第27話 会長とのデート 前編


 ――デートとは

 ・日時や場所を定めて異性と会うこと。


 ああ、確かに男女二人が約束して一緒に出掛けるならば、それは立派なデートと言える。新鮮な記憶としては、つい最近同じクラスメイトの冬里ひよりと二人で放課後一緒にファーストフード店で食事したし、その際にひよりからデートだねと、からかわれた。

 しかしあれは元々ひよりは雅人も誘うつもりで3人で行くはずだった予定が二人に変更になっただけのこと。


 しかし……今回デートとして約束している相手というのは――

 生徒会長 山之蔵奏だった。

 何故会長が突然と休日の日に俺を誘ったのか理解出来ないまま釈然としないまま明日を迎えた。



――――


 

 ――休日の昼間を少し過ぎた午後


 現代の貴族の学び舎『瑠凛学園』が置かれているこの周辺一帯の地域――街は高級住宅が連なっている。その内のマンションの一室を俺は機関の手配によって住んでいた。少し歩けば駅があるし、その駅周りは大きく開発されて大型ショッピング施設や近くには飲食店やスーパー等が並んでいる商店街もあるので食事や買い物に困る事はない。今年4月から住み始めた自分には住みやすい地域なのは確かだ。


 会長とは駅前の広場で待ち合わせることになっていたので支度準備した俺は時間前に着くようにマンションから出て駅へと向かう。外のゆったりとした傾斜の坂を下りていけば今は梅雨の時期とは思えない晴れた青空太陽の日当たりを浴びる。このしっかりと設備された道をのんびりとしながら歩いた。


 10分ちょっとと歩けば駅が見えて更に歩けば道の周りで行き交う人が一斉に増えていく。さすがに休日ともなれば子連れの家族や暇を持て余した友人同士……それに若い男女のカップルが待ち合わせて、この貴重な休みの日を満喫しようとしている。


 待ち合わせ場所である駅前広場に着いた。

 腕時計を身に着けているのに、広場の外側からでも真っ先に目に付く広場中央に高くそびえ立っている時計を見れば指定された待ち合わせ時間よりも10分早かった。予定通りだ。待ち時間ピッタリに来るようなルーズな行動はしない。時間前行動は何事においても基本だ。


 ここでデー……

 いや、(強く強調)に誘われて約束していた会長と、ここで会う予定になっているはずだが――


「ん?」


 妙な違和感があった。

 広場の中に足を踏み入れれば、やけに周囲が騒がしい。

 休日、それも駅前の場所なんだから、そりゃあ騒がしいのは当然なんだが、その様子とは違うコソコソとした騒がしさ。

 広場の中でたむろっている人達は会話しながら広場中央に視線を向けていた。


 聞こえてくる会話の内容は――


「あの子凄く可愛くない?」

「芸能人……にしては知らないしモデルの人だったりする?」

「すげぇ綺麗だし、しかもあのキラキラしてる髪って染めているんじゃなくて天然なのか?」


 この周囲の騒がれようの中で聞いた会話の中の『情報』を拾って頭の中で組み立てると一瞬で答えが浮かび上がってしまった。それも俺にとってはとても嫌な方が……。

 恐る恐ると俺は視線を広場中央へ向けると――


(ああ……そうに決まってるよな)


 この違和感の原因の答え合わせ完了。


 広場中央で


 生徒会長


 山之蔵 奏


 が


 立っていたからだ。 


 いつも学校で見ている制服ではなく私服姿。

 白色のレースカットソーの長袖Tシャツにジーンズと大人っぽさを醸し出している。それに加えて日中の中でキラキラと輝く銀髪に雪よりも更に透き通る白い肌。

 

 ――まさに『白銀』に相応しい圧倒的な存在感が、この広場一帯に放たれていた。


 会長は、ただ立っているだけなのに、その美しい美貌とスタイルが周囲の眼前へと注目されている。あのスーパーモデルのレイナ・リンデア書記や大和撫子美人の火澤 仁美副会長に負けないレベルで会長は駅前広場というステージの主役として降臨していた。周囲の通行人が騒ぐのは無理もない。


 会長は学園でもかなり目立つが、学園の外でも異様に目立っている存在の人だと改めて認識する。


(……さて、どうするか)


 正直こんな中で、あの中心の場へと飛び込みたくない。

 目立つようなことは避けたい。

 これは諜報員――スパイとしての心得以前の自分の気持ちとしてだ。


「俺、あの子に声を掛けてみよっかなー」


 チャラついた男二人組が俺のすぐ隣で大声で会話している。

 その男達のだらしない表情と目つきは会長に釘付けだと嫌でも分かる邪な態度。


「バーカ。あんな注目されている中で声なんか掛けられっかよ。度胸ありすぎだっつーの」

「冗談だってーの。にしても、あの子って多分誰かと待ち合わせだし、誰と会うんだろうなー?」

「あんな美人だし可愛い女友達とか? あるいは……彼氏か?」

「彼氏って一体どんな奴なんだよ。見て見てぇな!」

「あの子が姫ならば彼氏はスーパーイケメンの王子様ってか? ハハッ!」


 その周りから大注目されている会長がこれから会う人というのは……


 俺だよ、俺!

 お前らの目の前にいるんだよ!


(はぁ……余計会いづらくなったなぁ)


 周囲が会長がこれから会う人に対して妙なハードルを上げているのがヒシヒシと感じる。

 ……仕方ない。

 今スマホで会長に電話して、別の目立たない場所で待ち合わせて会おう。

 

 そんなことを考えて実行に移そうとした時だった。


 ――会長と目が合った。


 目が合ってしまった――


「…………」

 

 会長はニッコリと綺麗な美貌から生まれる薄い笑みを浮かべて、一直線に俺一人へと向けられる。同時に、


 『早くこっちに来なさい』


 と視線だけで命令を送られたのである。

 しかも会長は一向に動く気配が全くない。


 (はぁ……)


 心の中で重たすぎる溜息を吐きながら足を動かして会長の下へと近づく。

 すると周囲が一瞬でザワめき盛り上がっていたのを感じる。

 周りからどことなくキツイ視線を浴びながらも俺は無視して遮断して会長の目の前まで来れば挨拶した。


「こんにちは会長」

「こんにちは修司くん。待っていたよ」


 いつも学園で交わす挨拶なはずなのに今は全然違う。

 学園では堂々とした貴族の振舞いの態度とは違って、今の会長は柔らかい雰囲。


「すいません。待たせたようで」


 まだ待ち合わせよりも10分前だというのに会長は一足先に早く来ていた。

 俺と同じく時間前行動を心掛けていたのかと思えば――


「実は楽しみ過ぎてね。朝からここで修司くんを待っていたのよ」

「……嘘ですよね?」

「ふふっ、冗談。待ち合わせの時間から30分前には来ていたから」

「驚かさないでください……」

「楽しみに待っていたのは本当よ? ……久々に修司くんとゆっくり話せるしね」

「……」


 確かに会長とこうしてゆっくり会話するのは久しぶりだ。

 最近の会長は全然生徒会に顔を出していなかったから。

 だからこうして休日に外で会長と会って話すなんか昨日まで思いもよらなかったわけで。


「いきなりで悪かった?」

「いえ……今日は空いていたので」


 実はこの休日は元々予定があったりする。

 それも喫茶店のバイトを彩織さんによって無理矢理と組み込まれていたが、任務に関わる大事な予定がある(間違っていない)と説得したら彩織さんは納得いかない渋々といった感じで、この日を空けてくれたが……きっと後で休日返上でみっちりとバイトの日を入れられるのが予想出来る。


「修司くん、よく似合っているよ。服装もだし、髪も整えて中々決まっているわね」

「……それはどうも」

「普段とは違って、まるで別人のように見えてしまうよ。もしかして私の為に気合を入れてくれたのかな?」

「出掛ける時はいつもこうですから!」


 俺も制服ではなく私服姿だ。

 Tシャツの上にカットジャケットとデニムのパンツに髪型は前髪をワックスで上げてと、しっかり身なりは整えている。

 諜報員ならば変装することが多々あるので今の会長の言う通り、まるで別人のように自分の外見を変えるようにしている。


「にしても、よくすぐに俺だと気づきましたね」

「当然よ。私には修司くんがどんな変装したって君だと見破る自信があるから」

「――っ!?」

「どうしたの?」

「いえ……」


 危ない危ない。今のは只の例えだ。

 俺が普段任務で変装していることなんかバレていない。


「では修司くん。ここは私に言うべきことがあるんじゃない?」

「え?」

「私は君を褒めた。だったら君もとびきり私を褒めてみて」


 とびきり期待している吸い込まれるように美しいブルーの瞳が俺を捉える。

 リップを塗っている薄い桃色の唇から作られる笑みの形。

 山之蔵奏という名前からはとても日本人離れしている容姿の美少女が俺の言葉を楽しみに待っていた。


「……会長の私服姿もよく似合っていますよ」

「ふふ、よく言えました」


 会長は両目を瞑って非常に満足した表情で小さく頷く。

 たかが待ち合わせの出会いから、ドッと疲れてしまった。


「さあ修司くん、行きましょう」

「これからどこへ?」

「もちろん――君と私のデートだ。この辺りを巡って男女二人で仲睦まじい、楽しいお出かけをしよう」


 ここからも更に疲れそうだなと思ってもそんなことは口にせず、会長と横に並んで周りが五月蠅い中の広場から脱出した。

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