第18話

その書置きに落とされていた内容こそ、『不都合な真実』の塊のようなものでした。


けれども…………


「(私は知りたい―――私は、あなたが何を思って筆にしたのか……)」


だから―――こそ……

「教えてください、そこに何が書かれてあるのか―――」

「(……)判りました―――では、一枚目から……これは主に私達全員に宛てられたものです。」


〘今まで―――黙っててごめんね。   今まで―――騙してごめんね。

もう―――私は戻ります…私がいるべき、本来の場所に。〙


「この……『本来の場所』って、これまでの流れからすると、『エヴァグリムの城』……だよな。」

「そうなりますね―――」

「それじゃ……もう一通には、なんて―――?」


そううながされると、ササラにしばらくの“間”がありました。

そう……問題性があるのは明らかにこの……“もう一通”の方にあったのが知れたから……


ただ―――……


〘私の最高の友人であるクシナダに、この2つの装飾具を譲ります。〙


実際―――その書置きは、2通したためられていました。

そして、最初に読み上げた“1通目”は、迷いなく書かれていた―――それに対してクシナダ個人に宛てられた“2通目”には、明らかな“迷い”が見えて取れた。

その感情がよく読み取れたのは“書き出し”の部分―――この魔界せかいでの筆記用具はペン先にインクを含ませ、そして走らせる―――そのたぐいでしたから用紙にペン先を置いた瞬間に走らせないといけない―――

けれど“2通目”の書き出しは、ペン先を用紙に置いてから時間が経ち過ぎていたから……


大きくにじんでしまっていた―――


“決意”をしたにもかかわらず―――

“覚悟”を決めたにもかかわらず―――

一体、何を“迷った”のだろう…………


けれど……ササラが、2通目を読み終わらない―――までに……


クシナダの絶叫に近い嗚咽おえつとおる……


「ヒヒイロさん、至急アウラ様をここへお呼びしてください。」

「―――判った……」


        * * * * * * * * * *


そして場面は―――“あの”やり取り……

不意な仲間の失踪に涕くれるクシナダと……

自分からの質問を反映させない【黒キ魔女】……

けれど、『エヴァグリムの誇り』を見てアウラは察するべきを察したのです。


それに……これまでの“彼女アウラ”に対しての認識を、ヒヒイロやクシナダは違わせていました。

逆を述べるのならば、“彼女アウラ”に対しての認識を違わせていなかったのは、“彼女アウラ”本人―――【黒キ魔女ササラ】―――そして……王女―――


すると…………


「なるほどな……判った―――お前達少し私に付き合ってもらえないか。」

「えっ……“付き合う”―――って……何を」

「(……)エヴァグリムの城へ―――ですか。」

「ああ、そこで私は“彼女”の真意をたださなければいけない。」


「(シェラのいる場所に……一体何を―――? どこか……“行ってはいけない”と言う気がする―――行けばきっと……私はまた、一層後悔をするような気がしてしまう……けれど行かなければならない―――行かなければ後悔をするような気がしてしまう。)」


クシナダは、苦悩の選択の結果、『一緒についていく』ことにしました。

そこで知ることとなってしまったのです……本当の―――“彼女”の素顔と言うものを……



#18; 王    女



黒竜の乗り手ドラゴン・ライダー】であるアウラの飛竜の背に乗り、4人はエヴァグリムの城の門前に着きました。


「これはアウラ様―――どうなされたので。」

「シェラザードはいるな、私が会いに来たこと、至急取り次いでくれ。」


良い関係を保っている―――からこそ、『門前払い』と言う事はありませんでした。


―――が……なぜか、城内の雰囲気は妙によそよそしい……

よそよそしい―――上に、どこか物々しい……


なぜ―――?


すると…………

          ―――そこにいるのは何者です―――


いつも、聞き慣れた声がしたから、そちらに視線を注いだ―――

そして、そこにいたのは……


“いつも”の冒険者としての服飾に身を包んだ、かつての仲間ではなく―――

絢爛豪奢けんらんごうしゃな衣装を身に纏い、いくつもの、目もくらまんばかりに輝きを放つ宝飾を着飾った一人の『王女』がいるのでした。


そこで……思わず―――


「シェラ…………?」

「口を慎みなさい!下賤の者が。 私は、お前達の様な者は知らない……アウラ―――何者なのです、この者達は……。」

「最近、召し抱えたばかりの者達なのでな、不適切な物言い―――私のしつけがなっていなかったようだ……その点に関しては謝っておこう。」

「(……)まあいいでしょう―――それで?何の用件です―――ネガ・バウムの姫君……」

「つれない物言いだな―――シェラザード……私は、会いに来たのだ……お前に。」


自分が発してしまった不用意な発言を叱責する『王女』……

そこには、かつて仲間の男性剣士を巡っていつも自分とバカをやらかしていた彼女の姿は見えなかった……


「(ウソ……あなたは王女様だったのね―――)」


当初からクシナダは、シェラザードの事を『エヴァグリムの王女』ではないかと疑っていました。 けれどそこでシェラザード本人から……


この名前シェラザード―――って、結構エルフの中ではポピュラーなのよねえ~~ざぁ~んねぇ~んでした―――(ンベッ)』


確かに、言われてみるとその通りだったのでしばらくその疑いは頭から除くことにしました。 けれどここ数日―――またも次第に、“その疑い"が頭をもたげてきた……そうした最中さなかでの、この“出来事”―――

今はもう……自分と下らないことで火花を散らし合っていた、かつての仲間の影は見え、ない―――……

その代わりに厳格かつ高度な政治判断をしなければならない、国王統治者の娘としての『王女』がそこにいた―――


それに―――……


「私に……?それは何の“冗談”?アウラ―――」

「“冗談”……か―――フ・フ……それは私のセリフだ、シェラザード。」


「(えっ……何を―――何を急に言い出したりするの……二人とも、だってあなた達は……)」



           “それ”は、間違い―――



「冗談……?私が何の冗談を―――?」

「お前は……この私に、理想をよく語ってくれていた……このエルフの国を、私の国や他の国と同じように自由で開かれた国にしたい―――と……それをする為には、お前の父である『現国王』のように“傀儡”にはならないとな―――!」

「口を慎め!下郎が―――!!」

「“下郎”か……下郎で結構だ、だがな……シェラザード、私はお前に期待をしていたのだぞ……お前の父―――ではなく、お前自身の意思を、ちゃんと反映させた国造りを……それが“出来る”と思ったからこそ、『止めて』いたものを……な―――」


ただ―――その場でのやり取りや、よどみ始めた雰囲気を感じたことだけで言うのならば……


『良好な関係』―――では、ない……むしろ、『険悪その逆』……


だからこそ、次なるアウラのセリフも―――


「だが、今日のお前を見て分かった。 お前は……お前自身の運命も変えられず、お前の国自体の運命も変えられなかった……だから、かつてのお前との約束通りに我がネガ・バウムがエヴァグリムを獲る!」


アウラが、『姫』としての“公務”の合間にマナカクリムを訪れていたのは本当でした、けれど『真実』は総てではなかった―――……

すでに作戦行動に移りやすいようにと、エヴァグリム周辺の森にはネガ・バウムの軍団は展開されており、そこでエヴァグリムの城にいるはずの王女シェラザードの意思確認さえすれば良かった……

ただ―――本来の場所ではない、冒険者達の街で見かけた互いの顔……

あの時、実はアウラは心の中で安堵していたものでした。


「(どうやらお前は、やっとの思いでお前の願いを遂げようとしているのだな……)」


しかし―――先頃知ってしまった“書置き”の内容と、王位継承権の証しでもある『装飾具』を見せられ……そこで、本来やっておかなければならないことを蒸し返した―――けれどどうしたことか、理想に熱く燃えていた者はいつしか王女自身がさげすみ卑下していた者達と同じように……


見下げ果ててしまっていた―――……


だからこそ、高らかに宣言をしてしまうのです、『宣戦』の『布告』を―――





つづく

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