おまけのオマケ? ~山之蔵奏の放課後~
(修司くんには少しばかり悪いことをしてしまったね……)
乙女の秘密を探ろうとしてきた風時修司にお仕置き?を加えた後、彼はトボトボと下校していった。
そんな姿を見た彼女達は我に返り。今回は暴走?してしまった自分達にも落ち度があると自覚したので、次会った時にお詫びをしておこうと。すぐに3人で密やかな反省会?をしていた。
『……やり過ぎてしまったかな?』
『修司さんのあの落ち込み様を見てしまったら、かわいそうに思っちゃうわねぇ』
『そ、そもそもカナデがワタシに期待させるような、あんなことを言ってくるのがワルいじゃない!』
『そ、それは工藤先生が紛らわしいことを言っていて……それにレイナだけではなく仁美だって――』
『……シラナイ』
『私も知りません』
『待って! 二人とも乗ってたのに裏切るの!?』
『と、とにかく……もしかしてシュージに嫌われてないわよね……ワタシ達?』
『これはしっかり話し合ってから謝るべきだと思うわ……』
『……そうだね』
『こーいう場合は……ヌイデワビロでいいんだっけ?』
『レイナ、それは間違っているから。修司くんに裸を見せつけたい欲情でもあるの?」
『ハ、ハダカ!? ヨクジョー!? チ、チガウ!』
『それで修司さんが許してくれるなら、私は喜んで……』
『『…………!』』
先ほどまで、こんなアワアワとしたやり取りをしてから仁美もレイナも下校して、今現在生徒会室には奏1人だけが居残っていた。窓には空からオレンジに照らしていた彩りも消え失せて今はすっかり外は夜中になっている。
「ふふ」
奏は部屋で1人になっているからなのか、つい笑みを口にして零してしまう。
考えていることは勿論一人の少年のことだ。
――風時修司
この春から瑠凛学園に入学して、生徒会に入った一年の男子生徒。
本来生徒会は選挙が行われ、生徒会員が選出されるシステムだが、奏は修司を直接スカウトして生徒会役員の1人として引き入れるといった異例の行動を起こした。
特別な名家の子ではない。今年から瑠凛学園の外部から入学した生徒。何かしら秀でている才能も実績もあるわけではないので、学園内では生徒だけでなく教師陣も混乱していた。
彼――修司の生徒会での働きぶりは見事なものだった。
与えられた仕事をするだけというのは誰でも出来ることだ。しかし、それだけではこの生徒会に務まる意味も必要もない。瑠凛学園の生徒ならば誰でも出来る。
修司の場合は与えられた仕事を、ただ単にこなすだけではない。
彼は毎回、何が足りないのかを見極めて不足を補う改善点をいくつか挙げて取り組む姿勢で仕事をしていた。不明な点が見つかってもすぐに、どこからか情報を拾って駆使している仕事ぶりには奏達も度々驚かされる。
彼が優秀な会計ということは仁美とレイナだけではなく奏も認めていた。
能力面は問題ない。
――ただ問題なのは……
「修司くんとはもっと仲良くなりたいんだけどね。どうしたものか」
これも周りに誰もいないからか心の中ではなく、つい口に出してしまった。
修司には――3人から歩み寄ってはいるが、修司は体裁的には付き合ってくれるものの彼の本心では奏達とは距離を取っているのは奏達は気づいている。
なので、日々あの手この手で彼女達は修司と仲良くなろうとしても、彼との距離が縮まるどころか、今日みたいに上手くいかなったりしてしまう。
(やはり修司くんは……)
彼との距離が縮まらない。
きっとその原因は――
「……っ」
奏は振り返る。
生徒会室に誰かが入ってきた気配が伝わっていたからだ。
「んふふ、窓ガラスに映って哀愁漂う姿も素敵だったわよぉ。今の表情をぜひ写真に収めたかったわねぇ」
いつの間に生徒会室に入ってきていたのは長身的なスタイルで、鮮やかな色のふんわりとしたパーマの髪をなびかせて、妖艶に整った顔立ち、誰もが聞き惚れる美声を放った女子生徒だった。
「久しぶりね――カ・ナ・デちゃん」
「琉歌さん……」
奏達と同じく『
前年度までは奏の前に、この生徒会で生徒会長を務めていた3学年。
「とーっても……会いたかったわぁ」
コトッコトッとわざとらしいアピールの足音を磨かれた高級タイルに鳴らせながら、琉歌は奏に歩んで近づいていく。
「……」
奏は琉歌に正面向けながらも、腕を組んで身構える。
「そんなに警戒しなくてもいいわよぉ」
「……信じられない」
――二人は学園内において、上下関係の先輩後輩だけの仲ではない。
奏と琉歌の関係は――
「奏ちゃん。私があなたに会い来たのはね――」
「――っ!」
流歌は言うや否や、早速と行動に移して奏に急接近した。
奏は反応しても既に遅い。
琉歌の毒牙に掛かってしまった。
「えーい!」
「ちょ……ちょっと」
琉歌は自分の頬を奏の頬にスリスリと当てて頬ずりをしていた。
それはもうグニャグニャとするほどに押し付けて、二人の間の距離には隙間なんか無かった。
「うーん、相変わらずなんて滑らかなスベリ心地……本当に人間の肌で出来ているのこれ? 整形したってこんな肌を作るのは不可能よ。人類……ううん世界……違うわ……この銀河の中でもこんな美しい人間が存在するなんて、まさに神秘で出来ている存在よ、奏ちゃんは」
「や、やめてください……」
「いいじゃな~い。たまにはこうやって体で先輩を労いなさ~い」
「……」
抵抗しようにも琉歌は離れないどころか足まで奏の足に絡もうとする勢いだ。
奏は、この人のことがずっと昔から苦手だった。
子供の頃から……というよりも奏が生まれる前から、山之蔵家は華霧家とは昔からの付き合いがある。一つ年上の琉歌とは生まれた時からの仲だ。
こうして周りから見れば、大の仲良しな姉妹みたいだと微笑んで映っているが、実態は琉歌の危険で、過剰で、激しい、スキンシップが繰り広げられている。
たまに会うならばそこまで問題ないが、こうして一緒の学園、しかも去年までは一緒の生徒会のメンバーとしていれば、こうしたスキンシップは毎日行われて奏は辟易としていた。
琉歌が生徒会長の任を降りてからは、あまり会わなくなったとはいえ、今までの生徒会についてはあまり思い出したくなかったし、修司には知られたくない一面でもあった。
「ふぅ……久しぶりの奏ちゃんエネルギーを補充出来たおかげで今度のオペラで頑張れそうだわ」
「オペラ? もしかして私に会いに来たのって」
「ええ、もちろん今度私の伴奏をやってくれるわよね?」
「……それなら普通に連絡してくれれば」
「駄目よぉ。こういうのは直接会って誠心誠意を持ってお願いするのが礼儀じゃな~い」
「……そう」
たまに修司くんに意地悪している私は、こんな姿なのだろうかと奏は己を省みる。 それでも奏が修司を弄ることはやめることはないだろう。
「本当は昨日会いに来ようと思ってたんだけどねぇ。ちょっと寄り道しちゃったせいで」
「寄り道?」
琉歌はニヤリと女豹のように唇の端を歪めた。
奏は知っている。
この表情をする時の琉歌は、とても悪どい意地悪をする時の含みを持たせた笑みだということを。
「今年度で新しく生徒会に入った会計がいるでしょぉ? それも奏ちゃんが直々にスカウトした男の子。偶然その子を見かけちゃったから――色々と、ね」
「……修司くんに会っていたんですか?」
「そうよ。あの子とっても面白い子よねぇ。一見『普通』に見えちゃうのにミステリアスを漂わせて、とっても興味を持っちゃうわぁ、ああいう子」
「……」
奏は――華霧琉歌の人間性については熟知していた。
彼女が奏に固執しているのを。
彼女が風時修司に執着し始めてしまったのを。
「――琉歌さん」
琉歌とは方向の違う美しい声色が強く――鋭く語気が強まった。
「彼に手を出したら――いくらあなたでも」
奏の美しく蒼く輝く両目はすぅっと細めた。
瑠凛学園高等部生徒会長――山之蔵奏。
一般生徒ならが誰もが到底見ることのない
――冷たい刃と化した顔
この姿を見た一般人ならば間違いなく恐怖に押し潰されるはずであろう、その明らかな敵意をぶつけられた琉歌は、
「あらら、どうやら私が思っていた以上に入れ込んでるようねぇ。
――いいわー……その綺麗な瞳……ゾクゾクしちゃう。ますます手に入れ甲斐があるわねぇ」
「……はぁ」
左右の手を自分の両の頬に添えて甘美のようにトロける表情をした琉歌。
生物学的に、中々手に入らないものは余計欲しくなる、と心理が働く傾向がある。
琉歌はまさしく当てはまり、逆効果だったと奏はわざとらしいため息をついた。
「ねぇ奏ちゃん。確かに私の家は十王名家として数えられる巨大な家でも、あなたの家に届くことがないって分かっているわよぉ? 奏ちゃんが本気を出せば私の家、『華霧』を潰すことだって出来ちゃうのもね」
「……」
幼き頃より、それよりずっと以前から華霧家は山之蔵家との付き合いがある。
それはつまり、琉歌は奏の家――山之蔵の実態を知られているのは当然のことだった。
「でもね、たとえ華霧の一族が滅んでも、私1人を潰すことまでは出来わないよぉ? ――地位を奪われたって、財産を奪われたって、顔を潰されたって、喉を潰されても――私は欲しいものは必ず手に入れるわ」
「……」
どちらも宝石のように輝く瞳が交差される。
その煌めきとは裏腹に、どちらもどす黒い思惑が混じっていく。
琉歌は優しく天使みたいに微笑んだ。
「この『瑠凛学園の生徒会長』になったからには、あなたには役目を――責務を果たさなければいけない。それは分かっているわよね?」
「……ええ」
「なら、どんな人であれ、それが異端分子であるならば徹底的に排除しなさい――奏ちゃん」
琉歌はそう言い残して、軽やかな弾みの足取りで生徒会室から立ち去った。
「…………」
再びぽつんと部屋で1人になった奏は、部屋奥の窓ガラスに白磁の美しい手をついて、憂いを帯びた表情で、外の何もない暗闇の中から見えない探し物を見つけようと遠く遠く果てのない向こうを見つめた。
「また明日も会えるかな」
奏が今考えているのは、やはり一人の少年だった。
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