第20話

予期せぬダーク・エルフの姫将軍の来訪を受け、あまつさえ宣戦の布告までされ―――一時いっときエヴァグリムの城内は動揺がはしったものでした。


「このまま―――あの【黒竜の乗り手ドラゴン・ライダー】と畏れられた姫将軍が、宣戦布告と共に城内にいる我らを鏖殺みなごろしにするのではないか?!」

「いや……それはまずあり得まい―――こちらには“お転婆”とも“じゃじゃ馬”とも呼ばれておる王女様がおられるではないか!」

「ああ―――そうだった、王女ながらも武芸の鍛練をするなど酔狂の極み―――と、思っていたが……なかなかどうして―――のために我々の役に立ってくれるとはなあ?!」


これは……ある、心莫こころない者達の―――ささやき……

それにこうした者達は、王女であったとしても少しも王女らしからぬ者に対し苦々しくさえ思っていたのです。

けれど……なぜか王女自分達の政敵は、自分達をかばってくれていた―――??


しかし……彼らは、王女の『真意』を、知らない―――


         * * * * * * * * * *


それはそうと、今回の一連の騒動を収まらせたシェラザードは自分の部屋である『王女の部屋』に戻り……


「はああ~~~疲れたあ~~~まさかアウラが、あの人達も連れてきちゃうなんてさぁ……計算外だよぅ……。」

「随分と―――疲弊されているご様子だねえ? 我が主マイ・マスター―――」

「ああ~~うん……アウラがマナカクリムに顔見せた時から『いつかはこうなる』―――って思ってたけどさぁ……それに、今回のようなことになるのにその時は“一対一サシ”での勝負……って、思っちゃってたからね。」

「そしたら、相手の方が一枚も二枚も上手うわてだった―――と?」

「そ―――そう言う事……危うくほだされそうになっちゃったよ……。」

「フフッ―――それは大変でしたねぇ? それに、もしそうなったとしたら、あなた様が“私”に語ってくれた筋書きプロット……大筋で書き換えなくちゃならなくなる―――」

「判ってるよ―――けど、あの場を退いてくれた事は幸いだったわ……とは言え、猶予されてる時間もそう残されてない―――だから……やるよ―――」


幸いなことに、彼女シェラザードの“真意”はまだ誰も知られている様には感じられませんでした。

そして―――なぜ彼女シェラザードが親しき間柄の者達までも欺いて事に及ぼうとしたのか……


それは――――――


その一つの、大きな要因が『公爵ヘレナ』でした。

強大な力を持ち、自分達エルフよりも永きときを紡ぎ、なにより賢い……だからこそ踏み切れた―――踏み切ろうとしたのです。



#20;一人ぽっちの戦争



この『国』に於いて……この『城』に於いて、王女は孤独でした。

えある王室を差し置き、勝手気ままに横行する力のある上級貴族や官僚……そして大商人達。

言わば―――この国は『傀儡かいらい』そのものだった……


だから―――“グサリ”と突き刺さった……


『それをする為には、お前の父である『現国王』のように“傀儡”にはならないとな―――!』


その『言葉』は、どんな鋭利な剣で突き刺された時よりも痛かった……

そして更には―――


『お前は……お前自身の運命も変えられず、お前の国自体の運命も変えられなかった―――』


「(ああ……その通りだよ―――アウラ……私は、私一人では、私の運命は変えられそうになかった……それは、あなたも言っていたように、私の国自体の運命も……!

けど……違うよ―――違うんだよ、私は今、大きな味方をつけた……それにもう……私は一人であって、一人じゃない……だからこそ今―――私は行動を起こす!)」


だけど、その前に―――……


「ねえ……公爵ヘレナ、一つお願いをしてもいい?」

「『ヘレナ』―――で、構いませんよ……我が主マイ・マスター。 それで……なにを?」

「“あの子”を帰してあげて……私の“身代わり”に―――“替え玉”になってくれた、“あの子”を……」

「よろしいので?あの者はその最中さなかに色々と見聞しましたよ、には我が主マイ・マスターの不都合な真実となるようなことも……」

「私の事なんてどうでもいい―――事の重大さは、いかにして駆逐すべきか……だよ―――」


シェラザードが、“事”に及ぶ前に是が非でもしておかなければならなかったこと―――それは、今まで王女自分の“身代わり”“替え玉”をこなしてくれた、シルフィの送還でした。

けれどヘレナの助言にもあったように、シルフィは王女の身代わりを果たすに際し色々な“真実”を……それも、自分達一般庶民が知りだにしてこなかった『王女の不都合な真実』ばかりを目にしてきたのです。


          * * * * * * * * * *


“それ”は、身代わりとなって間もない頃―――

身代わり王女シルフィ本当の王女シェラザードの部屋で『ある物』を目にしていました。


「(あら……?)これは―――……あの方の日記だわ?!それに……っ、これは―――!!」


それは……王女シェラザードがつけていた日記……

そこで身代わり王女シルフィは、思わぬ“真実”を目の当たりにしてしまうのです。



○/×

今日もまた、伯爵と官僚が、何やら話し込んでいる……

それもどうやら、自分達の利得となることのみ、話し合っているようだ。


彼らは、国の重鎮……国家へ、国王陛下へ、そしてそこに暮らす民草達に忠誠を誓っているはず……なのに―――


許せない……。



○/△

今日は、また別の官僚と城へ出入りしている商人とが何やら話し込んでいる。

どうやら国でその取扱いを禁じられている物品を、“裏市場”と言う場所で違法な―――それも法外な額で取引すると言う相談をしているようだ。


そんなもので私腹を肥やして一体何になると言うのだろう……

それに、そうした利益を使うなどして回してくれると言うのならば、多少は大目に見てあげてもいいのだけれど……


なぜ彼らが―――彼ら富めるのか……

そんなことは判っている―――使わずに貯めこんでいるからだ……。


「(王女様が―――こんなことを……?では……この私に“身代わり”をさせるようにしたのも―――近くのタウン、マナカクリムでの市場調査の為に……?

この方は……孤独なのだ―――なのに、たった一人で強大な政敵に立ち向かおうとしているなんて……たった一人で魔王と遜色ない―――いや……それどころかあの物語『緋鮮の記憶』でさえ一人の魔王を討つのに多大な犠牲を払ったと言うのに……それに、この国に巣食う“魔王共”は一人じゃない……こんな……勝ち目のないいくさを……ならばあなたはどうして―――?!)」


当初身代わり王女シルフィは、“身代わり”“替え玉”として、白羽の矢を立てられたことに非常に迷惑がっていました。

けれど……その“役”を押し付けられて間もない頃に、知ってしまった……


この国の『異常』――――――


「(この方は決して愚かではない……なのだとしても―――なぜ今にして、『行動に移る』という暴挙に?)」


そしてまた―――不都合な真実は……知れてしまう。






つづく

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