第3話 情念の暴発

 少しでも名残があればいいのだが、周囲は完全に荒廃した更地である。

その中を歩いている一人や二人など、世界という一本の線で見れば存在していないのと同じ事。


『ザザ..ザザザッ...』

「磁場が荒れてきたのか?

電波に乱れが生じていやがる。」

手のひらに乗せた電波レーダーがノイズのような音を立て不快音を鳴らしている。赤いランプの色は変わらない。

「風は吹いてるか?」

「..いや、そうでもない。

偶に砂が舞ってるけど通り風に晒さられてるだけ、いつも通りだよ」

装置の不具合か、やはり即席では思うような稼働はしないのだろうか。


「近いのかもな、それともまた犬か?

電波を絶妙に散乱させて撹乱させてる

..って相手はオレたちの事知らねぇし機械があるのもわからねぇよな。」

 側面のネジ部分や立て付けを調節し機械を操る男の手際は凄く慣れている人といえど身体は機械、気持ちが分かるとでも言うのだろうか。


「イジるの得意なんだね、機械。」

「あぁ、まあな。

元々はエンジニアでこれと似たような事をやってたんだ。最近は偶々道端に機械が多く落ちてっから、使う回数が多いってだけだよ。役には立たねぇ」

手に職というのはモノが無くても重宝するようだ、モノによるが。


「お前は、こうなる前は何を、してたんだ。話せるか?」

「…いや、覚えてない。

漠然とした街並や景色は覚えてるけどパーソナルは全然...ダメだよ。」

「そうか、お前も記憶を機械化したな

..でもそれで正解だ、記憶を消した大概の奴はいい思い出を持ってねぇ。」


記憶の有無は、改造の際に選択出来る

「記憶はいらない」と答えた者は軒並暗い顔をしていた。

「妹さん、治るといいね」

「..まさかお前、残しておけば良かったって後悔してんじゃねぇだろな?」

「してたって今更遅いよ」

「..まぁ、そうだな。」

以外に達観していたが、単にすがるものが無いだけか。前を向くというのは前向きに捉われがちだが、後ろを向いて何も無ければ見える方向は自ずと前方になる。通常よりも視野が限定されているだけの事だ。


「…ん、何か反応が」

赤いランプは変わらないが、本体がバイブレーションのように強く揺れ電波の乱れを生じさせている。

「目的が近い?」

「いや、違ぇな。

強い妨害電波が出てるか、ノイズの発生源は..ゾロゾロした賊軍かもな」

「賊軍?」

辺りを警戒した矢先、それは現れた。〝先程〟と同様、周囲を囲み唸りを上げて吠え猛る。


「バウ!」「やっぱか..。」

「さっきより多い、手こずりそうだけどやるしかないか。下がってて」


「いや、ここはオレがやる」「え?」

拳を構えたポピラを制して前に出る。

囲まれたときは範囲攻撃が最適である

「こういうときの為だぜ。

チマチマと〝素材〟を集めたのはな」

指を傾け犬の群れを挑発する。

引き付けられた犬はバンビーを警戒し近付いては大きく吠える。

「円が一回り小さくなってる」

「しゃがんでうずくまってろ、下手に動くと被害を被るぜ?」

発信器をポピラに預け注意を促す。

手元には、以前もぎ取った黒い鉄屑。


「バウ、バウバウッ!」

「威勢がいいな、これでも食らえ!」

円を描いて腕を振り上げると、囲った犬が音を立て弾け、爆風と共に火花を散らして吹き飛んだ。身体は当然スクラップ、発信器の異常も元に戻った。


「すごいっ..!」

「見たか、これがオレのギアの能力。

〝エクスプロード〟爆破の力だ」

金属の燃料を素材とし、爆撃を起こす

使用する場所が砂漠なら音こそ響くが大概は危険を伴わない。

「僕危なかったけど..?」

「死んでねぇなら大丈夫だろ。」

都合の良い解釈だが別状は無い、良しとするが今だけだ。いつ巻き添えを頂くかわかったものではない、ポピラはバンビーの荒々しい性質共に警戒し護りに勤める事を誓う。

「燃費悪りぃ能力だと思ってるか?

実はそうでもねぇもんでな、爆破させれば素材は手に入る。ゴミも使いようってな、便利だろ」

ガラクタと化した犬の亡骸を拾い集め備え付けの収納庫にしまう。雰囲気に似合わず散らかさないのはいい所だ。


「発信器を見せてくれ」「あ、はい」

「…正常だな。

だがまた不具合を起こされたら困る」

知らない振りをすれば丁寧に生きられるものを、ポピラは不器用にその先を問いただしてしまう。


「どうするの?」

「犬の二匹ほど爆撃を緩めた。少しイジればまだ動く筈だ」

「まさか...」

「オレたちの飼い犬にするんだよ。それに乗ってレーダーを垂れ流す」

「ガラクタ犬に乗れって事⁉︎」

不安定な死に損ないにライドオンする事を、徒歩よりも安定すると考えている彼の思想は不安定でしょうか?


「急げよ、風は待ってくれないぜ!」

「..強風吹いても走れるの?」

ゾンビ犬、ギアを求めて再発進。

特許なし保証なし説明書なし

無事に目的地に辿り着く希望なし

それに伴い実施を止めるつもりなし。


『ギー..ガチャン、バウ、ババウ...。』


「なんか変な音してるけど?」

「鳴き声だろ」「鳴き声以外にっ!」

砂に照りつくキカイが吠える。

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