第4話

ここは―――魔界でも有数の、『マナカクリム』と言うタウン……

雑多多様な種族がひしめき合い、僅かな衝突はありながらも、未来あす扶助たすけ合う……同じ“仲間”として発展させてきた、冒険者たちの坩堝―――


そんなタウンが、少しばかりざわつき始めました。

その一つは、一人の女性エルフの台頭―――と、あともう一つは……


「ギルド・マスター! たっ……大変です―――!」

「どうしたの、騒がしいわよ。」

「とっ―――取り敢えず、“こちら”を……っ!」

「(!)これは―――……」


『ギルド』という組織は、気性の荒い冒険者たちを統制し管理する処でした。

そして、その『マスタ-』と言えば、小国の王程度の権限を有しているのです。

そして現在『マスター』を務めている存在と言うのが……

『黒豹』の“耳”に“尻尾”を持つ『獣人族』―――そしてまた、現役時代には、こう称さよばれもしたのです。


              【韋駄天ストライダー


と―――……。

今現在では現役時代の功績が認められ、魔界でも有数のタウンである、マナカクリムのギルド・マスターに収まっている……の、ですが―――

実は、ギルド・マスター『ノエル』には、ある頭痛の種があったのです。

その『頭痛の種』―――と言うのが今、ギルド職員を通じて報告された件……だったのです。


       * * * * * * * * * *


それはそれとして―――クランのメンバーだと間違われた女性エルフの方は……と、言うと―――


「ところでさぁ―――あんた達、そのシルフィって言う人と待ち合わせて、なにをしようっての?」

「他人であるあなたに、その事を話してあげる道理があると?」

「ま―――私も、さ、“こんなこと”するの初めてなもんだからさ、一人でやろうか―――他の人と組んでやろうか―――悩んでたところなのよ。」

「はあ~~ん……それでオレが、仲間のシルフィと見間違ったあんたに声かけた―――ってことで、あんたと僅かばかりにえにしを発生させた……と。」

「(エニシ?)そーーーそーーーそれ。 それで、どうするぅ~?私、これでも少々腕には覚えがあるわよ?」

「判った―――こっちも今日は3人で活動するつもりだったんだ。」

「(なッ??)ヒィ君?ちょっと―――……」

「クシナダ―――聞き分けてくれ、オレ達も今のままじゃダメだ……ってことは判ってるだろ?」

「それは……そうだけど―――」

「残ぁ~ん念―――だったわねえ?クシナダちゃあ~ん。」(ニヒヒヒ)

当初の予定に目的では、気の合った3人で少しでも力をつけよう―――と、していたことではありましたが、ここで本来のメンバーである女性エルフ……ではなく、同じ女性エルフながらも、こうまで自分の心を掻き乱してくる者とこれから一緒に活動することをクシナダはあまり快くは思っていませんでした。

今もこうしたやり取り交渉の最中に、必要以上に自分が想いを寄せている男性剣士に、そのボリューミーな肉体を押しつけがましいまでに押し付けてくる、この『エロフ』(笑)に、クシナダの忍耐値のキャパシティは限界を迎えつつあったようです。


それはそれとして―――取るも取り敢えず、3人PTを組んだ者達は、依頼クエストを提供しているギルドへ赴いたのです。

そこで彼らは……また数奇な運命めぐりあわせをしてしまう―――……



#4;黒キ魔女



ギルド提供の依頼クエスト―――

一番難易度が低いもので『E』から始まり、一番難解な『A』まで。 “種類”としては『討伐系』や『採取系』―――と、各種取り揃えられており、バラエティ性に富んでいた……けれど実は、今回に限り一番警戒しなければならない“たぐい”が、そのなかに混ざっていたのです。

しかも……その“たぐい”は、割と冒険者の間では曰くつきのモノであっただけに、例え目のつく処に貼り出されていたところで誰も手を出そうとはしない……眼も向けようとはしない……


けれど―――“彼女”は、ではない……


「(ふぅ~んんん……なんか、簡単そうなヤツばっかだなあ―――)ねえ~~ーーーあのさぁ……」

「ん―――?どうした。」

「ここに貼り出されているヤツで、全部……ダヨネ?」

「そうですけれど―――」

「こんな簡単なのばっかでいいの?」

「あんた―――難度ランク『A』のを手にして、そう言える……って、大した自信家だなあ―――」

「(嫌味なヤツ……)じゃ―――それ受けてみれば?」

「うん―――そうする……あと、コレと……コレと……コレも―――」


「(ホント……嫌味たらしいったら―――難度ランク『A』や『B』を、片っ端から~~って……確かにシルフィは優秀でしたが、あなたみたいに偉っそうにはしませんでしたよっ!)」


自分達がクリアしていくなかでも、相当な苦難を強いられる難度をいとも『簡単』と言い切ってくれる女性エルフ。

確かにエルフは種族的にかんがみても優秀で、それこそ『獣人族』や『ヒト族』『亜人族』に対しては尊大な態度を取ることが多かった。 だから多くの反感を買ったりもするのです。

{*けれど彼らの仲間であるシルフィに関しては、そうではなかったようで……だからこそシェラザードの言動が悪目立ちしてしまうのも、ある意味無理らしからぬ処ではあったようです。}


―――と、それはそれで良かったのでしたが……


ここでシェラザードの目は、ある依頼クエストに釘付けとなってしまうこととなり……


「(ん~~?なんだコレ―――)へっえ~~これ、面白そ~~」

「(―――ん?)あ゛ー----っ!!」

「な―――なんだよ……ビックリするじゃない……」

「バッ―――バカ……お前……あああ~~なんてことを……」

「あなた……それ―――何か判ってて手にしたの?」

「(へえ?)何言ってんの?」


その……依頼クエストは、“種別”としては、『討伐系』―――

そして……難度ランクは―――


                 SSSトリプルエス

            『【黒キ魔女】を討伐せよ』


この魔界で―――冒険者を生業なりわいとする者ならば、次第に耳にしていく『伝説レジェンド』にまで昇ろうとしている存在―――

“漆黒の導衣ローブ”を身に纏い、高度な魔法術式を操る、“術師キャスター”系統の冒険者……

そう―――その依頼内容とは、討伐対象が“モンスター”などではなく……一人の“冒険者”であった―――

そして“これ”こそが、ギルド・マスターであるノエルの『頭痛の種』の正体だったのです。





つづく




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