第11話

自分が“身代わり”の為に放った凝似生命体ぎじせいめいたいの鳥は、返ってきました。 そこで彼女は『今の処、異常はない』―――との報告を受けたのでしたが……

「(ふぅ~ん……どうやら勘のイイ奴は動き出した―――ってか、特に”の周囲が活発的になってきてる……少しここは用心に越したことはないのかも、ね。)」

『宮廷闘争』や『政争』の何たるかを知っている彼女にしてみれば、例えそれが何の変わり映えもしない由無事よしなしごとだったとしても、敏感に感じられる処だったのです。 今も、“身代わり”からの報告で判ってきたように、以前から自分が注視している者達が自分達の利益のためだけに動こうとしているのを知るのでした。


……が―――


『知っている』ことで身動きが取れなくなることを、このたび学んだ……

確かには『城』と言う限られたにいたことから、自分が知り得た事実を武器に、そうした者達の企み事を幾つも潰して来た……けれども―――『そうしてきた自分』が、城とは関係のない場所にいる……その事に薄々勘付き始めた者も出始めてきたものと見え、はたまたは現在城内にいる『王女』が本物であるかどうかを確かめる為のが、講じられようとしている……


ここは一度城に戻るべきか―――   それとも、“身代わり”の能力を信じ、任せてみるべきか……

迷っている時間は少ない―――とはしながらも、一度出奔た城に戻れば、『身中の蟲』のはかりごとは未然に防げる……が、しかし―――

もう一度出奔できるか……と、言えば、その確率は限りなく低くなるだろう。


いずれにしろ決断しなければならないときは、迫っているのです。


       * * * * * * * * * *


それとはまた“別”の話しとなるのですが……

こうした『話し』の“設定上”、『エルフ』と対をなす“種族”のことを、どうしても避けてはいられないのです。

そう―――それは……

その肌は“浅黒く”、身体能力に関しては、エルフをも凌ぐ―――と、されている……『ダーク・エルフ』。

今、そうした特徴を持ち合わせた“女性”がマナカクリムを訪れたようです。

「(ふむ……久方ぶりになるが、来てみるものだな――――ここの処“公務”が押して訪れる機会もなかったのだが……)」

“彼女”は、『ダーク・エルフ』……その王国『ネガ・バウム』の『姫君』でした。

しかしながらこの姫君は、ダーク・エルフの“王族”であるにもかかわらず城から外出し自由に歩き回ることが出来ていた―――

『王族』であったとしても“束縛”をするエルフとは対照的―――

しかも……

「(マナカクリムここまできたなら足を延ばしてエヴァグリムに寄ってみると言うのもいいな、それに『土産話』を手土産に王女に会うと言うのも……

フフ―――ならば精々せいぜい耳の肥えるネタを用意しておかねばな。)」


『ダーク・エルフの姫君』……名を【アウラ】と言いました。 しかも、彼の王国の王女であるシェラザードの事を……?そう、実は彼女アウラこそは、数少ない王女シェラザードの理解者でもあったのです。

数ある『お話し』のなかでは、よく“対立関係”として描かれているエルフとダーク・エルフ彼女達でしたが、どうやら、お話しでは対立関係にはないそうではないようで……


            ?   ??    ???


それはさておいて―――ここで少し『厄介の種』と言うものがかれたようです。



#11;|装飾具(イヤリング)



「あなたっ―――!なんなのですか……こんな小さな子を突き飛ばしたりして!」

「ああ~?!突き飛ばしたあ~? そのガキからオレ様にぶつかってきたんだろうが。」

「(なっ―――)なんですって?!」

「獣人と言う下賤の身が、侯爵家の御曹子高貴な身分であるオレ様にぶつかってきた―――それが何を意味するか、分かっているのか?ヒト族の女。」


それは、エルフ―――しかも『侯爵』と言う“爵位”は『公爵』に次ぐ序列の高い家柄……つまりは―――エルフの上級貴族にぶつかってきた“犬”の獣人族の子供……その子供を蹴飛ばすなどして暴力行為に訴えていたのです。


しかし―――……


そう、この出来事の一部始終をクシナダはその目に収めていたのです。

彼女は見ていた……エルフの貴族が言っていたことが真実なのではなく、“彼”の進路上に偶々たまたま……犬人コボルト族の子供が居合わせただけ……

ほんのちょっと―――気付いていれば、回避できていた出来事……

なのに、身分の貧富―――種族の優位性を逆手に取り、及ばれてしまった“行為”……

「(シェラや……シルフィは、こんなのじゃなかったのに―――が『エルフの貴族』だと言うの?)」

クシナダは、これまでの生涯で付き合ってきたエルフと言えば『シェラザード』と『シルフィ』の2人だけでした。 シルフィとの関係は最早言わずもがなでしたが、シェラザードは……まあ、鼻に衝く処はかなりありましたが、それも今にして思えば自分の目の前にいる横暴なエルフの貴族程ではなかった……

確かに口はぼったい処も少々―――(“少々”?w)口調も興奮すると悪くなる事もありましたが、その“性根”はどことなく『善良』だった……そう感じたものでした。


そしてまた―――実は……


         * * * * * * * * * *


「(はあ~あ、気の向くまま城から出たはいいものの、あの“連中バカ共”の動向にも気を配らなきゃならんとは……)」


その日、シェラザードもその界隈かいわいを通っていました。

そう……クシナダと、エルフの上級貴族との、衝突の現場近くを……


「(……ん?―――ん・ん・ん?あいつ……侯爵家の御曹子バカ息子

―――て、なんだよ……クシナダも、あんなのに突っかかって……よしときゃいいのに―――)」


シェラザードが目撃みていたのは、大まかにして―――『エルフの上級貴族である侯爵家の御曹子と、自分の仲間であるクシナダとが、言い争っている場面』―――だけでしかありませんでした。

そう、シェラザードは言い争うまでに至った経緯までは、知らない……

知らない―――までもが……

どちらを信じるかは、最早口にしなくても判っていた事。


すると彼女はおもむろに、城を出奔してからと言うものは一度たりとて身に付けてはこなかった『ある装飾具』を、収めてあるポーチから取り出すと種族として特徴のある両の長耳に取り付けるのでした。


その装飾具は、目もくらまんばかりにきらめき輝ける……およそ10カラットはあろうかと思われる『緑柱石エメラルド』―――

その宝石の大きさもることながら、石の周りを取り巻く純金であしらった『金細工』……


しかし―――その『装飾具』こそは……


「ちょお~~っと、いいかしらあ~?」

「なんだあ~?お前は―――」

「“こいつ”の仲間だよ―――」「シェラ―――?」

「なあ~にやってんだよ……全く―――こんなと事を構えるなんてさあ……。」

「なっ―――なんだと?貴様……侯爵家の嫡子であるオレ様の事を、『バカ息子』だとお~?」

「ああ言ったさ、言ったけどさ―――バカをバカと言って、なあ~にが悪いんじゃ―――こんのバ~~カ!」(ケラケラ)

言っている事は、最早『ハチャメチャ』……子供の口喧嘩レベルと言っても、差し支えなかった……ただ、そんななかでも彼女の両耳を飾る『装飾具イヤリング』は、彼女の大きな身振り手振りオーバー・リアクション所為せいもあり、左に右に揺らめき始める……しかも、その“石”は、太陽からの光をあまねく吸収し、乱反射するなどして―――





つづく

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