第10話

“ここ”―――は、エルフの王国『エヴァグリム』の、王族の城……

そして、その『王女』の部屋に“ある鳥”が舞い込んできました。


しかし、その“鳥”は本物の鳥ではありませんでした。

何者かが、意図的に作成した“凝似生命体ぎじせいめいたい”―――『トーキング・バード』。

主な使用例としては自分の思いの丈をその凝似生命体ぎじせいめいたいである“鳥”に吹き込み、対象者に伝える……

ですがしかし、なぜ『王女』にが?


「⦅ヤッホー☆ 久っしぶりィ~ 元気してる~?私は、元気してるよッ☆ いやしかし、自由てのはイイもんだ~、それに仲間……てのもね。 今、私は、あんたが所属してるクラン―――てとこの、ヒヒイロカネとクシナダって人とPTを組んでてね、数々の依頼クエスト―――てのを、二人と協力してこなしてるよ。⦆」


“それ”は、『本物の王女様』からのものでした。

そう……言うなれば、彼女シルフィは身代わり―――本物の王女様である、彼女シェラザードの……


「(そうなんだ……ヒヒイロさんとクシナダ―――二人とも、何をしているんだろうなぁ……急に私がいなくなって―――その代わりとして、王女様であるシェラザード様が二人と……何もトラブルがないといいんだけれど―――……)」


しかし、その思いは、早々にブチ壊されることとなる―――


「⦅いやぁ~~それにしても、ヒヒイロカネ―――って、イイ男ダヨネ~~ホレっちまいそう。 そこをさあ~~クシナダに見せつけてやったら、彼女ってば面白い反応するんダヨネ~。⦆」


「(シ……シェラザード様ぁ??な……なんてことを―――彼女が想いを寄せる彼にちょっかいかけるなんて~し―――しかも……もうそこで何があったんだか……現場に居合わせていないのに、手に取る様に判ってしまうなんて……)」


心配は、現実のものとなってしまっていたようで―――

それにシルフィもクシナダの想いを判っていたからこそ、同じく想いを寄せるヒヒイロカネとは一定の距離を置いていたものだったのに……。

それを物怖じもしないで―――の、猛烈なるアピールに、さぞや自分の友人は荒ぶれたことだろう想像はかたくなかったようです。


けれど―――……


「⦅あの子―――揶揄からかうと、ちょ~面白いんだけどさぁ、何て言ったらいいんだろ―――うらやましいんだろうなぁ……私。 あの子は……さ、私にはないものを持っている―――その事は、今は漠然とでしか捉えられていないけれど……あの子は、まぎれもなくイイヤツだよ―――あんたと仲がイイ―――てのも、どことなく判ってくる気がする……⦆」


ほんのちょっぴり、漏れだした“本音”―――

王国の城―――と言う、言わば“鳥籠”にも似た環境に囲われた捕らわれた存在の、父親である国王陛下にすら漏れ伝わることがかなわなかった“本音思い”……


そして―――


「⦅まあ~今回は、こんなところかな―――定期的ではないけれど、気が向いたらこっちでの状況は報告してあげるね。 あ……あとそれからね、そっちでの状況も教えて―――あんたが吹き込んで、私の手元に返ってくるまでの魔力は込めてあるから。 じゃ―――またね……⦆」


そこで“王女様”は、これまでにあった事柄を『トーキング・バード』に吹き込みました。 それも、はたから見れば、退屈極まりのない高貴な身分やんごとなき方々の―――暮らしぶり……だけではなく……


こうして―――凝似生命体ぎじせいめいたいである“鳥”は、王女の部屋より解き放たれました。

しかし……その様子を、見ていた者がいたなら―――?

その事を示すかの如くに、王女の部屋の扉を叩く音がし―――中に入ってきたのが……


「失礼いたします―――シェラ様……。」

「(!)―――どうしたのです、セシル。」

「はい―――先程伺っていましたところ、丁度この部屋より“何か”飛び立ったのが見えまして……」

「(監視―――されているのね……)ええ―――この部屋に迷い込んできた小鳥がいましたからね、だから逃がしたのです。」

「(……)そうでございましたか―――さすがはシェラ様です。」


「(疑われている……“王女”の……一挙手一投足を、“王女”の側仕えであるこの男性に……疑われてしまっている。 今の言動も“王女”のしたことをさぞ褒め称えるかのように紡いでいるけれど……その眼は、笑っていない―――猜疑さいぎの眼―――私が、王女ではないことを……あばかんとしている者の、眼……シェラザード様が、本物の王女様が―――この城を出奔たくなった理由……今なら、少し共有出来そうな気がするわ。)」


自分が身代わりとなる際、本物の王女様から注意された事柄―――

それははたから見ても、うらやましくなるような暮らしぶり……―――などではなく、至る所に潜まされている陰湿なる争い。

『宮廷闘争』とも『政争』とでも言えばいいのだろうか……この“口”を開けばその一言一句を『揚げ足取り』にするべくその耳を傾け―――その“手足”が動けば『アラを探る』べくの視線が飛び交う―――


「(あの人は……170年間、ずっと“こういうモノ”に晒されてきた……私も冒険者を生業なりわいとしていたから『精神力』の強さには自信があったけれど……『王女と言う職業この役柄』……とても常人では、務まらないわ―――)」


今更ながらにして思う―――王女シェラザードの『鋼鉄の精神力』を……

目に見えない陰湿な闘争を、永の年月耐え抜いてきた―――それだけでも賞賛に値したことでしたが、何よりも賞賛すべきは王女はそうした中で独自の思考を保ち続けてきた―――と言う事実コト……

それに聞けば、王女は武芸の修錬に励んでいたとも言う―――身代わりシルフィもそのご多聞たぶんに洩れず、“見せかけ”を披露する―――ものの、やはりそこで破綻は訪れてしまうものなのです。

なぜなら、“彼女シルフィ”の本分とは、『回復役ヒーラー』……

武器を直接扱う、専門職では、ない―――


だからか……


「(ふ……う……もうこの辺でいいでしょう―――)」


“彼”は、『王女の側仕え』ではあるものの、ある事に関しては固執こしゅうと思われても差し支えなかった……それはまた、『王女の側仕え』であるが故の―――


そして―――……



#10;『とり



「(……)―――いるな、『モズ』。」

「―――お呼びで~☆」

「至急―――お前達の仲間を、各タウンに散らばせ本物の王女様を確保せよ。 手段は、問わん……が、殺してはならん。 だが―――お前達の前に立ちはだかる者の生死までは…………問わん。」

命令を聞くと、返事も発さずに闇へと消え入る存在がいました。

とり』―――それは、エルフの王国『エヴァグリム』が雇っている、“暗殺”“諜報”“誘拐”“拉致”など、“汚れ仕事”を一手に引き受ける、所謂いわゆるところの『暗部』でした。

その内の一人―――『モズ』……

この者は、『とり』のなかでも“かしら”と呼ばれる統率者であり―――残虐非道で知られる、とりでもあった。

獲物である小動物や昆虫を、鋭い枝などに“串刺し”をする―――『鵙の早贄モズのはやにえ』……命の『重さ』など、塵芥ちりあくたよりも『軽い』と言ってはばらない ―――性酷薄な者。


そんな存在に、“厳命オーダー”が渡る―――


『本物の王女を探し、見つけ出せ。 そして、抵抗するようなら、殺さないまでも、少々傷つけてでも構わない―――連れ戻せ。 ただ、目的を阻害する者が現れたなら……迷うことなく、殺せ―――』


ただ“厳命それ”は、いくら『王女の側仕え』だとしても、やり過ぎ感は否めなくもないのですが……ならば、“セシル”には、が、与えられているのだとしたら―――?





つづく

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