第5話

黒キ魔女それ自体がなんであるか判らず、思わず手に取ってしまった―――言ってみれば“初心者”にも等しい冒険者、シェラザード。

けれど今回数奇な運命を辿たどりながらPTを組んだヒヒイロカネとクシナダにしてみれば、知る人ぞ知る―――ある意味での“超”有名人いわくつきのじんぶつだったのです。


「なっ―――なによう~~コレ手にしちゃいけなかったわけぇ?だったら元の場所に戻すよ―――それでいいんでしょ?」

「“それ”が出来たら―――な。」


「(は?)何言って―――……はああ~~―――? な、な、なな……」


             なんじゃこりゃあ~~!!?


その依頼書それには一種の“呪い”がかけられているのよ、いくら興味本位だったとしても手にした時点で、お・し・ま・い―――これ、どう言う意味だか判るわよね?」

「(~~~)だっ―――だったら、破いて廃棄……あっるぇえ~~―――??や……破ったはずなのにいぃ~~?!」

「お生憎様―――その依頼書それを廃棄するのには、条件が必要なのよ。」

「どっ……どんな?」

「一度死ぬ行動不能に陥るか―――それともクリアするか……」

「し―――死ぬにょ??」

「ま―――死ね行動不能に陥れば、『大神殿』と言う場所で復活はできますけどね? それより、最寄りの良い情報があるのですが……教えてほしい?」(ニヤニヤ)

「ぜっ―――是非ともぉ~~クシナダさまぁ~~」

「止めといてやれよ―――クシナダ……」


(プククク…)「未だ、クリアした人―――」


               0ゼロ


「(!!!)しょ―――――――」


             しょほんなああぁぁ~~ーーー


そして、これまでにも目立つところに貼り出されておきながら全くの“手つかず”の理由も判明してしまった―――そう、この依頼書自体に何者かによる強力な呪縛がかけられており、一度手にしてしまったら二度と離れない……しかしながら、解呪の方法は、なくはなかったのでしたが―――その条件が、『未だ誰もクリアできていないのに、クリアしなければならない』と言うのと、『受注者の死亡一時的な行動不能』―――とくれば、その呪縛の性質たちの悪さが判ってくるというもの。

それはそれとして、事の真相を知ってしまったシェラザードも当初の威勢はどこへやら、今となっては少々大人しくなり2人の後を“とぼとぼ”といていくしかなかったようです。

「ま……元気出せよ―――“死亡”……って言ったって、この世からいなくなるワケじゃないから……。」

「アリガト~~気休めでも、アリガタイっすよ……」

「それより―――あなた、他の依頼クエスト『簡単だ』と言い切ったんですから、ちゃっちゃとこなクリアしてもらいますよ。」

「はぁ~いはい―――(ちょっとはポーズでもいいからさあ……慰めろ―――ての。)」

「何か言いました?」

「なぁ~ンでも―――」

「お喋りすんな―――二人とも……来たぞ。」

「『グレイテスト・トロール』2体ですか……シェラさん―――あなた、回復魔法はお持ち?」

「はえ?一応持ってるケド―――別に要らんでしょ?」

「あなたねえ~え??」


「(どこまでも嫌味なヤツなんでしょう……)」


クシナダは、その当初からこの女性エルフに関しては嫌悪を抱いていました。

それは、今まで付き合いのあったクランメンバーの女性エルフの優しさと言うものを知っていたから……そのクランメンバーとは違う、この女性エルフの有り様に―――そしてまた、自分が想いを寄せる男性剣士に積極的にくっつき合う―――そのうらやましさゆえに……しかも、のっけから難度ランク『A』の討伐対象である『グレイテスト・トロール』2体に対しても、『回復魔法など不要』―――と、したことに……


「(この人は何も判ってはいない―――トロルと言うのは、“巨人”の亜種にして、多少の傷を負ったとしても『自己回復』の常時発動型能力パッシブスキルを持っている……その上、攻撃力・防御力も、他のモンスターと比べても程度以上もあると言うのに……だから―――回復魔法は必須なのに……!)」


               だ      が



#5;シェラザード―――その実力



「ヒヒイロ―――あんたはその剣で、現在手持ちの最大級のスキルを使用……そしてクシナダも、手持ちの最大級の術式展開を―――」

「はあ? 構やしないけど―――相手2体だぜ? それに―――……」

「(そうよ―――この連携で、1体を“必ず”仕留める……なんて、言い切れやしないのに……)」

いきなり2人とも、現在の時点で自己が持ちうる最大級に攻撃力があるスキル武技/術式の使用開放を指示された。

確かに―――その指示に従えば、1体は撃破……

しかし、それが“必ずしも”―――と言う保証など、どこにもない……

もし、仕留め損なえば“手負い”と化し、より厄介な敵と成らざるを得ない……


けれど―――とは言え……


「いっくぜえぇ~~―――≪炎舞煌殺剣≫!」

「ままよっ―――!  ≪阿頼耶識:雷霆:東方青竜≫!


「(ヒュ~♪)やぁっるう~~♪ じゃ―――私も!」


そこで……見る―――魅させられる……

難度ランク『A』をしても、『簡単』―――と、言わさせしめた彼女の実力を……


エルフと言う種族は、実に優秀―――であるが故、冒険者としても重宝がられました。

『近接戦闘』『遠隔戦闘』『魔法戦闘』に関しても比類なき性能の良さ―――

ヒヒイロカネやクシナダのクランに所属するシルフィは魔法専門職であり、

その中でも『治療』『回復』を専門とする『回復師ヒーラー』でした。


けれど……“彼女”は―――


「(剣……?あいつ―――オレと同じ……『剣士』なのか?)」


【赫キ衣の剣士】である彼が見たものとは、その手に自分と同じ長剣を携え、“突風”を意味するスキルを解放する、エルフの剣士―――??


             ≪千烈の突風サウザント・ラファーガ


信じ……られない―――グレイテスト・トロールを……私達だけで、『あっ』と言う間に撃破……?! けど―――もう1体残って……いる?!

ヒヒイロ様と私は、最大のスキルを使用したがゆえの、硬直があります……がっ―――   その事を計…………算――――――


シェラザードが発動させたスキルも、階位クラス的には自分達が使用したモノと、そう変わりはなかった……だから―――今、自分達が陥ってしまっているように、技や術使用後の硬直クール・タイム―――や、再発動リ・キャストは考慮しなければならない。 ただ―――こうした問題を切り抜ける方法は、あるのです。

それを……目にしてしまう―――


              ≪武器換装・弓チェンジ・モード・ボウ


ただ―――“それ”をするのには、条件と言うものがありました。

その条件と言うのが、『武器換装』をする武器の修錬度が80以上でないと、可能ではできない―――


それだけならまだしも…………


「(あ……ッ)あいつの弓―――弦が張られていないぞ!?」


『“弦”が張られていない“弓”』―――ほど、役に立たないものは、ない……

けれど、―――その“弦”や“矢”が、だったらば……


「〖焔の力よ、焼き尽くすものよ、我に力を与えよ〗!」


「『付与魔法エンチャント』……“弦”や“弓”が―――魔法!!」


「グッバァ~イ☆グレイテスト・トロール……  〖カラミティ・トゥーレンツ〗!」


          へへッ―――燃えたろ……?


使用後の硬直無視リ・キャスト・キャンセル』―――を使用し、発動されたのは、弦も矢も魔法によって形成された『魔力の弓矢マジック・ボウ』でした。

しかも、焔の力を付与された『火矢』は、やがてエルフの手から放たれると数百の矢と化し、残されたグレイテスト・トロールを焔の中に包み込み、焔の海へと沈めるのです。




つづく


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