第22話

自分の……目の前に立つ、魅惑的にして危険をはらんだ『若い男性』―――こそ、『魅惑の王者』として知られ過ぎている『ヴァンパイア』―――なのでした。

しかしながら、このヴァンパイアの男性は妙なことを口にするのです。

そう―――自分を、『身代わり』の王女として仕立て上げた『本物』のこの国の王女の事を……『我が主マイ・マスター』―――と……?


「(こんなにも正しいことを―――『悪徳』に充ちようとしているこの国を変革かえる為にと……行動をしようとしているシェラザード様が、なぜ『闇の帝王ノスフェラトゥ』として知られているヴァンパイアの“我が主マイ・マスター”に?!これは……きっと悪い冗談なのよね?)」


これから王女が為そうとしている事に同調し―――だからこそシルフィはシェラザードの為にとなるよう隠密に行動をしていたものでした。

そんな最中さなかに―――不意に自分の目の前に現れた『魅惑の王者ヴァンパイア』が口にした言葉に絶句をしたものだったのです。


「フ……その様子じゃ、不都合な真実を突き付けられて自分を保つことで精一杯―――て、感じのようだな。 だがまあ……お前サンがそうなったところで、“オレ”達にはどうってことはない、それに―――“オレ”は、あんた達の明確なる“敵”……じゃない。」

「(!)あ……あなた“達”?けれど、あなたは、あなたでしかないはず―――」

「ほほ~う、その事に気付くとはね―――勘の良いフロイラインだ。 そうさ……“オレ”は、『公爵ヘレナ』を1人……今じゃこの“オレ”も、“あいつ”の―――て事さ。」

「ど……どう言う事?言っている事が訳が分からないわ?!」

「あ゛~~まあ、そうなっちまうわな―――面倒な事この上ないが、つまんで話してやろう……“オレ”達の経緯を。

“オレ”も今じゃ、立派な『ヘレナ』を形成する者のだ―――だが、この“オレ”にも『過去』ってもんがある、“オレ”自身の名前は既に失なくなっちまったが―――350年も前に何があったか……知っているかい? そうさ―――その時分じぶんに“オレ”は『ある者』の配下だった。

『魔王ルベリウス』―――そいつが“オレ”のかつての主だった者の名さ、だがお前サン達も知っての様にそいつは『ある者達』に倒された。

まあ……“オレ”が言うのも何だが、この“オレ”自身も『そいつら』に倒された口でね、その、あの当時にいたんだよ……当時の魔王、ルベリウスのしている事を“善し”とはしない存在が。

“そいつ”は……いや―――その“お方”こそが、現在の、この“オレ”本来の『主上リアル・マスター』でもある。 だが、その“お方”ご本人様のご命令もあってね……今は一時的にたもとを分かたせて貰っている……ってところさ。

ここで勘違いしてくれちゃ困るのは、何も酔狂であの王女様を“オレ”達の『我が主マイ・マスター』と見定めたわけじゃない……ってことさ。

ま……あの王女様は、自分ンとこの国を変革かえるだけで済む―――と、思っているようだが……お前サンも見てみたい―――とは思わないかい?」



#22;閉塞された世界の……その向こう側に見えるものを―――



魅力ある『男性』が、その魅惑的なボイスで興味をそそられる『話し』をしてくる……シルフィも、その場、その時では深い処までは判りませんでしたが、どうやら王女―――のみならず自分達さえも(?)どこかこう……大きな時代の潮流の中に放り込まれている感覚に陥ったものだったのです。


         * * * * * * * * * *


それからしばらくして―――シルフィは、元の……自分が本当にいるべき場所、マナカクリムに戻っていました。


「皆―――……」

「(!)シルフィ―――お前……戻って来たのか?!」


「ええ―――……」

「シルフィ……」


「クシナダ、心配をかけてごめんね。」

「ううん……いいのよ―――それより……」


「それより……こちらの子は?」

「ああ―――紹介……してなかったよな、この人は……」


「初めまして―――私、【黒キ魔女】であるササラと申します。(ムヒ☆)」

「(!)【黒キ魔女】―――!!しかし……そんな方が、どうして私達のクランに?」

「まあ―――色々あってなあ。」

「でも、その“きっかけ”を作ってくれたのは……」

「『王女』―――シェラザード様……そう言う事なのね。」

久々に仲間に顔を見せるシルフィでしたが、自分がクランにいない間になにがあったか―――変わっていたかが判るくらいでした。

その“一つ”に、マナカクリム―――と言わず、この魔界全土でも屈指と言われている第一級の冒険者である【黒キ魔女】……ササラが自分達のクランに加わっていたのですから。

しかもその経緯も、どうやら自分の変化のもとともなったくれた方……だった―――ただそれだけでも大きな変化と言えたのに、自分が王女の身代わりとして得たものは最早、常識では留まる処がなかった……

だから、そこで少しばかりを話してみることにしたのです。


するとやはり―――……


「『公爵ヘレナ』―――!?」

「やはりご存知でしたか……」

「はい……名前は知っていましたが―――」

「どうしたってんだ?ササラ―――」

「(……)シルフィさん、あなたがその者と話した時、その者は本来の主……である『主上リアル・マスター』のことを、―――そう解釈をしてもよろしいのですね?」

「はい―――その通りです。 それに……ヘレナの“一部”だと言っていた、その男性が言うのには……

『お前サンも見てみたい―――とは思わないかい? 閉塞された世界の……その向こう側に見えるものを―――』

と……」


「(この魔界せかいに於いて、言葉はある意味『魔力』というものを秘めている……してや『その言葉』……私が知る上でも“ある特定の人物”が好んで使っているもの……

するとならば……やはり―――……

“あのお方”が欲すると言うのであれば、『公爵』自身が動いているのもある意味うなずけます。

……が―――“これ”は実に『不都合な真実』過ぎます。

“多少”のものであれば、耐えうることができましょうが……

ここは一つ『経過観察』した方がいいのかもしれませんねッ―――☆(ムヒ))」


術師であるササラは、日頃自分達が紡ぐ『言葉』にも“意味”を持たせることが出来るのを知っていました。

だから言葉の選び方には慎重を期していたのです。

しかし―――ここで不意に語られた『ある言葉』に、ササラは敏感に“反応”をしたものでした。

しかも、『この言葉』を今回の“えにし”で考えるのならば、外したくとも外せない王女の身代わりをこなしたエルフの女性に……この魔界にて絶大な権威―――絶大な権力を与えられている“あるお方”の最側近が甘やかなる声でささやいたのだろう。

その“一つ”を取ってしても、この『真実』を語るには時期尚早はやすぎる―――としたササラは、その“真実”を今は『そっ』と自分の胸の奥に秘めることとしたのです。






つづく

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