第51話 サムジャに恨みを抱くもの

「おい! どういうことだコラッ!」

「だ、だからシエロはシノってサムジャの冒険者の専属受付嬢になったんだって」


 酒場で冒険者が集まり、受付嬢の誰がいいかという話で盛り上がっていた。その中でもダントツの人気だったのがシエロだったわけだが、しかしシエロはシノの専属受付嬢になってしまった。


 それが残念だという話をしていたら屈強な鶏冠頭の冒険者が話に割り込んできて、かと思えばその中のひとりを持ち上げ締め上げて問いただした。


「お、おいブロストそのへんにしておけって」

「うるせぇ! これが黙っていられるか畜生が! シエロはこの俺様が狙ってたんだぞ!」


 力任せにテーブルを叩きつけるとテーブルが割れ、床を踏むと床板を足がぶち抜いた。酒の瓶を割り話していた冒険者に八つ当たりする。


「お客様、もうやめてください!」

 

 これはたまらないと店長がやってきてブロストを止めようとする。店が破壊されたら商売上がったりだ。しかし、ブロストは睨みを効かせ大声で返した。


「てめぇ! 俺がCランク冒険者だとわかっていちゃもんつけてるのかコラァ!」

「C、ひ、ひぃ!」


 近くにあった椅子を蹴ると天井を突き破って椅子が飛んでいった。店長が尻餅をつき、ひぃひぃと喘いでいる。


「ふぅ、ふぅ、糞が! シエロは俺に惚れてた筈だろうが! なのにサムジャなんてわけのわかんねぇクソみたいな天職持ちの専属だと! あいつ俺を裏切りやがって!」

「いや、別に誰も裏切ってない、ヒッ!」


 離れたテーブルに座っていた冒険者が呟くとギロッとブロストが睨んだ。悲鳴を上げ逃げ出そうとしたがすぐに捕まりボコボコにされ放り投げられ窓を突き破って店の外をころがった。


「おいおいブロスト随分荒れてるじゃねぇか」

「当然だ! シエロの野郎俺に黙って浮気しやがって!」


 ブロストが憤る。勿論こんなのはブロストのただの思いこみだ。シエロはそもそもブロストのことなど何とも思っていないし当然付き合ってもいない。勝手にブロストが惚れてると吹聴して回っていただけだ。


「なるほどな。そういえばそのシエロは明日の休日、バザーに行くらしいぜ。しかもシノってサムジャと一緒にだそうだ」

「何だと! それは本当か!」

「あ、あぁ。間違いないって」


 血相を変えたブロストに詰め寄られ、情報を伝えた冒険者が答える。するとブロストがニヤリと笑みを深めた。


「だったらこの俺が明日のバザーで、皆が見ている前でサムジャのクソ野郎をぶっ殺してやる! そうすればシエロも目を覚ますだろうよ!」


 そしてブロストがのっしのっしと酒場を出ていった。


「お、おいあんな情報教えてよかったのかよ?」

「あぁ。サムジャなんてクソみたいな天職持ちが活躍していてお前らだって腹が立つだろう? あいつが動けばきっとシノって野郎もただじゃすまねぇからな。くくっ」


 そう、シノは一部冒険者には腕を認めているのもいるが、ブロストやこの冒険者のように仕事や受付嬢を奪われたと逆恨みをしているものもまだまだ多いのだった――






◇◆◇


 朝起きたら百万ゴッズの詰まった袋が置いてあった。パピィがダンジョンで見つけたのを取っておいてくれたようだ。


「偉いぞパピィ」

「ク~ンク~ン」


 朝からモフってやるとパピィが幸せそうに目を細めた。さて、今日はパピィの為にバザーの屋台も見て回るかな。


「おう、おはよう。今日も冒険かい?」


 階段を降りると宿の主が笑顔で声を掛けてきた。朝食にパンや目玉焼きを用意してくれたのでそれを食べる。パピィも用意されていた餌を食べていた。


「今日は冒険者業は休みにしてバザーを見に行くんだ」

「あぁ、そういえば今日はバザーの日か。何か掘り出し物が見つかるといいな」

「あぁそうだな」

「ワンワン!」


 そして朝食を食べた後、宿を出て待ち合わせ場所に向かう。


 バザーの会場前の広場に向かうとシエロとルンが既に立っていた。俺も早めに来たつもりだったんだが、二人の方が早かったか。


「悪かったな。待たせたか?」

「ぜ、全然そんなことないわよ!」

「私は今さっききたところよ」

「そうか。それなら良かった」


 あまり待たせていたならもうしわけないしな。


 さて、俺達はそのまま会場に入った。流石こういったイベントだけあって人が多く歩いていた。


 ごった返していると言ってもいい程だな。


「みんな逸れないようにな。パピィもだぞ」

「アンッ!」


 パピィが吠えた。まぁパピィは気配察知もあるし逸れることは先ずないだろうが。


「二人も気をつけてな」

「そ、そうね、だったらい、一応その」


 うん? 何だ? ルンが何かもじもじしているぞ? 何だろうと思っていたらシエロがいつの間にか俺の腕を取っていた。


「逸れないように、駄目?」

「いや、勿論構わないぞ」


 確かに腕を組んでいれば逸れることもないしな。するとルンが何かショックを受けたような顔をしていた。どうしたんだ?


 あぁ、でも。


「ルンもやっておくか?」

「え? えぇ!」

「あ、嫌だったか? だったら……」


 随分と驚かれてしまった。シエロが普通に腕を回してきたからつい聞いてしまったが、そういうのが嫌なこもいるよな。


「ま、待ちなさいよ! そ、そこまで言うなら付き合って上げても、い、いいわ!」


 そしてギュッとルンが俺の空いている方の腕に組み付いてきた。うん、これなら逸れないな。


「全く。素直じゃないわね」


 シエロが何かを呟きながら、フフッと微笑んだ。ルンは何故か顔が真っ赤だ。


「大丈夫かルン? 調子が悪いなら」

「わ、悪くないわよ! いいから行くわよ!」

「ワンワン!」


 ? 何で怒ってるんだろう? ふむ、まぁ元気そうだし問題ないか。さて、パピィも楽しそうだし折角だから色々と見てみるか――

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