第3話

本物の王女が城を出奔し、その後……王女の側仕えをあしらってから数時間経った頃、身代わりとなったシルフィは、ある事に気付かされたのです。


「(そう言えば、あの方の『ラペリング』―――随分とこなれているように見受けられたけれど……それに、あの方王族なのだから護身術そうしたものは―――と、思っていたけれど、実は“そう”じゃない?)」


そう……皆誰しもが曲解きょっかいしてしまう事実がそこに―――

それは、ご多聞たぶんにも漏れず、シェラザードも高貴な身分やんごとなき方々なのだから、武芸に関してはうとい―――と、思われがちだったのです。


しかし、それは―――……


         * * * * * * * * * *


エヴァグリム王国の城から、程近くあるタウン―――と言えば、『マナカクリム』でした。

そのタウンの近くの森にある、少々“こんもり”とした、落ち葉の山……

しかし、しばらくすると―――


「ぷっひゃあ~~もう朝かぁ―――よく寝たぁ~!♪ ん~~やっぱ、落ち葉のかおりって、イイよね~~♪ さぁ―――て、と、まずは水浴びをして、それからタウンへ直行よっ!♪」


なんとも……アグレッシヴにも程度があったようでして―――なんと、この“元”王女様は、夜の闇へとまぎれた後、落ち葉をかき集めての簡易性の寝床を造り、そこで一夜を明かしていたのです。

そして、そこから近くの水辺で水浴びをし、棲んでいる魚や小動物を獲り、調理をするなどして―――と、中々に生き残り術サバイバルのスキルにも心得があった事を知るのです。


一方その頃―――そのタウン……マナカクリムにては。



#3;仲 間



「遅いなあ―――シルフィのヤツ……」

「昨日、同じエルフの王族から、ご招待があった―――と、聞かされていましたが……」


「―――に、してもだよ、もう昼前になるぞ?」

「(ふうむ……)彼女の事ですから、時間にルーズになったとは思いたくないのですが……ね。」


『待合い喫茶』と呼ばれている場所で、仲間の一人を待っている、男女一組の冒険者―――

一人は男性で、名を『ヒヒイロカネ』と言い、【赫き衣の剣士】と呼ばれていました。 そしてもう一人は女性で、名を『クシナダ』と言い、【鬼道巫女】と呼ばれていました。


そして、この二人は―――『ヒト族』……


ヒト族は、この魔界せかいに於いては最弱の存在であり、身体能力的にも『亜人族』や『獣人族』に劣り、また魔力に関しても他の種族より劣っていた……ただ利点を挙げるとすれば、その数の多さ―――だけでした。

けれども、中にはこの二人の様に突出して能力が高い者達も現れるなど、他の種族と比べても“特別変異率”が高く、事実“彼”と“彼女”が所属する『クラン』は、数ある冒険者達のクランの中でも先端を奔る者達フロント・ランナーとして、持てはやされていたのです。


そして……シルフィは、そんな彼らの一員―――   けれど“今”、彼女と言えば―――


そんな事とは露知らず、目的地に着いたシェラザードは気が向くまま足が向くまま、街中マナカクリム闊歩かっぽし―――すると、そんな“彼女”を見かけた……


「(あ―――あれ? あの後ろ姿……シルフィじゃねえか―――なんだ?あいつ……オレ達との約束守らなかったばかりか……)」


仲間であるはずの自分達の事など、まるで眼中にない―――とでも言いたげに、近くを通り過ぎていくクランのなかでも重鎮を担う女性エルフ……


だから男性剣士は―――


「おい―――ちょっと待てよ!」

「(は?)……誰だ?お前―――」

「(は?)何言ってんだよ―――オレだよオレ!」

「オレオレ詐欺かあ?今時いまどき流行はやんないぞ、それ―――」

「なっ……何言ってんだよ!オレだよオレ!! お前と一緒のクランに所属してるヒヒイロカネだって!」

「(お??)おお~~~そういやそうだった―――カナ?! いや~~っはっはは―――ちょっと軽く記憶がフッ飛んじゃってさあ~~。」

「だっ―――大丈夫か? そういやお前……昨日エルフの王族に呼ばれた―――って……もしかしてその帰りに?」

「(……)う―――うん……まあ、そんなとこ……(いきなり背後うしろから肩叩かれてビックリしちゃったんだけど……こんな見ず知らずの私に対しても―――…って、あ、そか、確か私の身代わりに仕立て上げた子って、冒険者だったよねぇ?……てことは、この男性が仲間―――

ふぅ~ん……これが“仲間”―――ってヤツなんだ……イイもんね―――悪くないわ。 そ・れ・に、この“彼”……よく見ればイイ男じゃなぁい?♪)」


男性剣士にしてみれば、いつもとは違う仲間の有り様に対し、優しく接した―――でした。

しかしそう……これは結果論でしかないのですが、今ヒヒイロカネが話しかけた女性エルフは『全くの別人』――― その全くの別人が一人の男性に対し、次第に頬を紅潮あからめて行く様に……

「ちょっとあなた―――!? 私のヒヒイロ様に何を色目使ってんの!?」

「は? 何言ってんだクシナダ……こいつ、シルフィ……」

「ヒヒイロ様は黙ってて―――ねえ……あなた、どう言うつもりなの?」

「そう言うあんたは誰―――? それに『私の』?ふぅぅ~~ん……つ・ま・り、このイケてる男性―――って、あんたの『所有物』なわけぇ?」(ニヤニヤ)

「なっ―――なんてふしだらなことを~ヒ……ヒヒイロ様は、“モノ”ではありませんっ―――!」

「へっえぇ~~―――なるほどナルホド……じゃ、つまり―――このイケてる男性……まだあんたの『オトコ』じゃない―――ってことで、イインダヨネエ~~?」(グフ グフ グフフフ)


その変わり様をいち早く見咎みとがめた者こそ、どうやらクランの仲間である男性剣士に、ほのかな恋心を寄せつつある、巫女装束に身を包む女性だった……しかも、『ほのかな恋心を寄せつつある』―――と言う事は、自分の想いの丈を、告白した事など、ない――――――――のに、弾みとは言え、人々が沢山いる中で、ってしまった―――……


ただ、哀しきは、『自覚がない』……


あるとすれば、いきなり現れた女性エルフに、想い人を寝取られる危機を抱いている、だけ…………


しかも―――


「ちょっ……ちょっと待て、お前ら~~!だ……だだっ……大体、お前ら、仲間同士で争い合って、どう言うつもりなんだあ~??」

「ヒィ君……けど―――けどね?」

「それにクシナダ―――お前、シルフィとはあんなに仲良かったじゃないか!   なのに……なんで……」

「待って?待ってよ―――ヒィ君……そいつ、シルフィじゃないわよ?」

「は? いやだって―――シルフィじゃ…………そうなの?」

「はァ~~ヤレヤレ―――確かにそうダヨ。 私は、あんたたちのお仲間であるシルフィじゃない、私の名は、シェラザード―――よ。」

「(シェラザード……?!)その名前……エルフの王国である、エヴァグリムの王女様のお名前と同じ―――」

「ふぅ~ん―――中々いい勘してる……て、言ってあげたいところだけど、シェラザードこの名前―――って、結構エルフの中ではポピュラーなのよねえ~~   ざぁ~んねぇ~んでした―――。」(ンベッ)


自分達が仲間だと思っていた女性エルフ―――しかし、本来の仲間であり、深い友誼ゆうぎを結んできた者により立ち待ちのうちに看破みやぶられ―――は、するものの、そこはすでに想定通り……しかも、本来の名前を明かしたところで、実際に『シェラザード』と言う名前は割とエルフ族の中ではポピュラーだったものと見え、二人は自分達の前に立つこの女性エルフが『本物の王女』であることに気付くのにかなりな時間を要してしまうこととなるのです。




つづく


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