第7話

その依頼クエスト―――『黒キ魔女を討伐せよ』は、発注された当初成功報酬の高さもあり、その“額”に目がくらんでしまった冒険者達が殺到してしまった経緯と言うものがありました。


その報酬額―――実に1億リブル……

{*1リブル=1円}


もし、この成功報酬額を手に入れることが出来たなら、後生なにもせず遊んで暮らしてもまだ有り余るだけの高額でもあった……しかしながら、結果的にはその額は支払われることはなかった。

以前にクシナダがシェラザードに説明したように、これまでにも成功例は一度足りとてなかった……つまり、この事実が示すのはたった一つ―――


この依頼クエストを受注した者のことごとくを……


(ム~~)「暇ですねぇ―――まあ、この私が挑戦者の方々を返り討ちにしてきたのですから……仕方がないのですけれどね。」(ムヒ☆)


黒キ魔女本人の証言通り、かの依頼クエストを受注し、黒キ魔女を『討伐』する為に挑んできた者達を……そのことごとくを―――“返り討ち”にしてきた。

だから現在に至っては、シェラザードの様な新規の冒険者で、つ“うっかりさん”でもない限りは皆畏れをなして依頼書自体に手を付ける事などなかったのです。

{*ここで―――では【黒キ魔女】はそんな新規冒険者達かれらにも情け容赦なかったか……と、思いたい処なのですが、そんな者達に対しては熟練者が差し止める傾向にあったのです。

では、なぜシェラザードは手にしてしまったか……それは、『差し止める間もなく手にしてしまった』……つまりは、『間に合わなかった』―――のです。}


       * * * * * * * * * *


その一方―――くだんの最難度依頼クエストを残すのみとなったシェラザード達は、この森で野宿をし一夜を明かしていたのでした。

「それにしても……遭遇エンカウントするの―――って、いつのタイミングになることやら……」

「ああ―――確かにな……けど、【黒キ魔女】との遭遇率エンカウントが高いのはこの森なんだ。」

「ふぅ~ん……(…………――――――)」

「どうしたの?」

「……うん―――ここから……直線距離にして1k先に、襲われている人が……いる?」

「(1k……)すげぇなあ―――あんた……」

「(…………――――――)ありがと」

「どうしたのです。」

これまで成功クリアした例がない―――とは言え、【黒キ魔女】の実物を見ていないから、自分達が『出来るか』『出来ない』かが判らない……

シェラザードの期待感の現れ……と同時に、興味本位もあり【黒キ魔女】の実物を見たい―――と言う欲求もあったのですが……


「(またもけてしまった―――1k先で何が起きようとしているのか……それが判るまでの優れた『索敵能力』。

本当に凄いわ―――あなたって……昨日の身のこなしにしてもそう……木々が乱立する“森”と言う戦場フィールドでも障害にすらならない―――とでも言いたげに……)」


エルフの冒険者は、その身体能力の高さ故に実に重宝されました。

事実クシナダ達も自分達のクランに『シルフィ』と言う女性エルフが所属している事もあり、その能力の高さを知っていた……の、でしたが、そのシルフィ彼女にもして、シェラザード彼女の能力の高さが際立った……


しかも、その判断力も―――



#7;一人の少女と三人の冒険者



「ちょっと―――ギルドか近くにいる冒険者達に伝えて……ヤバいかも。」

「ヤバい―――って?」

「『スター・キマイラ』が……5体―――いや10体??」

「(!!)それは、危険と言うレベルでは―――!?」

「だからお願い!私はこの地点から『威嚇』を行うから、ヒヒイロカネはその地点まで急行して―――」

「“ここから”―――ですか?!」

「そうだよ!ここからなら、私達が近くにいるってことが知れる……“魔獣”―――にも、!!」

「なんだって?“子供”?? なぜそれを早く言わない―――!」

「ここで言い争っている場合じゃない!私も初撃を発射させたら、その地点まで急行するから―――どうにか一人でしのいでて!」


単体でも討伐難度ランク『A』の魔獣が―――10体……

それは最早、残された『SSS』の難度にも匹敵する脅威にもなり得ていた為、その危険性は判ろうと言うもの…しかも、追って付け加えられる情報として、その10体もの魔獣に囲まれ、まさに魔獣の養分になろうとしている『一人の子供』……

その事を、なぜもっと早くに伝えてくれなかったか……と、怒号が飛び交う中、言い争っている時間がもったいないからと、間もなくして標的に“当てない”程度の威嚇射撃が行われる。


そして―――現場に辿り着いた、ヒヒイロカネが見たものとは……

〔こちらヒヒイロ―――くっそう……なんてことだ! シェラの言ってたことが当たりやがった!〕

〔なんですって?!〕

〔スター・キマイラ10体に……恐らく10代前半の少女―――『黒豹』の耳と尾を持つ、『獣人の少女』が襲われようとしている!〕

現場に辿り着き、〔PT内会話チャット〕を使用して、状況のありのままを伝える【赫キ衣の剣士ヒヒイロカネ】。


その10数秒後―――最速で追いついてきた……


「少しでも散らすっ―――〖焔の力よ、焼き尽くすものよ、我に力を与えよ〗=〖ファイア・ボルテックス〗!  応援が来るまで、私達で守護まもるわよっ!」


またしても―――焔の力を付与エンチャントした矢で魔獣の1体を退け、その間隙かんげきいて、獣人の少女の側まで駆け寄る2人の冒険者達……


その―――“少女”が、“誰”であるかも知らずに……


「(まあ―――この方達、私を“助ける為”に? ウフ……ウフフフ―――では、見させて頂きましょう…………)」


ただ―――ひとつ言えたこととは、今回に関して言えば、“被害者側”と言うのならばこの10体もの魔獣スター・キマイラの方だった……それと言うのも、この10体もの魔獣が、たった一人の獣人の少女を取り囲んだと言うのも、この少女が仕掛けた奸計ワナにかかってしまったから―――


そう……“退屈しのぎ”にと、仕掛けた奸計ワナに―――


そうとは知らずに、まるで蜘蛛の巣にいざなわれるように、かかってしまった蝶二匹ヒヒイロカネとシェラザード……

黒豹人族の少女は、北叟ほくそ笑む……その、愛らしい容姿とは、裏腹に―――


そして、また……犠牲者が一匹―――


「救援は要請しました―――それに、ギルドの方も報告いたしました……」

「上出来ッ―――☆」

「それよりもどうした……何かあったのか―――」

「救援の要請はしました……が―――早くとも到着するのに数時間はかかると……   それに、ギルドの方も対応があやふやで―――……」


「(当然でしょうねッ(ムヒッ☆) 大体、私がここへ居る事、お母上には判っている事でしょうし☆ それにしても……中々良い方々じゃありませんか……では、そろそろこの辺で―――(ムヒ~♪))」


“誰”であるかは知らない“自分”に対し、こうまで尽くしてくれる者達の事を、『天使』より血を分け与えられた『獣人の少女』は、気に入ってしまいました。

けれど、事情を知らない彼らにしてみれば、1体減ったとは言え依然と窮地は変わるわけではなく……

「こ~~りゃ、ちょっとヤバいかも―――」

「えっ?! そりゃねぇーぜ?」

「あなた―――勝算があったんじゃなかったの?」

「いやぁ~~私もさ、援軍当てにしてたんだよォ~~しかもそれ、到着するの~~って―――」

「数時間かかるそうですけど……」

「こっりゃ――― 一人か二人……果ては全員、神殿送りになる覚悟した方がイイカモ……」

「シェラさん? あなたねえ?」


「ウフフ―――皆さんお困りのようですね。」(ムヒ☆)


「ああ―――困った……てなもんじゃねえよ……。」

「では、私が何とか致しましょう。」

「『なんとか』~って……お嬢ちゃんが出来るの?」

「できますよ?(ムヒョ?) 私が形成する結界の外には、出ない様にして下さいね?」

「(結界……『陣』?)あなた―――ひょっとすると、術師キャスターなの?」

「そうですよ? 〖我が言の葉は、あまねく危険を回避させるものなり〗=〖エビジョン・アクセラレート〗!」


“一方的な回避”を意味するその術式は、『通常』のモノとは言え、『第八階層』に位置する、かなり高度な魔法と言えました。

しかしながら……そんな高度な魔法を、行使・詠唱が出来ていたのは『獣人の少女』―――その不釣合いな事象に、気付いてくる者も出てきたのです。




つづく

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