(送ったやつに「永遠」を足したリメイク)

 昔、ポストにフェイスベールが届いた。白くて、ハンカチのようにも見えた。添えられた手紙には、あなたは生きている限り被っているものだから、使わず置いておいてほしいと書かれていた。

 走馬灯が駆け抜ける中、ふとそんなことを思い出していた。駆け抜ける映像は逆向きに過去を辿っていた。どれも二度と戻れない過去の思い出。懐かしいような虚しいような気分で映像を見続け、痛みも感じない頭でぼんやりと考える。わざわざタイムマシンを手に入れたけれど、生きることそのものが一方通行のタイムマシンに乗ることだったのかもしれない。家族や友人を置き去りにして始めた未来の旅が、さして意味も無かったことに気づき、笑えてきた。

 私のそばにもう生きている人はいない。未来を行くだけの一人旅は、栄え、争い、滅び、退廃した未来にたどり着いていた。どこかで拾った病は全身を侵し、私自身も永遠の滅びに近づいていた。

 思うように動かない体で、あの白いフェイスベールを取り出す。これを私に送った人は、こんな未来を見越していたのだろうか。もしかしたら、タイムマシンをくれたのは、彼か彼女の意図したことだったのかもしれない。これは生きていてフェイスベールを剥がせない私への、彼か彼女にとっての餞別で、私にとっても生への餞別の証となる。

 フェイスベールを顔にかけると、身体は糸が切れたように動かなくなった。走馬灯は、やがて小学生の頃見た風景を映し出す。ずっと忘れなかった思い出の風景だ。小学校の校庭に散った桜のはなびらが、ふわりと舞い上がって視界を覆い尽くす。その一枚一枚が枝に帰った時、眩しく光を放って、走馬灯は終わった。

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ワードパレット(Twitterより) 蜜柑 @babubeby

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