは王女シェラザードの実父と言える『国王』の記述が初めてなされていたのです。

けれどそう―――この日記の内容を見てきたシルフィなら、こんなにも正しいことを行おうとしている王女の……

一番の理解者であるはずの―――……

本当の……肉親であるはずの―――…………


「(え……っ、ど……どう言う事―――??)」



私の“おやじ”……実の『お父様』である国王こそは―――

いつも私の身の回りの世話をし、『側仕え』となっているセシル……

本当に情けない―――私は確かにエヴァグリム正統の血を引き継ぐ『王女』だけれど、残念ながらおやじは正統な血を引き継いでいない……そう、“入り婿”なのだ。

つまり、エヴァグリム正統な血を引き継いでいたのは私のお母様である『ヒルデガルド』その人であり、そしてお母様はあのお話し『緋鮮の記憶』に登場してくる【美麗の森の民】である『ローリエ』と言う方の姉……私は、その事を非常に誇らしく思っている。

けれど……お母様は、もうこの世にはいない―――なぜなら、悪徳が支配しようとしているこの国を変革かえようと行動を起こし―――だからこそ、“連中”に殺されたからだ。

“連中”―――そう……『伯爵』『内相』『財相』『男爵』『豪商』……

これらは主だった者達だけど、ここには書き切れないくらいいる。

それくらいこの国は根底から腐ってしまっているんだ。

だから私は、行動に移ろうと思う……もちろん私一人で事を荒立てたところで無駄死むだじに―――犬死いぬじにになってしまうことは目に見えている。

とは言え、このままでは何も変えられない―――以前アウラにも話しを付けたように『何も変えられなかったら攻め込んできていい』と約束をしてしまった。

はたから見れば、『またあの王女は考えもなしに』―――と、思うだろう。 ああ、まさにその通りだ……そこの処は別に否定しようとは思わない。


―――


そう―――打開する案は見えてきている。 それが10年前……この城を、不意に訪れた『吟遊詩人』が実に興味深い事を話してくれた。

なんでもこの城の近くに『冒険者』と言う人たちがひしめき合い、互いに協力をし、互いに信頼し合って暮らしているとの事だ。

私にとっては少しうらやましいことだった……彼らには、私にはない『自由』と言うものがあるのだから。

この国の王女として生まれてきた私は、城と言う『鳥籠』にも似た処に捕らわれ、知識も教養も、また身の自由さえもない―――そうした『束縛』された日々を送ってきているのだ。

話しは幾分かれたけれど、この時私はこう思った……

『もし彼らと苦楽を分かち合い、信頼を得られたのだとしたら……』

その時には、アウラにでも頼んでこの城を攻め込んでもらうようにしてみよう……。

幸いにこちらは、兵の配置などは把握している。

ただ―――“連中”とおやじは保身術に関してだけはけたところがあるから、私がいなくなったと判れば血眼になって探すだろう。

そうさせないためにも、私は……『もう一人の私』を作る必要がある。

近々、晩餐会を催すようにしているけれど、そこで見ず知らずのに私の身代わりを強要させてしまうのは少々心苦しい。

けれど……この私の眼が曇っていなければ、その身代わりのもこの国の異常を目にすることになるだろう。

それは、不幸中の幸い―――と、思ってもらえるかも……知れない。



その項の全編を読み終えた時、身代わり王女シルフィはらは決まりました。

事実シルフィも、エヴァグリム国内―――ではないにしてもマナカクリムでの一部のエルフ達の横行は目についていたのですから。


        * * * * * * * * * *


そして―――時間軸は『現在』……

この城にある資料室にて、また一つの動かぬ証拠を押さえた身代わり王女シルフィは……


「(“奴隷”―――人身売買まで横行しているだなんて……)思っている以上に、この国の腐敗は進んでいるのね……」


『人面獣心』―――鬼畜にももとる行為をまた一つあばき出した……シルフィは王女の身代わりをする上で、実に……この国に蔓延はびころうとしている『悪徳』の数々を目にしてきました。


「(王女様から突然、私の同意もなしに身代わりを強要された時『傍迷惑はためいわくな人だなあ……』と、思ったりしたけど―――シェラザード様の心情、判ってしまった今なら痛い程に分かる……それに、あの日記にも書かれていたように一か八かの賭けだったのだ……そこは、期待に添えるようにしないと……)」


自分達の種族であるエルフの王国の危急存亡ききゅうそんぼうにまで及ぶかもしれない事実にたり、シルフィも少なからず王女シェラザードの手助けになれば……と、思い、彼女なりに動ける範囲で行動を起こしていました。


けれど……“それ”も“そこ”まで―――


突如として―――資料室の闇の部分より現れし者により……



             ――ゾクッ――



「(えっ……?!)な―――なに?!」


「やあ―――『こんにちは』、あるいは『こんばんは』、はたまたは『おはようございます』、フロイラインお嬢さん。」


「(ヒッ?!)だっ―――誰??!」

「そういうお前サンこそ、こんなカビ臭い処でなにをしている?王女の……身代わり風情がしていいことじゃないだろう?」


とは、“鮮血”の様なくれないの瞳をし―――口からは鋭い犬歯が覗いて見える……それに、その咽喉のどから絞り出される声にしても低く……どこか甘ったるい―――そして見る者がれば立ち処にちてしまいそうになる匂い立つ色香を放つ、魅力的でもあり、また危険性をはらんだ……そんな『若い男性』―――

けれどシルフィも冒険者である経験上、この『男性』が何者かまでは判ったのです。


そう――――――…………


「ヴァ……ヴァンパイア?!」

「う・ぅ~~~ん、大・正・解。」

「なっ―――何の目的です?!私は―――」

「フ……そうトガリなさんな。 何もお前サンを取って食おうって話しをしにきたんじゃあない。 この“オレ”の……我が主マイ・マスターからの厳命オーダーで……ね、お前サンを帰してやれ―――だとさ、かつてのお仲間のもとに……とな。」

「えっ? あの方が……シェラザード様が戻ってきていると言うの?それよりも待って?なぜシェラザード様が……ヴァンパイアの我が主マイ・マスターに?」

「フフフッ―――ヤレヤレ……面倒くさいことを言うフロイラインもあったもんだ。 だが……目の付け所は間違っちゃいない―――確かに“オレ”は、不浄の者けがれたものさ、だからと言って見誤っちゃならないぜ―――お前サン自身が認めた者の事を……。」





つづく

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