第99話 サムジャ、ダミールを追い詰める
「お前の味方はもういないようだな」
「残りはダミール! 貴方一人よ! 覚悟を決めなさい!」
「ワンワン!」
俺とルン、そしてパピィで強気に言い放つ。ダミールは悔しそうでもあり焦りも見えた。ブラックナイトも倒しこいつの手札はこれで全て使いきっているのかも知れない。
「いい加減諦めなさい。筆跡鑑定の結果も出ました。あれはご主人様の残した遺言ではありませんでした。ここまで言えばもうおわかりですね? 覚悟の準備をしておいてください。もう貴方はおしまいです!」
メイシルが指を突きつけ言い放つ。それに合わせるように、ぐぬぅ! と呻き、ダミールが仰け反った。
「だ、黙れ! そんなのデタラメだ! 法的根拠はない!」
「いやあるだろう」
筆跡鑑定に根拠がなかったら何のために苦労してやったのやら。
「見苦しい男だ。そもそもで言えば私達に対してこんな真似をした時点でお前はもうお終いだ。使用人を洗脳し、ブラックナイトなんていう魔物の手まで借りたのだ。その手紙の件がなかったとしてもお前の罪は免れない。かなりの重罰が待っているだろう。楽しみに待っておくんだな」
マスカも中々辛辣だな。とは言え、おそらくそれは間違いではないだろう。
「だ、黙れ、お前! 私は犯人ではない! こいつらこそが犯人なのだ! だから私に協力しろ!」
ダミールが事もあろうにルン相手にワンドを向けて協力しろなどと言い放った。全く何を考えているんだか。
「あ! あのワンドよ! あれアーティファクトで、使用者の言葉が信じられやすくなるのよ」
「な、何故それが!」
ルンは鑑定の刻印を刻んでいるからな。それでわかったのだろう。
「やはり浅はかだったな。それで洗脳しようと思ったのだろうが、そんなものにやられるほどルンは甘くはない」
「そもそもそれ、最初から疑ってる人には効果が薄いしね」
あぁなるほど。俺達は誰一人アイツを信用していないからな。
「く、くそ! 誰か、誰かいないのか! て、あ、私のワンドが!」
「アンッ!」
ダミールが助けを呼ぼうとしてワンドから意識がそれた隙にパピィが影を伸ばしてワンドを取り上げてくれた。
「し、しまった!」
「でかしたぞパピィ」
「ワンワン!」
パピィは本当優秀だ。後でたっぷりモフって上げよう。
「ワンドを取り上げてしまえば、使用人の洗脳も解けるわ。これでもう助けはこないわよ」
「そ、そんな……くっ! 舐めるなよ! 私はこう見えて赤魔術士の天職持ちなのだ! ウィンドカッター!」
ダミールが魔法を行使。風の刃が飛んできたがマスカが剣を抜いて魔法を切った。
「な、魔法が切れるだと! 馬鹿な!」
「はぁ、やれやれ。お前の魔法がヘボすぎるだけだ」
魔力の籠もった武器なら、弱い魔法なら切ることも出来る。今のウィンドカッターは刃も小さかったしな……
「スキルを全く鍛えていないのがよくわかるヘボさだったな」
「だ、黙れ! だったら剣だ! 私はこれでも剣もいけるのだ!」
レイピアを手にダミールが向かってきた。赤魔術士は魔法も剣も行ける天職だしな。なら今度は俺が前に出る。
「馬鹿が! サムジャなんぞが私の剣に対抗できるものか!」
サムジャもなめられたものだな。とりあえずダミールの自慢の剣術とやらを見させてもらうか。
「喰らえ! 必殺の流星突き!」
流星突き――名前だけは立派だが、見たところただ突きを連続で放ってるだけだ。おそらくだが流星突きというのはスキルの名前ではなく本人がそう口にしただけだろう。
「ば、馬鹿な! 私の流星突きがこうもあっさり!」
「お前、結構愉快な奴だな」
「誰が愉快だ! 馬鹿にするな! 強突きぃいいぃい!」
お? 今度はさっきよりも力強い突きを放ってきたな。どうやらこれはスキルなようだ。
ただ、ま、今更焦ることもない。軽くいなし、俺はダミールの背中を取った。
「な! 消えただと! 己サムジャめ! 逃げ足だけは早いやつだ!」
何故かちょっとホッとした雰囲気を感じた。それにしても今ので見失うか。そんなに力も出してないんだが。
う~ん、ま、いいか。
――トンッ。
「へ? あ……」
とにかく俺はダミールの首に手刀を浴びせて気絶させた。ドサリと床に倒れ、そのまま意識を失った。
「これで終わりなようだな」
「ダミールはあっさりだったわね」
「皆様ありがとうございます! これでお嬢様も旦那様も救出できます!」
メイシルも喜んでいた。その後はダミールを縛り上げ、地下牢に向かうと正気を取り戻した兵士がミレイユに向けてずっと謝罪の言葉を繰り返していた。
うん、この様子を見るに洗脳は無事解けたようだな――
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