第20話:語られる過去
これは中学生の頃の話。
私にはとても仲のいい女の子がいたの。
たぶん私が親友って言えるのは彼女だけ。
これまでも、これからも。
毎日一緒に帰って毎日一緒に遊んだ。
とにかく仲がいいってご近所さんの中でも有名だった。
そんな仲がよかった私達なんだけど、あの日は喧嘩しちゃったんだ。
初めての喧嘩だったと思う。
今となっては理由なんて思い出せないくらいしょうもない理由だったんだけど、当時の私にとっては大きな事だったんだろうね。
始めは大した事なかった口論は次第にエスカレートしていった。
何で分かってくれないの?
何でそんな酷い事を言うの?
私は遂に泣き出してしまった。
泣き顔なんて見られたくないから、私は闇雲に走り出して公園を飛び出してしまったんだ。
だから私は気づかなかった。
目の前に猛スピードでトラックが迫っている事を。
反射的に目を瞑った私。
そこで一旦意識は途切れた。
何分か何時間か、もしかしたら数秒だったのかもしれない。
ズキンとした激しい頭痛で私は目が覚めた。
「いたた……」
頭に手をやるとべっとりとした血が手のひらを真っ赤に染めた。
倒れた時に頭を打ったのだろうか。
というよりもなんで私は公園で寝ているの?
「確か私はトラックに轢かれそうになったはず……」
頭がすっきりしない。
ふらふらと立ち上がり、家に帰ろうと公園の入り口の方へ顔を向けた私に飛び込んできたのは想像もしなかった景色だった。
そこにあったのは、一部分が真っ赤に染まったトラックのフロント部分、そして無残な姿の親友だった。
実際にその瞬間を見た訳では無いけれど、なぜ親友が轢かれてしまったのか、なんて想像に難くなかった。
グニャリと視界が歪む。
心臓がありえない速度で脈を打ち息苦しい。
さっきより一段と頭痛が激しくなり、私はそのまま意識を失った。
「なんで? なんで私じゃないの?」
次に目覚めた時私は病院のベッドにいた。
真っ白の壁に、真っ白のベッド。
すべてが真っ白の世界だった。
後から聞いたことだけど、やっぱり彼女は私を庇って死んでしまったようだった。
あの時あんなどうでもいい事で喧嘩なんかしなかったら良かった。
自分を責める後悔の念がどっと押し寄せて来た。
涙は拭っても拭っても溢れて来た。
そして泣き疲れて眠ってしまったら、夢の中に彼女が出て来た。
『なんで私が。なんでお前が死ななかった。なんで私が……』
夢の中で彼女の声が何度も何度も聞こえて来た。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……」
この時の記憶は今でも曖昧なんだけど、私は突然奇声を上げたり、無表情でずっと泣いていたり、ボーっとカッターナイフを見つめていたり、とにかく常に目が離せない状態だったらしいの。
そうして私は精神病院に入院する事になった。
先生や周りの人、親友のお母さんでさえ私を気遣ってくれた。
許してくれた。私は悪くない。
彼女が死んだのは仕方のない事だって。
私もそう思った。
そうでも思わないと、心が壊れてしまいそうだったから。
でも私が自分を許そうとした時、決まって彼女の声が頭に響く。
『なんで私が。お前が死ねばよかったのに。そうしてお前も私を忘れるんだな』
ここから飛び降りれば楽になれるだろうか。
屋上に足を運ぶ度思った。
でもその一歩は絶対に踏み出せなかった。
やっぱり怖かったんだ、死ぬのは。
あの事件から約一年経った。
どんな事でも時間が解決してくれるって言うよね。
これだけ私に大きな衝撃を与えた事件も中学を出る頃になると症状はマシになった。
この頃になると、ずっと私を悩ませていた声も聞こえなくなっていた。
症状も良くなったので精神病院への通院も終わった。
そして高校に入って君に出会って、今年ソウに出会った。
私にとって彼は救世主だった。
彼は見た目の通り私にとっては天使だったんだ。
叶えたい願いはなにかとソウは言った。
私は迷うことなくこう言った。
『親友を失ったあの日をやり直したい』
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