第18話 平穏な生徒会
「シュージの家はIT企業だったよね?」
本格的な梅雨入りとなり、ポツポツとリズムよく小さな雨音が鳴り響く放課後の生徒会室。本日は俺と生徒会先輩3人の全員が揃って活動をしている最中に俺と同じテーブルで対面に座っているレイナ・リンデア書記が俺の家柄について話を振ってきた。
「といっても社長の息子ではないですけど」
「あの『アライズ』の幹部の息子なら大した家柄よ。今の時代その会社を知らない人はいないはずだしね」
部屋奥の窓際のデスクに座っている生徒会長、山之蔵 奏が今の会話に加わる。
リンデア書記の隣にいる火澤 仁美副会長は今挙げた、その会社名に反応した。
「インターネットのことはよくわからないけれど、修司さんの家はパソコンやスマートフォンにも関わってて凄い会社なのは知っているわぁ」
現在の俺の身分と家柄はIT大企業――幹部の子息ということになっている。
『アライズ』
2000年代インターネットが急速的に普及して発達した時代から国内利用者最多の検索エンジン、アプリケーション。更にはPC、スマホ等の電子機器開発とネットに関するならば多彩な事業へと渡って誰もが知っている国内有数のIT大手企業。
――俺は身分を偽って、この瑠凛学園へと入学したので本当の家柄ではない。俺が所属する情報機関『ターミナル情報局』と、このIT企業『アライズ』は裏で提携しており、密かに互いに協力し合っている関係だ。俺がこの学園に潜入するに当たっての家柄は、この会社アライズが用意してくれる形となった。さすがに社長の息子になるのは無理があるので、幹部の息子という形で成りすましている。それでも家の格は十分で、この貴族の学園に入学出来る基準には満たしていた。
「そうねぇ。今の時代はアイティーですものねぇ」
副会長はおっとりと、ぼんやりしながら言う。
「ほんとにネットは凄いわよ。動画をイロイロ見れたりするし、私もよく利用しているわ」
対して書記は得意気に話す。
「あら、レイナ。普段はどんな動画を見ているの?」
「それはもちろん。アニ……」
「アニ?」
「――!?」
リンデア書記は途中でハッ!?と気づいて言いかけたとこで石像のように固まる。副会長は頭に?を浮かべて疑問に思いながら訊き返した。
「アニ……アニマル動画! 動物の動画って癒やされるわね! うん」
「ふふ、レイナ。いつの間にそんなとっても可愛い趣味を持っていたのね。でしたら今度皆さんで動物の映画を鑑賞しましょうか」
「え、ええ。ソーネ……タノシミだわ。ネ? シュージ」
リンデア書記は俺に横目で『私のアニメとかの趣味のことは話さないでよね!』と強く訴えているので俺は無言のまま。別に隠す必要はないと思うけどなぁ。まあ本人が隠したがっているならば、俺がどうこうするつもりなんかないが。
書記は悟られないように話題を転換した。
「ヒトミこそ、ちゃんとスマホは使えるようになってるの?」
「私、こういったのは苦手でして……スマートフォンだって連絡以外で使うことはなくて」
副会長はなんでも、こういったネット機器に関してトンチンカンのようだ。どれだけ箱入り御嬢様なのか物語っている。
「あっ、でも最近はメッセージのスタンプは使えるようになったわ。つい前に修司さんに送りましたよね?」
「……いきなり大量のクマだらけの画面になった時はビックリしましたけど」
「あの時はごめんなさい。ちゃんと送れたのか分からなくて……画面を押し続けてしまったらつい……」
この前、副会長からやけに可愛らしいスタンプが送られてきたが、夜中にいきなり大量のクマのスタンプが画面全体にズラリと並べられて送られた時は中々ホラーで恐ろしかった。
「でも本当に便利わねぇ。このおかげで手紙を書いて送ることが、あまりなくなったし」
「「……」」
この人は何時の時代に生きていたんだろうかとリンデア書記と俺は唖然。
「そう。ネット――情報というのは私達の身近な存在になった」
俺と副会長、書記の3人同時が生徒会長を見やる。
会長は自分のスマートフォンを俺達に見せるように手にする。
「こんな片手で収まる小さい物なのに遠距離の交流、ニュース・動画・ゲームまで手軽に出来てしまう。携帯電話とパソコンをよりコンパクトな媒体として、ITが発達したからこそ生まれた物ね」
ネット社会。誰もがどこでも『情報』を一瞬で共有出来るのが当たり前となっている現代。だが便利過ぎれば、その反面リスクが存在する――
特に諜報員は情報の扱い方に慎重にならなければいけない。
手にする情報、
――それが本当に正しいのかを
「そんなわけで私達は修司くんの家に何時お邪魔すればいい?」
って、今の前フリ何だったんだ!?
「どうして急にそんな話になるんですか!?」
「? 何を言ってるの。まずは修司くんの家柄の話から入ったでしょ? 不思議なことではないと思うけれど」
「確かにそーですけど……いくらなんでも」
「修司さん。一人暮らしをしていて、家でもちゃんとご飯食べてますか?」
「……最近は自炊するようになったので」
「偉いわねぇ。男性の一人暮らしは食が偏って不健康な食生活になると聞くから心配だったのよ」
「……」
働いたばかりのバイト先の誰かさんに滅茶苦茶怒られたから自炊するようになっただけだし、それに年下の子(リリス)が料理を作りに来てくれるからとか、とても言えないな。
「あ、でしたら私が修司さんの家に、お料理を持っていきますね」
「え……いや、そんな悪いですよ」
「ふふ、遠慮しなくていいですのよ」
どうしても俺の家に来る方向性で話を進めてやがる……!
横では優雅に紅茶を啜っているリンデア書記にそれとなく目を向けてみたが、
「そうね。シュージがしっかり一人で生活出来てるかワタシ達がしっかりチェックしないとね。……そ、それに一人暮らしの男性の家はどうなっているか気になるし……」
後半が本音な気が思いっきりするんだが……。
(面倒なことになった……)
この3人と交友を深めることも大事だ。しかし、それはあくまで形としてだけでしかない。
「あらあら、レイナも楽しみなのね」
「いいじゃない、別に」
「ふふ」
「な。なによ」
――火澤家
――リンデア家
山之蔵家を闇に守護する、この番人2人の家が非常に厄介だ。
(そして……)
――山之蔵家
俺が会長の顔を見ればニコっと純粋な笑みで返してくれた。
とても背後に闇組織がいるとは思えない先輩達に囲まれてる中で俺は思案する。
この瑠凛学園の秘密を探る機会をどこで掴むのか。
まずは――
(その前に……片付けなければいけない問題があるな)
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