第88話 サムジャは教会に忍び込む!

「聖女セイラよ。今日は貴様にいい情報を伝えに来たぞ」

「……何が良い情報ですか。こんなところに監禁して許されることではありませんよ!」


 大神官ハデルがやってきて薄笑いを浮かべながらセイラに話しかける。扉は特別な金属を利用して作られたものであり、鍵はハデルが所持しているものでなければ開かない。


 内側からでも無理なのである。今は扉についた覗き窓を開けて話しかけている形だ。


「はは、まぁそうだろうな。だが、そんなことはもうどうでもいい。本来ならもう少し資金集めをしたかったところだが……仕方ないな」

「一体何の話ですか?」


 捉えどころがないハデルの話にセイラの眉間に皺が寄った。不快感を顕にしている。


「ふん。こっちの話だ。あぁそうだ良い話というのはな。あの男は死んだよ」

「――え?」

 

 ハデルの発言にセイラの目が白くなった。唖然とした顔で立ち尽くす。


「はは、これだけでもう誰かがわかったのか。その表情、中々最高じゃないか」

「う、嘘ですそんなの!」

「はは、本当さ。ふふ、私に直接連絡が入ったからな。間違いなく死んでるだろうさ。シノという男も馬鹿な奴だ。素直にアレを渡しておけばよかったものを」


 ハデルが薄ら笑いを浮かべる。そう彼は聞いていた。直接頭にマジルから魔法で知らせが来たのだ。


 もっとも、ターゲットの側にシノやその仲間もいたという話を告げられたまでだが、暗黒姫と称されるダクネイルがいる以上、死は免れないと踏んでいた。


「ま、そういうわけだ。もしここから助け出してくれるなどと下らない希望を抱いていたならそんなのは無駄だぞ。最早お前を助けるものなどおらんのだからな。後はその日がくるまで大人しくしておくといい。アッハッハ!」


 得意げに高笑いを決め、そして覗き窓を閉じてハデルは去っていった。


 残されたセイラは顔を俯かせ胸元にやった拳をキツく締めた。目から涙がボロボロとこぼれ落ちてくる。


「シノさん、そんなの嘘よ……」

「何がだ? というか何でないてるんだ? どこか痛いのか?」

「痛いに決まってるじゃないですか! 大事なシ――」


 そこまで口にした後、ハッ! とした顔で覗き窓を見て、目をパチクリさせるセイラであり。


「よっ、大丈夫か?」


 覗き窓からそうシノが声を掛けてきたのだった。






◇◆◇


 情報を聞いた後、すぐに三階に向かった俺だが、言われた北部屋にはハデルの姿があった。色々と気になるところではあったが、一旦天井に引っ付き様子を探ることにした。


 パピィは影の中に身を潜めている。そしてハデルの話を聞いていたが、勝手に俺が死んだことになっていた。


 失敬なやつだな。しかし、やっぱりこいつはあの連中と関わりがあったか。


「ま、そういうわけだ。もしここから助け出してくれるなどと下らない希望を抱いていたならそんなのは無駄だぞ。最早お前を助けるものなどおらんのだからな。後はその日がくるまで大人しくしておくといい。アッハッハ!」


 最後にそう言い残し、ハデルが立ち去った。しかし、その日? 何とも意味深な言葉だな。


 気にならないと言えば嘘になるが、今はセイラを助けるのが先決だ。床に着地し、覗き窓からセイラに声を掛ける。

 

 セイラは何故か涙を流していた。もしかして何か怪我でも負わされたのか?


 そう思って声を掛けたのだが。俺が生きていたことに随分と驚いたようだ。


「死んだと聞いて本当に驚いたんですよ!」

「あぁ、あれはアイツが勝手に言っていたことだ。ただ死にかけたのは事実なのと、実際に危ないのがいてそれでセイラに助けてもらいたいんだ」

「え? どういうことですか?」


 セイラが覗き窓へと詰め寄ってきた。ただあまり時間がない。だから要点だけ伝えた。


「そうなんですね。なら、すぐにいかないと!」

「あぁ、だからこれを開けないといけない。内側からは開けられないのか?」

「駄目です。鍵はハデルが持っていて……」


 ハデルか。だが今はそっちを調べる時間はない。手荒くなるが。


「セイラ。少し離れていてくれ」


 俺はセイラを扉から離し、その上で居合で扉を切ってしまおうと試みた。


 だが、扉は傷一つつかなかった。


「俺の居合で駄目なのか……」

「特殊な金属を使った扉だと聞いてますから……」


 特殊な金属か。しかし聖女を閉じ込めるためにそこまでするか?


「やっぱり鍵がないと……」

「いや。問題ないだろう」


 そして俺はもう一つの方法を思いつき試してみた。抜刀すると壁の一部分が奥に向けて倒れていく。


「え! こ、こんな手で?」

「ちょっと手荒になったけどな。扉が無理なら壁を切ればいいってだけの話だ」

「はは……」


 セイラが苦笑した。まぁ、ちょっと強引かなとは思ったけどな――

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