第19話

高らかなる宣言をってなされてしまう―――宣戦布告……

けれど、お互いを知っていた者達は彼女達の関係が良好であるのを知っていただけに少々困惑をしていました。

しかしまた、お互いを知っていた者は、彼女達の関係―――のみならずお互いの国家同士の関係を知っていただけに困惑はしませんでした。


「(そう……が本来の―――『エルフ』と『ダーク・エルフ』の両国家間の関係……それを、いわば“休戦状態”にまでさせたのは間違いなく“彼女”の手腕、しかし……判らないものです―――なぜは、“今”になって?)」


それはそれとして―――


        * * * * * * * * * *


「あなたの国ネガ・バウムが私の国エヴァグリムを獲る?やはりそう言う事だったのね―――私達が飼っている『とり』からの報告によると、この城を包囲するようにネガ・バウムの『飛竜高機動兵団』が展開している事を知りました。

そして……前線の指揮官である『姫将軍』であるあなたが、近くのタウンであるマナカクリムに現れた―――との報告も受けています、つまり……あなたの『姫としての公務』も―――」

「フ・フ・フ―――そうだ、さすがに察しがいいな……この日の為に私は準備を着々と整えていたのだ。 贅を尽くし、民草のことは知らぬとばかりに貪り尽くす、この国に巣食う“身中の蟲”のような上級貴族や一部の官僚醜い豚共を駆除するために立ち上がったのだ!貧困にあえいでいる民草に施しをしようともせず、結局エルフの王族はそうした者達に救済の手を差し伸べることすらもせず、上級貴族や一部の官僚醜い豚共へつらい、互いの利益を貪るだけの“けだもの”と化してしまったのだ。

だが、安心するがいい……この国を獲った暁には民草たちには安寧の日々が訪れる事を約束してやろう!」


今の……彼女達のやり取りを受けて、一体どちらに正義の軍配が上がるかは本当の両国家間の関係を知らなかったヒヒイロカネやクシナダにも判ってきたことでした。

そう―――あの時、アウラが言っていたように『姫としての公務が忙しい』と言うのも、総ては『この日』の為……

『休戦協定』を締結むすぶ際、取り交わされたであろう“条件”―――


『この国は、この私が責任を持って変える―――だから“その時”が来るまで待って。

けれど、それだけを言ってばかりじゃあなたの信を得られないだろうから……

定期的に“ここ”へ訪れて頂戴、その時に進捗を話してあげるから……』


           けれど――――――

           もし………………



#19;“真実”は、不都合の塊



「(お前の力不足で、お前自身が屈してしまい……お前が上級貴族や一部の官僚醜い豚共と同様に堕ちてしまった時、私は―――ネガ・バウム私の国は、エヴァグリムお前の国を獲るに際し躊躇なく……容赦なく侵攻を開始する―――そう言う“約束”……だったのだからな。)」


そう―――、彼女達の関係……両国家間の関係だったのです。

だからこそ―――あの時……マナカクリムでお互いの顔を見合わせた時……


シェラザードは――――――

「(もう……進捗を話す報告をする時が来ちゃったんだ……うわぁ~~てか、ちょっと早すぎくない?一応は“尻尾を掴んだ”ってところまでなんだけど……“行動”を起こすまでには至らないかなあ~~けどまあ、“いざ”となれば“裏の手”もあることだし―――ああ~~けどなあ~~なるべくなら“裏の手”は、使いたくないと言うか……)」


―――と、この様に、嬉しさ4、苦悩6と言った様な状況……

では、一方のアウラは―――


「(彼女がマナカクリムこんなところに居ようとはな……と、言う事は、ほぼ内偵は進められて“変革”はすぐそこまで迫っている……と、見ていいようだな。

では、各部隊に伝達の齟齬そごが起こらぬようにしておかねば……)」


―――と、こういう解釈をしていたのです。

ですが……蓋を開けてみれば、何も変わらなかった―――何も変えられなかった―――……


           ?   ??   ???


しかし―――?

たった一つ判らなかったのは、“その動機”。


なぜ―――“彼女”は、“今”になって、元の鞘に収まろうとしていたのか……

なぜ―――“彼女”は、大切な仲間達の前で、王女として振舞ったのか……


         なぜ――――――“彼女”は………………


そして、宣戦の布告を終えたダーク・エルフの姫将軍は……


「あの……アウラ様―――?」

「今回は済まなかったな、私達の両国家間のにつき合わさせて……」

「(えっ……)『つまらない事』―――?」

「(……)『戦争』など―――侵略行為など、一番の下策だからですよ……。」 「えっ―――けど、じゃあ……」

「“小競り合い”程度ならば幾つかはあったのですが……今回の様に、大規模な軍事行動の展開は―――実に350年ぶり……」

「(!)350年―――て……大昔あったとされる、当時の魔王軍との……」

「それに……その出来事は、あのお話し―――『緋鮮の記憶』がそのモティーフにしたと言われている……だとしたら―――やはり、あのお話しは……!」

「そう……“創作”ではありません―――何者かが“真実”を覚られないよう、巧妙に“脚色”をした『不都合の塊』なのです。」

「(真実を覚られない……?)あの―――っ……『真実を覚られない』……って、どう言う事なのですか?」

「『真実を知る』と言う事は、ある意味で都合のよい事ばかりとは限らないからです。 それに“あなた達”は『不都合な真実そのこと』を知るには、まだ尚早はや過ぎるのです。」


ダーク・エルフの姫将軍であり、【黒竜の乗り手ドラゴン・ライダー】として知られるアウラは、自分達の真実を見せようと……いや、本当の処は何かの冗談であってほしい―――と願いを込め、ヒヒイロカネやクシナダ、そしてササラの3人を伴いシェラザードの真意を確かめようとしました。


本当の処は……仲間である3人の姿を見せれば、ほだされて“間違い”であることを示してもらいたかった……


なにしろ、その場所には“いた”のですから―――


けれど、そこで思わずも知れる……自分が認めた者の、変わり果てた姿に……


だからこそ布告つげられてしまう―――かつて約束したことを……


それに、皮肉にもアウラの側には、本来であれば自分達の国家間の関係上、関係のない者達が3人……

だからこそ――― 一旦その場は退くことにしたのです。


            だが、しかし――――――





つづく

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