第52話 サムジャ、両手に花でバザーを見て回る

「いらっしゃいいらっしゃい! こっちに掘り出し物あるよ! お値打ち品だよーーーー!」

「ちょっとそこの君、これみていかない? スライムの感触が気持ちよくて一人の夜も安心だよ~」

「そこの露店は出来損ないだ、こっちを見て下さい本物の露店を見せてあげますよ」


 ふむ、バザーに来てみたがやはり活気があるな。様々な物を扱ってる商人が沢山いる。基本露店が多いがテントを張っていたり屋台形式の店もあるな。


 役立ちそうなものからガラクタにしか見えないもの、衣服や宝飾品、絵なんかを売ってる店もある。


 勿論食べ物を扱う店も多い。


「アンッアンッ!」

「うん? これが食べたいのか?」


 バナナにチョコレートを掛けたチョコバナナという食べ物を扱う店の前でパピィが鳴いていた。中々美味そうだな。


「ふふ、これこういう行事の時は定番ね」

「そうなんだな。二人は好きか?」

「私は甘いのは好きよ」

「美味しそうね」

「なら四本くれ」

「あいよ! 毎度あり!」


 俺が頼むと屋台の店主が愛想よくチョコバナナを用意してくれた。


「出すわ」

「私も!」

「いや、これぐらいはいいさ。俺が出すよ」

「でも……」

「わ。悪いわよ!」

「ふむ、じゃあ次は何かごちそうになるよ。ほらパピィ」

「アンッ!」


 串から抜いて与えるとパピィが嬉しそうにチョコバナナを頬張った。尻尾を振りながら食べてる姿がとても可愛い。

 

「ふふ、わかった。ここはご馳走になっておくわね。ありがとう」

「今度は私が出すからね! はぁでもパピィ可愛い」


 パピィがチョコバナナをはむはむする姿に、シエロもルンもメロメロだった。そしてチョコバナナを食べてみたが旨いな。ねっとりしたバナナに甘いチョコレートは良く合う。


 さて、腹ごしらえした後、改めてバザーを見て回る。古代の文字が描かれた石版なんかもあったが、見ると明らかに偽物だった。いい値段ついているが、こんなのに騙されるのいるのだろうか?


 バザーで扱ってる品は玉石混交だな。もっともだからこそ面白いとも言える。偽物も一杯あるがそれもこういう場所ではよくあることだ。騙されたとしても高い授業料と思うぐらいでないとやっていられない。


「ふふ、ねぇ似合うと思う?」

 

 立ち寄った店は衣類を扱う店だった。特定の地域で暮らす民族の衣装なんかを扱っていて、シエロが試着して感想を聞いてきた。


 ひらひらした衣装で、シエロの長い足が特に強調されていた。青い生地はシエロによく似合う。


「うん、似合ってるよ」

「本当? う~ん買っていこうかな?」


 シエロがちょっと悩んでいた。


「シノ、この靴どう思う?」

「うん?」

 

 一方ルンが見せてきたのは靴屋に並べてあった革靴だ。タフネスバッファローという魔物の皮を加工しているらしく、丈夫で疲れにくいようだ。


 流石ルンは実用性で選んだか。


「悪くないと思うぞ。ただこの部分がもうちょっと……」

「あ、やっぱりシノもそう思う? これだとダンジョン探索だと少し不安かなぁ」

「う~ん、ルン、貴方こういう時でもそっちなのね」


 俺とルンが話しているとシエロが呆れた様子でこっちを見ていた。


 結局シエロも迷ったけど買わなかったようだな。

 まぁこういうバザーはその場の雰囲気でつい買ってしまって後で後悔なんてパターンもよくあるしな。


「あ! 嘘これ!」


 そして暫く店回りを続けていると、ルンが興奮した様子で露店の品を見た。

 

 ルンが見ていたのは石版だった。ただ、あっちこっちにおいてある出所不明の怪しそうなものではないようだ。


「ルン、これがどうかしたの?」

「うん。これルーン文字よ!」


 石版を掲げてルンが言った。ルーン文字――刻印術師が刻むのに使う文字だな。


 ふむ、つまりこれがあるとルンは新しい刻印が使えるようになるってことだな。


「お嬢ちゃんお目が高いな。それはかなり珍しい鑑定のルーンが刻まれた石版だ」


 するとルンに目を向けた店主が説明してくれた。


「鑑定!?」


 店主の説明を聞きシエロが驚いていた。ちょっと気になったからシエロに聞いてみる。


「凄いものなのか?」

「そりゃそうよ。鑑定は一部の天職がスキルで覚えることもあるけど、会得者は決して多くはないわ。相手のステータスが確認できたり物の価値がわかったりするからかなり役立つのだけどね」


 へぇ、それは確かに役立ちそうだな。


「おじさんこれ幾ら!」

「ズバリ百万ゴッズだ!」

「百万!?」


 店主が指を一本立てて答えると、ルンが飛び上がらんばかりに驚いた。百万って随分高いな。


「そんなにするものなのか?」

「そうね……鑑定が貴重だからそれぐらいしてもおかしくないとは思う」


 なんとなく疑問を口にするとシエロが答えてくれた。なるほど。別にぼったくりでもないんだな。


「こ、これ少し負からない?」

「駄目だ。この手のはこの値段でも欲しいってのは必ずいるからな」

「うぅ、滅多にないのに」


 交渉するも上手く行かず肩を落とすルン。それをみて助けてあげたくなった。


「わかった百万だな」

「へ?」


 ルンはお金が足りないようだからな。俺が百万ゴッズ出した。


「へ? い、いいのか?」


 店主が目を丸くさせる。俺が支払うと思わなかったのかもな。


「ちょ、ちょっと待ってシノ! 流石にそれは悪いよ!」


 するとルンが慌てた様子で止めに来た。ふむ。


「でも、欲しいのだろう?」

「それはそうだけど……」

「バザーはすぐに終わるし他の誰かに買われるかもしれないなら、手に入る時に入れておいたほうがいい」

「で、でも」

「なら、貸しってことでどうかな?」

「う、う~ん」


 俺が提案するもルンは悩んでいた。


「いいじゃない。貴方達パーティーを組んだのだし、鑑定の刻印があればきっと役立つわよ」


 そこへ助け舟を出してくれたのはシエロだった。そして彼女の言うことも理由としてある。


「あぁ、俺もルンが鑑定の刻印が使えるようになると助かる。支払いは別に余裕がある時でいいからどうかな?」

「シノ、シエロ、う、うん! なら借りておく! でも、出来るだけ早めに返済するから!」

「アンアン♪」

 

 納得してくれた。だから俺が建て替える形で鑑定のルーンが刻まれた石版を購入した。パピィもなんとなくかもしれないが尻尾を振りながら機嫌よさげに吠えていた。


「シノ、ありがとう。私大切に保存するね!」

「いや使ってくれ」

「保存したら意味ないじゃない」


 感無量と言った様子でギュッと石版を抱きしめたけど、鑑定はちゃんと役立てて欲しい。


 さて、ルンはバザーに来て必要な物も手に入ったようでよかった。後はそろそろ昼――


「見つけたぞこの野郎ーーーー!」


 その時だった、人混みをかき分けやってきた褐色で大柄な男が俺に向けて鉄槌を振り下ろしてきた。


「おっと!」


 後方に飛び退いて避けると鉄槌が地面にめり込み大きく凹んだ。土塊が飛び跳ね、周囲から悲鳴が上がる。


「何だお前? 危ないやつだな」

「グルルルウゥウウウウウ!」


 突然の暴力にパピィも警戒心を強め唸り声を上げた。なんだか鶏冠みたいな頭が揺れ、ゆっくりと岩石みたいな顔が持ち上がる。


 ふむ、見たこともないような奴だ。いきなりハンマーで攻撃される覚えがまったくない。


「よくも避けやがったなこの間男が!」

「は?」


 間男? 何だこいつ何を言って――


「あ、あなたブロスト!」


 するとシエロが突然の狼藉者を認め叫んだ。ふむ、シエロの知っている男なのか?

 

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