第2話

これまでは―――民衆エルフ達の為を思い、良い献策をしている……と評判だった、『エヴァグリム国王女』シェラザード……


その彼女が、初めて自分の“慾”の為に動いた―――


そのことにより、『決してこのような行動には至らないだろう』―――と、思っていたから、出し抜かれてしまったのです。


そして、“お望みのモノ”が手に入ったかと言う様に、早急に閉会されてしまう『晩餐会』。 そこには、怨嗟えんさの声も上がりましたが―――王女にしてみれば、さほども気にするような様子もなかった。 ただ―――気もそぞろだったのは、訳も分からず王女の部屋へと連れてこられた、一人の庶民の女性エルフ……


「(は……ぁ…………す、すごい―――なんて豪華なお部屋……。

けど―――どうして……どうして私だけが?)」


少しばかりこの『シルフィ』についてお話しをしておきましょう―――

彼女は言うまでもなく、一般庶民のエルフでした。 そして職業は『冒険者』……普段は仲間たちとPTを組み、『ギルド』と言う組織から提供される『依頼クエスト』というものをこなし、その『成功報酬』などで生計を立てている―――しかしながら……“危険”は、ない―――わけでは、ない……常に、生命の危険“死”と隣り合わせ―――それが『冒険者』と言う職業でした。


そして、そんな彼女の『経歴プロフィール』に目を通した王女は―――


「(……)ふぅ~~~ん―――イイわねぇ……益々気に入ったわ。」

「(えっ?)あ……あのぅ~~―――そう言えば、先程もそのようなことを……   こんな私の、どこが『イイ』と仰るのでしょう?」

「(……)私ね―――幼い頃から本を読んできたの。」

「(は?)は……あ―――」

「そのなかでも、一番好きな本―――『緋鮮の記憶』……」

「(!)古代の『英雄譚』とされている……?!」


『緋鮮の覇王』とたたえられた、一人の英雄を軸に描かれた群像劇タペストリー―――

『清廉の騎士』『神威』『韋駄天』と言う多くの仲間たちと力をあわせ、やがては強大な悪としての象徴―――『魔王』をたいらげるという、割とどこにでもあるような創作話おはなし―――


ただし……創作話そのとおりならば……なのですが―――


「けど……あなたも感じているんでしょう? 決してこの創作話おはなしは、創作そうじゃない―――」

「(!)はい―――確か……作中に出て来る『美麗の森の民』―――って……」

「そう……王族わたしたちのご先祖に当たる、『ローリエ』と言う方がモデルじゃないか……と、噂になったこともあるし、事実この私も、そう思ってる……。」


脚色されている部分も多様にしてある―――とは言いつつも、ほんの少しばかり“真実”が盛り込まれている。 創作話でありながらも、いまって色褪いろあせもせず読み続けられるまでに人気があるのは、そうした理由があるからだ―――と、言われてはいるのです……


              が――――――………………



#2;もうイヤな予感しかしないんですけれど



この時シルフィは、不運ながらも直感してきづいてしまいました。

現在―――自分が、王女の部屋ここへと連れてこさせられた理由……


「あ……あの……お? お―――王女……様?」

「―――てワケでぇ♪ 私の身代わりになってぇ?♪」


「(ですよねえ~~~?? い……いや、と言うか……どうしてこの人、こんな無茶ブリをぉ??)」


こんなことになるならば、あの時に声を掛けられた時点で気付き、お断りをすれば良かった―――とは、結果論であるにしろ、“のこのこ”と王女の部屋ここまでエスコートされているから、最早どうにもならないでいるわけなのでしたが―――王女にしてみれば、足掛け10年にもわたる『計画』だったがゆえに、生贄スケープ・ゴートが固まっている間に、着々と準備を進め―――


「ま……王女―――つったって、黙って淑やかにしてさえいれば怪しまれないから。 その辺は、この計画練り始めた10年も以上前から心象イメージ与えてきたことだし……まあ~~その時の苦労たるや、並大抵じゃなくってねェー--。 一時期ストレスで胃が痛くなっちゃって、食事受け付けなくなった時、『私ゃこれで死ぬんかな~~』て、思っちゃったりしたわけよ。 ホントはそんなことないんだけどねえ、あ、それからさあ―――城から出る食事って、基本『晩餐会』の時より豪華だから、ビックリしちゃわないでね~? あとお風呂―――バカみたいにただっ広いけど、一人で入浴はいってね。」


……などとまあ―――この王女様ときたら、あの晩餐会での立ち居振る舞いや、庶民エルフ達の間で噂にまで上っている、数々の心象イメージを次々とブチ壊すかのような言動の数々をして一人の庶民女性エルフの、憧憬あこがれとして抱いていた偶像は、音を立てて崩れ……逝き…………


ですがしかし―――……


「ぃようし―――出っ来上っがりぃ~♪」

「(あ……っ……)これ―――が、私……」


『身代わり』『替え玉』の仕上がり―――とでも言う様に、一人の庶民者の前に置かれた姿見には、どこからどう見ても―――の、『王女様』がそこにはいました。

そして、かつては王女者は、まるで以前の自分庶民と同じような服飾に身を包んでおり…………


「王女―――様……?」

「ダァ~メ!『今』からあなたが、王女様よ―――そこんとこは間違わないでねっ☆ 、周りにも気付かれちゃダメよ―――」

「ですよねえ~~??だったらどうして―――」

「悪いけど、“今”その事は話すべきじゃないと思ってる―――ま、その内機会があれば話してあげるけれどね。 それに、私はさ……見てきたいんだ―――『自由』に、『世界』を……」


「(えっ?)自由―――、世界を?」


庶民あんたたちから見た王族わたしたち……って、どんな風に映ってる?喋らなくてもいいよ……判ってるから―――庶民あんたたちより恵まれた暮らし衣・食・住―――……けれど、これから王女になってもらうあんたには、是非とも見てもらいたい……そして知ってもらいたいんだ。 は所詮、上辺うわべでしかないってことを。 本当にさ……王族わたしたちって、限られているんだ―――私はその事を、城を偶々たまたま訪れた『吟遊詩人』に初めて聞かされてね、王族わたしたちがお腹一杯になっても供されてくる皿―――けれどその反対に、飢えて死んでいる子供たちがいる……そのことを知るまで、私は庶民あんたたち王族わたしたちとそう変わりない営みを誰しもがしているものと思ってたのに……だから私は、この城を出奔る―――出奔て、自由にあるがままを見てきて、そしてのヤツに突き付けてやる―――……」


王女は、ただ―――自分の我が儘により行動に移ったわけではありませんでした。

そしてやはり、“きっかけ”となったわだかまりがあった―――それが10年以上も前、たった一度だけ訪れた吟遊詩人がもたらしてくれた真実モノだった……とは言え、その最初は伝え聞いたのみだったから、虚か実か判らない、だから王女は『行幸みゆき』と称し、領内を見回ったのです。

それも、幾度となく―――幾度となく―――繰り返し行ったことで、見えてきた真実モノがあった……あの、吟遊詩人が言っていたことは、いつわりではなかった―――……

思えば『そこから』……そこから王女の計画は練り上げられ―――


そして、今―――――――――


「あ―――あのっ、王女様……?!」

「悪いけど、お喋りしてる時間ないし―――私はここから出て行くよ。 あと数分もすれば、『セシル』って言う、私の側仕えが見回りに来るから、適当にあしらっといて――――ね!」


そう言うなり、一介ただの冒険者と成った者は、ロープを巧みに使って城壁を素早く伝い降り、闇のとばりに消え去った……


         * * * * * * * * * *


すると……数分も経たない内に―――


「失礼します―――シェラ様……」

「(あ……)はい―――」

「(うん?)―――……。」

「(―――)どうしたの、セシル……」

「いえ、なんでも……それよりどうして窓を―――?」

「部屋の空気の入れ替えよ。 それとも―――そんな事も出来ないの?」

「そういうわけでは……失礼いたしました―――」


王女の側仕えが部屋から去った瞬間―――汗が噴き出てきた……『冷汗』『脂汗』、あの時の自分の一挙手一投足を疑いの眼差しで見られた時、すぐにバレた―――と、思いましたが……ふとしたことで知れてしまった、本物の王女様の想いに、身代わりとなった王女はつくろったものだったのです。

けれど、そうしたことは、『ほだされた』―――とも思われなくもありませんでしたが……もし、次代の統治者が、庶民の実情を知ってくれているお方ならば……と、そうした彼女の想いがあったのかも知れません。





つづく


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