第3話 その少女も……


? どうしたんです? 全然ドアを開けてくれなかったので、何かあったのかと心配しました」

「あ、ああ久しぶり……だな――『リリス』。元気そうでなによりだ。俺は問題なく元気に過ごしているから安心しろ」


 突如と俺のマンションの部屋のドアロックを工作で破っては侵入してきて現れた少女は、クリクリとした綺麗な目に可愛らしく首を傾げて、真っ白な頭の横からぶら下がってるサイドテールがユラユラしていた。


 少女の名は――リリス・ノアー


 俺と同じく現役で情報機関に所属してる諜報員であり、以前から度々、俺のサポートをしてくれている子だ。年齢は俺より1、2歳年下のはずだが、外見年齢はもっと幼く見える。……正直、小学生と間違えるぐらいだ。

 ……それに、なぜか俺のことを『マスター』と呼んで慕ってくれるが、数年と一緒に行動していれば、そう呼ばれるのは気にしなくなった。

 それが約2ヶ月前、俺が単独で学園に潜入する事になったので、リリスとは以来会うことはなかったが。


「それは安心しました……でも、どうしたんです? そんなに慌てて?」

「ちょ……ちょっと待ってくれ。今忙しいところだったんでな」


 リリスがこの部屋のドアを開けた瞬間と同時に俺は、部屋の中を見せないように、背の高い自分の体で、少女の前を塞ぐように視界を隠して通さないようにした。

 今この部屋に上がらせるわけにはいかない! というか見せたくない!


「……実は、今さっき機関から通信があってな。今回の極秘作戦に関する資料が色々と部屋の中に残したままで見せるわけには――」

「ああ……黒瀬さんからですよね? 大丈夫です。今回の作戦の内容は私にも知らされていますので、瑠凛りゅうりん学園についての調査情報を閲覧する権利も与えられてます。なので、今こうして私はマスターの任務のサポートとして来たんですから任せてください!」

「……」


 リリスは、上司である黒瀬さんに対してはどこか苦々しく言いつつも、俺の前では、この子が着ているシャツの上からでも分かる平らな胸を張りながら自信満々だ。

 クッ……そうだった。リリスは今回の任務のパートナーとして機関より追加で送られた人材だった。


「ほ、ほら男の一人部屋って何かと……女性に見せられないからさ。だから、

「……マスターがそんな思春期みたいに気にするとは思えませんけど……怪しいです!」

「うおっ!?」


 なんとリリスは、思いっきり俺の体を押しのけて無理やりと強引に部屋へと入り込んだ。小さな身体でありながらも力強い。いきなり体当たりされた衝撃でバランスを崩して道を譲ってしまった俺は、倒れないように足をふんばると同時――通り過ぎたリリスの足も立ち止まった。その姿は固まって唖然としている。


「……これはどういうことです? マスター?」


 リリスが見た光景――それは部屋の机の上には先程まで機関と通信していたノートPCがある。これは別に問題ない。


 ――しかし部屋全体の床上には衣類がゴチャリ、コンビニ弁当やインスタント食品の残骸が散乱していた。

 リリスは顔を俺に振り向きながら、ジトーとした目で俺にグサグサとナイフのような視線を送りつけてきた。


「マスター……、一応料理は出来るはずですよね?」

「ああ、確かに料理は一応は出来るが……」


 以前の任務では某大手ホテルレストラン潜入の為にと、機関のある上司によって基本から様々な料理を学んで、何とか店に出せるレベルに達している腕は自分ながらでもあると自負するが、それとは別に自炊しない理由があった。


「……時間効率を考えてだ。料理している時間がもったいなくてな」


 料理スキルはあくまで任務……仕事の為に学んで身に付けた技術なだけだ。自分のプライベートな生活においては無駄なことは極力したくない。いくら料理が出来ようと献立を考える時間や食材を買う時間、そして家で調理している時間が無駄だと思っている。なので弁当やインスタントで手軽に済ませるのが効率的であり、自由な時間を確保できる。


「服もこんな散らかしてるし……」

「……分かりやすく手に取りやすい位置にしているだけだ」


 最適化だと言ってくれ。

 スパイとはあらゆるシーンに対応出来なければならない。すぐに変装出来るように部屋には衣類を最適な配置にしているだけだというのに。


「ほんとーにマスターは……」


 小さい口で、はぁと大きくため息をついている。

 この子は機関でも工作員やサポートとして、とても優秀なんだが――


「……本当に私が見てないと、すぐにこんなズボラになるんだから困ったもんです。やっぱり私が面倒見てないと駄目ですね」

 

 困っているはずなのに可愛らしくクスっと笑っていた。

 

 ――リリスは俺に対して異常にお節介過ぎる。

 さっきまで部屋の惨状に呆れていたのに急に嬉しいような物言いとなっていた。


 ……とりあえず、もうこの話題を終わらせようと俺は話を変えた。


「けどリリス、お前はまだ高校1年の俺より年下だろ? どうやって学園に? まさか入学出来るように年齢も改竄して――」

「どうも何も私は瑠凛学園のへ転入しますから。……わざわざそんな工作しなくても普通に正式な形になりますけど」

「正式……じゃあ家の方を?」

「はい……今回は仕方なく頼ることになりました」


 リリスの家柄は海外大手食器メーカーとして有名であり、その家の娘とならば十分にと瑠凛学園に入学出来るレベルだ。リリスは頭も良いので瑠凛中等部の編入試験も問題なくクリア出来るはず。ただ問題なのはリリスは家と仲が悪いらしく、今までずっと家に対しては距離を置いて情報機関に身を置いていたはずだ。


「でもこれもマスターの為です! 利用出来るのは何でも利用してマスターを支えますから!」


 両手に小さく丸い握りこぶしを作っては張り切っている。わざわざ毛嫌いしている家を頼ってまで、こうして献身的に俺をサポートしてくれるのはありがたい妙に重いところを感じるのは困った。


「それとマスター……」

「ん? ――おっと」


 ボフッとリリスが俺の胸下へと小さい頭を預けてきた。彼女のサラサラの髪や顔の感触が服の上からでも柔らかく伝わってくる。


「――寂しかったです。ひさしぶりに会えてとっても嬉しいです」

「ああ……久しぶりに会えて俺も嬉しいよ」


 そういえば俺が瑠凛学園に潜入することになって入学するまでは結構リリスと一緒にいる事が多かったんだっけか。

 ここのところは潜入もとい学園に通っているばかりで色々忙しくて、こうして会う機会は全然なかった。リリスの背も以前より伸びた気がするし)、この子も成長しているんだな。……それでもまだまだ頭に手が置きやすかったから、手で軽く頭を撫でたら俺の胸から「あふぅ……」と小さな可愛い声を漏らしている。こうするとリリスは喜ぶから、やってみたが、この子は恥ずかしくなることなく俺の手を許している。こう久しぶりの再開で、居心地のいい雰囲気を堪能していると――


「マスター……?」

「ん? なんだ?」

「女の匂いがします」

(――え!?)


 ゾクリと背筋が凍る一方でリリスは俺の胸に顔を埋めたまま続けて言う。


「しかもこれは数時間も同じ部屋に数人……いえ、3一緒に居ましたね。……この部屋ではないみたいですけど」


 なんでそこまで分かるんだ! しかも、かなり具体的すぎないか!?

 やばい……何だかリリスの声色がどんどん重くなってきている。これは俺の胸に顔をうずめながら喋っているから、ぐぐもっただけだと気のせいにしたい。


「まさかマスター……。高校生になって恋人なんか作ってませんよね?」

「……俺は今、瑠凛の生徒会の一員になっている。周りの人が女の先輩ばかりだからだよ。さっき帰宅するまでは生徒会室にいただけで」

「そうですか……。嘘はついていないみたいです」


 どんな嘘だよ。


「でも良かった……もしマスターに恋人の女でもいたら……わたし……」

「……もしいたら?」


 少女は俺の胸から顔を離すと――



「――その女をコロすところでした」

「――!?」


 さっきまでの可愛らしい瞳から輝きを失って物騒なことを言い出す少女――


 リリス・ノアー 

 瑠凛学園――中等部3年生編入予定

 家は世界的有名な大手食器メーカー。しかしその実態は……――

 武器商売と殺し屋の事業を設けてる暗殺人一族の家系の血筋を受け継ぐ恐ろしい子だった。

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