第100話 サムジャと呪われた領主
結局地下牢からミレイユは出され、その代わりにダミールが投獄されることとなった。
当然といえば当然だけどな。
セイラは怪我がないかも心配していたけど、手荒い真似はされなかったようだ。
「それにしても聖女様がこんなにお若くてお美しい方とは思いもよりませんでした」
「え? そ、そんな! 美しいだなんて」
ミレイユに褒められセイラがわたわたしていた。でもたしかにセイラは美少女だと思う。
「確かに改めて見るとね。差を感じちゃうかも……」
「うん? ルンだって可愛いぞ。差なんて感じる必要はないと思うけどなぁ」
「ひゃっ! か、可愛い? シノが私の事を――」
ルンは元気いっぱいで動的な魅力に溢れている。一方セイラは淑やかなまさに聖女にピッタリなイメージで静的な魅力がある。
タイプが違うというだけの話だし引け目を感じる必要はないといいたかったのだが、上手く伝わらなかったのかルンが静かになってしまった。
いかんな転生前から女性との接点が少なかったから、どうも上手く伝えることが出来ない。
「お嬢様。遅れてしまいこのような屈辱的な扱いをみすみす招いてしまい申し訳ありませんでした」
「頭を上げてください。メイシルはよくやってくれました。メイシルがいたからこそ私は例え一時はこの身が拘束されようと、必ず助けはくると信じることが出来たのです。本当にありがとう。そして護衛を引き受けてくれた皆様も――」
メイシルを労った後、ミレイユが俺たちに向けて頭を下げてきた。それはそれで申し訳ない気もするからすぐに頭を上げて貰う。
「俺達は依頼を受けてやっている。報酬もしっかり貰うのだから、これは当然の仕事だ」
「そうね。まさかミレイユ様を牢屋に入れるとは思わなかったけど」
「それについては本当に、何故このような真似をしてしまったか」
牢屋にいた兵は泣きそうな顔をしていた。
「悪いのはこの男です。貴方はこの男の道具で洗脳を受けていたのですから仕方がありません」
メイシルが兵の男を宥めた。確かに少なくともこの場にいるなかで一番の悪人はダミールだ。
「とにかくこの男は捕まえた。後はハデルだな。奴の本性も暴かなければいけないだろう」
「ワンワン!」
マスカの意見にパピィも吠えて同意を表した。確かにこの事件はまだ終わっていない。
「そのためにもお父様に目覚めてもらわないと。聖女のセイラ様には度々ご苦労をおかけしてしまいますが……」
「いえ、そのために伺わせて頂きましたのでお気になさらず。それでは部屋まで案内してもらっても宜しいですか?」
「はい。どうぞこちらです」
そして俺たちはミレイユとメイシルに案内されてカイエル伯爵の部屋に向かった。
部屋ではベッドに眠る伯爵の姿。時折苦しげに呻き声を上げていて、意識が戻ることがないらしい。
「聖女様。どうでしょうか?」
カイエルを心配そうに見つめながらメイシルがセイラに聞く。
「……この感じ。呪いであることは間違いないと思います」
「やっぱりそうなんですね……」
セイラの返答に、ミレイユが形の良い眉を落とし、その後拳をギュッと握りしめた。
「呪いだとしたらやっぱりあのハデルが」
「……私としては信じたくはありませんでしたが」
セイラの表情が曇る。セイラは教会の人間だ。だからこそ大神官のハデルが悪事に手を染めているかもしれないことで心を痛めているのだろう。
「とにかく、先ずは呪いが解けるかどうかだろう。聖女よなるはやで頼むぞ」
「マスカ、相手は領主様なんだしもう少しいい方が……」
「何を言う。大体見ればわかる。この呪い既に大分進行が進んでいるだろう。このままでは命が危ないぞ」
マスカの発言はなかなか衝撃的だ。まさかそこまでとはな。
「わかりました。では早速――解呪の祈り!」
セイラがベッドで眠り続けているカイエン伯爵に向けて祈りを捧げた。これが呪いを解くスキルなのだろう。セイラが祈りしばらくして伯爵の体に淡い光が発せられた。
だが――その光はすぐにかき消されてしまう。
「……もう一回」
そしてセイラは祈りを繰り返すが何度やっても結果は一緒だった。
「うぅ、申し訳ありません……呪いがかなり強力なようで」
「くっ、私も鑑定を試したけど駄目、呪いの正体が見れないわ」
ルンも悔しそうに顔を伏せた。鑑定も無理でセイラのスキルでも解呪出来ないとは……
「不味いな。そこまで強力な呪いとなると、本人に解かせるのが一番だが、そこまで持つか……」
マスカの言うように確かに厄介だ。それにハデルに問い詰める材料が問題だ。呪いが掛かっているのはわかったが、筆跡鑑定の結果もダミールが犯人だということだけだ。ハデルの犯行を決定づけるものではない。
後はダミールに全て吐かせてという手もあるが、素直に応じるかどうか……時間がないのが問題だ。
呪いを解く……ふと俺は手持ちの数珠丸恒次を見た。この刀――呪いを解く力はないのだろうか?
いや、あるはずだ。何となくだがどうしてもそんな気がしてしまう。
だったら頼む答えてくれ。物には魂が宿ると言われている。これだけの銘刀なら――だから頼む数珠丸!
――その時だった。俺の視界が暗く染まったのは。何かふわふわして妙な気分でもある。そして、黒く染まった空間の中に一人の男が座っていた。
「ここは? それに、あんたは一体?」
「おかしなことを言う。お前が呼んだのだろう? この数珠丸恒次を――」
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