閑話 おまけ? 後日談
「風時。なんだか疲れていないか?」
「……気にしないでください」
生徒会室で、何故か彼女達に問い詰められた俺は体育委員室に再び戻って(逃げて)ドッとした疲労感を残している。この騒動の始まりであった弾階雷業先輩は山のように泰然とした態度で待ち構えて俺を出迎えてくれた。
「とりあえず会長達から異性の好みのタイプというのを、いくつか聞けたので」
「おお! よくやってくれた! お前なら出来ると俺は信じていたぞ!」
ガッシリと両肩をメリメリと力強く掴まれてブンブンと前後左右に俺の身体を揺らしてくる。身動きが取れずに逃げられないので、只でさえ疲れているのに、このままだと死んでしまう!
「お、落ち着いてください! ちゃんと報告しますから!」
揺さぶられる中で必死に成果を報告していくと段々と力が弱まっていき、揺れも減少していって最終的に開放される。
床に蹲った俺はぜぇ……ぜぇ……と息を荒くしながら落ち着こうとする一方で弾階先輩は太い両腕を組みながらコクコクと頷いていた。
「そうかそうか……俺が思っていた以上に生徒会の彼女達の『理想の男』というのは相当高いな……ん? その男性のタイプの特徴とやらはもしかして……」
ハッと何かに気づいた弾階先輩は、何とか落ち着いて立ち上がった俺を見ると力強い両目がカッと見開いていた。
俺は怪訝に思いながら尋ねてみる。
「その理想の男性に近い男に心当たりでもいるんですか? でも、そんな男なんているんですかね?」
「………………そうか。そういうことか」
1人で何やら納得した様子の先輩はそのまま俺を強く睨みつけた。
「な、なんですか?」
檻の中でジッとしているライオンを相手する気分で恐る恐ると窺ってみると――
「……何でもない。生徒会の彼女達は中々難儀のようだ」
またコクコクと神妙に頷く弾階先輩だった。
何を考えているのか表情から読み取ろうとしても岩みたいに強固な表情筋で動きが一切無いので無理だった。
「??? どういうことですか?」
「やはり俺はお前が羨ましいと再認識したまでのことだ」
「……はぁ」
その言葉の意味が相変わらず理解出来なかった。
一体俺のどこに羨ましい要素があるのか。
いくら美人な生徒会の先輩達と一緒にいる機会が多いとはいえ、彼女達と一緒の空間に居る間は休まる瞬間がない。さっきだって態度が急変した会長達の相手をしてきたばかりなのに。
……とにかく訳が分からないまま適当な相槌を打つことにした。
「それで参考になったんですか?」
「いや、全然分からん」
「えぇ……」
ここまで調べてきた俺の努力って……。
「しかし、何も知らないよりは前進出来ているはずだ。そうだ、協力してくれた礼はまだだったな」
「別にいいですよ……。今回色々と学んだこともあったんで……いりません」
「? そうか?」
満足げな弾階先輩には悪いが、もうさっさと帰りたい気分だ。
今すぐにでも、このまま家に帰らせてくれた方が極上の褒美だと言える。
失礼します、と体育委員会室から出ようと踵を返そうとした時だった――
「待て、風時――」
「――ッ!」
瞬間――
弾階雷業の剛腕が俺の胸元へと向かって
――襲い掛かってきた。
豪腕に捕まれば――いや、当たれば吹き飛ばされることが間違いない。
俺は素早く両腕を前に突き出して迫りくる剛腕の間へと入り込む。
両者の繰り出した動作の風切り音が、体育委員室内に響いた。
弾階先輩の突きとも言える張り手は俺の顔面寸前へと止まり、
俺が突き出した両手の平も弾階先輩の顎下の寸前で止まった。
お互いこの状態のまま静止する。
(ハッ! しまった……!)
殺気に似た気迫に反応してしまったせいで、つい実戦的な構えを取ってしまった。
どんな危険な状況にも即対応出来るようになるまで戦闘の師匠、霧崎さんに徹底的に叩き込まれた体が勝手に動いたからだ。
この動きを視てしまった弾階雷業はニカッと今まで見せたことなかった笑みを見せた。
「やはり、お前は只者ではないな。俺の目では誤魔化せないぞ、風時」
「……只の護身術ですって言っても信じて貰えなさそうですね」
「自身を守るどころか、即座に俺を倒そうとする攻撃的な動きを取っておいて、そんなことが言えるはずないだろう?」
やはり、言い訳なんか通じないようだ。
お互い構えを解いた。
額から汗が滑り落ちる。
「……どうして気づいた?」
「只の勘……と言いたいが。お前の動き一つ一つの動作に無駄の無さしかなくてな。攻撃してみたらどうなるか試しておきたかったんだ」
「そんな理由で攻撃されたら、たまったもんじゃないんですけど……」
「ははは、そうだな!」
「……笑い事じゃないのに」
終始常に弾階先輩に対して警戒し過ぎていたことが裏目に出ていたのは間違いない。今後は気をつけておこう。
とはいえ、こうなってしまった場合、追及は免れない。
俺の正体をここで露呈させるわけにはいかなかった。
「弾階先輩……俺は――」
「詳しくは聞かん。周りに言うつもりも毛頭ないから安心しろ」
「……助かります」
「本当は我が家が経営しているスポーツ団体に引きこみたいんだがな。どうだ? 本格的にスポーツの道へ進んでみるのは? お前なら――」
「それは勘弁してください……」
「そうか……それは残念だ」
先輩は本当に残念そうな表情で肩を落としている。
「お前には色々と迷惑かけてしまったな。だから一つお詫びをしといてやろう」
その時の俺はかなり疲れていたせいか、そのお詫びについて訊かずに、そのまま下校して家へと帰宅した。
――翌日
「さて、一件落着と」
昨日は慌ただしかった。
しかし学んだことは多い。無駄骨に終わらずにならなかったのは幸いか。
今日も生徒会の活動もとい諜報活動を励もうと生徒会室に入ると――
「――ッ!?」
――空気が違った
生徒会長達3人は既に生徒会室に来ていて座っていた。
けれど、昨日のようなシンとした静かさではなく……。
ゴゴゴゴ
と周囲の空気が張り詰めている。
「あ……あの皆さん? 何かあったんですか?」
檻の中のライオン……いや、違う!
今にも食おうとかかってきそうな『魔物』に恐る恐る尋ねてみると、まず反応したのは生徒会長だった。
満面な笑顔なはずなのに、まるで、お面で張り付けられた表情で不気味に感じてしまう。
こ……これは――ずいぶんとお怒りのようだ!
「実はさきほど弾階先輩からお詫びがあってね……。どうも昨日の修司くんが私達に異性の好みについて尋ねたのは本意での行動ではなく、ただ外部から頼まれただけの私達への調査だと聞いてね」
「……はい?」
「つまり修司くん……君は乙女の秘密を探って外部に漏らすようなスパイ行為をしていたことになる」
「――ッ!?」
スパイという言葉にドキリとしてしまったが。違う意味のようで安心……じゃない!?
というか、なにしてんだ! 弾階先輩!?
お詫びってこういうことだったのか!
余計なことだ!?
「私達の気持ちを知らずに乙女の秘密を探ろうとした罪は重い」
「そ、それは会長が、弾階先輩の頼みを聞いてやれって……」
「言い訳はそれだけでいい?」
だ……駄目だ! 話が全く通じない!?
すぐ近くにリンデア書記が居たので助けを求めてみる。
「リ……リンデア書記!」
「期待させたシュージがワルイじゃない……」
「え? 期待させたって……何を?」
「……! シラナイ! バカ!」
「――っ!?」
ぷいっと顔を背けた書記の背後には――骸骨が浮かび上がる。
「ひ……火澤副会長!」
最後の頼みとして副会長にすがりついてみる。
「あらあら修司さん、ダメですよぉ。しっかり――そこにお座りなさい」
「……え――?」
「修司さんにはわかってもらいたかったんですけどねぇ……」
「――っ!?」
はぁ、と美しくため息をついてる副会長の後ろには恐ろしい般若が浮かび上がる。
しかも生徒会室の扉までキッチリと閉めやがった!?
「昨日は逃げられてしまったからね。今回はそうはさせない」
コトッコトッと小さな足音なのに、非常に重く聞こえてしまう。
会長のニッコリとした笑顔はそのまま。
終末のカウントダウンが楽しみな表情で俺を迎えようとしていた。
「さて修司くん……
お仕置きといこうか――」
――その日、俺は悪夢を見た
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