第8話

自分達が助けようとしていた獣人の少女―――『黒豹人族の少女』は、術師キャスターでありました。

しかも、通常の魔法でも『第八階層』に位置する……熟練ベテラン術師キャスターでも修得するのに何十年もかかるという―――そんなものを、まだ見かけの上では10代前半とみえる“少女”が修得しているとは……?

その事も疑問の一つとして浮かぶのでしたが―――“危機”を回避するために……と、行使詠唱された魔法に伴いシェラザード達は事象点より離れた安全と思われる場所に転移していました。

「ふわぁ~~ど……どうにか助かったぁ?」

「全く―――救おうとしていたオレ達が、救われるかたちになるなんてなあ……。」

「(――――――…………。)」

「どうかしたの? クシナダ―――」

「ああ……いえ、なんでも―――」


「(どうやらお一人、気付き始めたみたいですね(ムヒ) まあ……だからと言って、どうと言う事もありませんが―――(ムヒヒ☆))」


幸いにして―――“危機”は回避できた……ものの、どこかこう―――釈然としないクシナダ……ただ、そうであったとしても、黒豹人族の少女にしてみればこの際に至っても自分が“誰”であるかを知られようが―――関係なかった……。

「皆さん、この度の事は感謝いたしますね。」(ムヒ☆)

「ああ~~気にしなくたっていいよ。 恰好いいとこ見せようと思って、逆の事になっちゃったわけだしぃ~~。」

「ホント……生命がいくつあっても、足りたものじゃないわ。」

「ああ―――さすがにアレは、オレも“詰んだ”と思ったぜ。」

「悪かったってぇ~けど……じゃあさ―――私が気付かなけりゃ、良かった―――って話し?」

「そう言う事を……言っているのじゃ―――」

「けどさぁ、ああいう事言われたら、そう受け取らざるを得なくなるじゃんかあ。」 「…………――――――。」

「止めようぜ―――それにシェラ、クシナダも悪気があって言ったわけじゃないんだから。」

「判ってるわよ―――そんなこと……だから、もうこの事蒸し返さない―――エンガチョ切~~った!これでいいわね。」


「(出来たエルフと言っていいのか―――今のこうした“疑い”がこじれて、崩壊してしまったPT/クランなんていくつもある。 けれど、このエルフの言っている事も、一理ある……)」


“それ”は、他人と付き合って行く上でも『イタイ処』ではありました。 間違ってはいないけれど結果として自分達が苦境に陥ってしまう事などこの世にはいくらでもあるのです。 けれどもこの議論の行き着く先が見えていたのか、女性エルフの方から『不問』としてくれた……


反面、言葉もなかった……   また、けてしまった……


そうした思いだけがつのるばかりだったのです。

それはそれとして―――



#8;依頼完了クエスト・クリア



「それでは帰還を致しましょうか。 そこで、今回のお礼も致したいことですし。」(ムヒ)

「ああ―――そうするか……。」

「でも、ちょっと待ってよ? まだ一つ、依頼クエスト残ってるじゃ……」

「あっ―――言われてみりゃ……そうだったな。」

自分の事を救ってくれた―――その感謝の意を表せたい……と、黒豹人の少女は戻ることを提言しました。

けれど実は、彼らには“あと一つ”……こなせなければならない最難度の依頼クエストが残されていたのです。 その事をPTの一員である女性エルフから言われたものでしたが……

「そこは、気にするところではありません。(ムヒ☆) では、早速―――

〖我が意の場所へ還り給え〗=〖リターン・マナカクリム〗」


「(なぜ……なぜ? 『気にするところではない』とそんな事が言えるの……?)」



それは――― 一種のわだかまり、疑問……

最難度の依頼クエストを、未履行やらないで済んだ試しなど……ない―――

してや、その依頼クエストの放棄条件は、『受注者死亡一時行動不能』しか、ない―――と言うのに?


だからこその、『なぜ』―――なのですが……


        * * * * * * * * * *


「戻ってきちゃっ―――たわねえ?」

「ああ……みたい、だな。」

「それでは皆さん、お礼をしたいのでギルドへと向かいましょう。」(ムヒッ☆)


「(……えっ?今この子……何と?? なぜ……『お礼をする場所』が、ギルドそこなのですか?? ……―――??)」


あれよ、あれよと言う間に進行していく事柄に、頭をもたげてきた疑問は、やがて―――……


「(確か……ですけれど、現在マナカクリムここのギルド・マスターは……

―――!)」


「お母上―――ただいま戻りました。」(ムヒョッ☆)

「あら―――『ササラ』じゃない、どうしたの。 今回はやけに早かっ―――あら、そちらの人達は?」


「あっ、ドモこんちゃ~~~……て、どしたの?あんた達……」

「ギッ……ギルド・マスター??」

「『ノエル』様―――??!」

「ふえっ―――?!」


「はい―――こちらは私の母上であり、現在このマナカクリムの『ギルド・マスター職』に就いている、ノエルと申します。 そして、この私こそが……【黒キ魔女】と称されている、ササラ―――と、申します。」(ムヒ♪)


……は?

………………は??

………………………………………………はあああああ~~???

           なんじゃそりゃあああ~~~!!

「てか、ちょっと待てよ!?あんた―――ギルドのマスターなのに……実の子の、それもこんなちっさい子を『討伐』―――って……あんた“鬼”か??」


「ああ、みんなそう言うのよね―――でもね?」

(ムヒヒヒ)「実は―――その、あなた達が今回受注した依頼クエストの発注元は……」

             ワ・タ・シ☆(ムヒッ)


     (本日二度目の)なんじゃそりゃあああ~~~!!!

「てか……え?ええ??どどどどどうしよう~~~?私、頭ン中バカなっちゃったぬか?? 第一、その依頼クエスト~~ってぇ……『黒キ魔女を討伐せよ』―――だったわよねえ?でもっ……『完了クリア』したってえ~~??」


数々の、疑問としていた処は氷解してきました。

黒豹人族の少女が、実は【黒キ魔女】ご本人様であったことや、その“母親”がギルド・マスターであるノエルだったこと―――

けれども、一番理解しがたい“謎”―――その正体こそが、『討伐』目的だったはずの依頼クエストが、どうして『完了クリア』に??


その理由と言うのが―――


「その“理由”は、『ココ』にあります。」(ムヒ)

「『ココ』?って、え―――な、なんだ?コレ……ゴミ??」

「ゴミではありませんよ?これは、この依頼クエスト簡便かんべん進捗しんちょくして行く上での、『注意書き』となります。」(ムヒ☆)

「『注意書き』?―――って言ったって……こんなに細かく書かれちゃ、なんて書いてあるのか判らないぜ?」

「そうですねぇ……では―――ここには、こう書かれてあるのです。」


実を言うと、この最難度の依頼クエスト進捗しんちょくするのにあたり、“注意すべき事”が依頼書の右下部に、“印刷ミス”か……はたまたは“ゴミ”かと見間違える位の小さな字体で書かれてあったのです。

しかも、この『注意書き』……上手く見つけて読解出来ていれば、『SSS』もの最難度の依頼クエストが、比較的簡単にこなせられるクリア出来る……そう言った類のモノでもあったのです。

しかし今、発注者本人である【黒キ魔女】ササラからの指摘がないと判らないでいた……ならば、その『注意書き』にはなんと書かれてあったのか―――


ただし、の討伐対象を『保護』した暁には、当該報酬額の……>


「ごっ……ごっ……50倍だとおぅ~~~?!!」

「(……って―――)ざっと……50億リブル??!!」

「そっ―――そんな大金……??」


そう―――この依頼クエスト完了クリアするにあたり、本来の目的である『討伐』ではなく、“裏”の成功条件である『保護』をした場合に限り、本来の成功報酬額である『1億リブル』―――の、『50倍』……

ただ、その思わぬ高額の報酬に、当人たちは目を回すばかり……だったのですが、実は、この報酬には、またある一つの『隠された事情』と言うものがあったのです。





つづく

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