もの書きの学生は未来を見ない

貝塚息吹

第1話 もの書きの学生は未来を見ない

 スマートフォンに指を滑らせる。原稿用紙をやめたのが懐かしい。あの、勢いだけでつまらないものを投げ捨てていた頃の気持ちを忘れてしまった気がする。


 ふと、机を見るといつしか描いた絵がそのまま残っていた。胸の奥に煮えた気持ちの悪いものが沸き上がってきて、それを抑えるために絵を閉まった。


 沸き上がった気持ちが原動力になったせいか、指の動きが活発になる。


 わかってる、これは勢いだけのものだ。きっと、後で見て自分自身を殴りたくなるだろう。

 でも、今はいい。進みたいから。


 気づけば夜中だった。明日も学校に行かないと。


 布団に潜る。目を瞑ると頭の中でぐるぐるとキャラクターたちが動き回る。今すぐ起きて続きを書きたくなるけど、それをすると眠れなくなってしまうことはわかっている。

 だから、仕方なく妄想だけで我慢して眠りにつく。



 朝、起きると頭が重い。昨日、やたらと夢を見たせいか眠りが浅いらしい。


 寝ぼけた頭のまま、学校へいく支度を整えて登校する。


 学校は退屈だ。勉強が必要だとか、今後のために色々考えないととか色々とあるだろうが、そんなことはわかっている。


 必要なことだろうが、大事なことだろうがつまらないものはつまらない。気に入らないと思っていても面白い作品は面白いものと同じだ。


 単純に、学校にいると創作だなんてできない。

 いや、できなくはないが、同級生に群がられて珍獣扱いされるだけだ。


 この空間だとそういうことをするのが許されるのはカーストトップが遊びでやることぐらいじゃないだろうか。

 いつだって、小説を書くことなんて迫害されるものなのだから。


 窓の外を眺める。嫌々やらされている体育の授業が見える。運動部でも、こんな瞬間に全力を出すのは嫌ってことがあるらしい。

 自分のできないことができないくせに、その分野で手を抜いているのを見るとひどく気持ち悪いが、人なんてそんなものだ。

 けれど、わかりやすくできることがあるのに、と思ってしまう気持ちが止められない。


 だって、私には何もないから。


 できることがあると思った。何かしら、自分だけの何かが。


 絵を描いてみた。楽しかった。夢中になれた。

 歌を歌ってみた。楽しかった。もっと工夫できるんじゃないか、と考えて続けることができていた。

 他にも、色々と。

 でも、すべてダメだった。これは、私にできることなんかじゃない。遠回しにうざいということを伝えられたこともあった。所詮、始めたばかりなのだからそんなものなんだが、それすらもわからないままやめた。


 最後に、小説を書いた。最初は台本みたいな書き方だった気がする。

 それを続けて、少しずつ前に進んだ。ネットでの知り合いと一緒に続けてただただ書き続けた。


 いつしか、相手のあら探しをしたりして傲慢になっていたこともあったが、そんな時は過ぎて今はただ、知り合いをすべてなくして一人で書いている。


 明確な知り合いがいなくても、ネットの海は広大だ。投げていれば、僅かながら反応があったりもする。

 それだけでいい。一緒に頑張る知り合いなんて、関係が崩壊してその場所にいられなくなって邪魔になるだけだから。


 これも、絵とかと同じで私だけの何かじゃないことはもうわかっている。一度だって絵を描いたり歌ったりしたときと違って夢中になれたことはない。

 ひたすら、どす黒い感情の渦を文字に変換させていくだけだ。


 劣等感に苛まれて、それでも書いた。きっと、これが私に合ってるものなんだろう。


 授業が終わる。教室が騒がしくなる。ここの人たちを見ると私の劣等感が膨れ上がっていく。学校生活なんて楽しめるものじゃない私よりも、みんなは圧倒的に上にいるから。


 彼らは正常で私は異端だ。この考えは、学校という一つの世界にいる限り、変わったりしないだろう。


 でも、それが私の創作を盛り上げてる、という事実もなくはない。


 けれど、いつしか人間社会という宇宙に取り込まれて、広い世の中にポツンと佇む私は今よりも惨めになる。


 だから、学生の間に書くしかない。大人になったからって、すごいことなんてできやしない。


 学生のうちに進み続けるしかない。それしか、きっと楽しいことはないのだから。


 朽ちるまで、劣等感と共に走り続けていたい。


 けれど、この想いもきっと枯れてしまうのだろう。

 そんなことを考えたくなくて心の底にしまって、妄想を続けた。

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