第49話 パピィの冒険 其の弐

 パピィは教会でシノがお布施した金貨を回収したがその帰りに野良犬に襲われているメス犬と父犬を助けた。


 そこへ現れたボス犬は意外と話のわかる犬だったが、その口から飛び出たのは最近この辺りを荒らして回っているネズミがいて困っているという情報だった。


「だったら僕がそのネズミをやっつけるよ!」


 そこまで聞いて黙っていられるほどパピィは薄情ではなかった。だからこそボス犬に向けてそう言い放つが。


「お前、本気なのか?」

「うん、だったら僕がそのネズミをやっつけるよ!」


 尻尾をパタパタさせながらパピィが宣言を繰り返した。大事なことだからだ。


「その目、いい目だ。だが悪いことは言わねぇやめておけ。あのネズミは手強い。多少はやるみたいだが、お前みたいな子犬がどうにか出来る相手じゃないんだ」

「大丈夫だよ! こうみえて僕、忍犬だから!」

「に、にんけん?」

「そう。僕は忍犬なんだ!」


 舌を出し、尻尾をパタパタ振りながらパピィが言い放つ。その愛らしい瞳の奥には決意の光が輝いていた。


「そうか、にんけんか。道理で、だが行くなら本当に気をつけろ。俺の目の傷はあのネズミどもにやられたものだ」

「うん。わかった僕、気をつけるよ!」


 そしてパピィはボス犬にネズミが多くいる場所を教えてもらう。


「あ、そうだ! ねぇ!」

「何だ?」

「これ、預かっていて!」


 パピィは背中の袋を下ろしボス犬に預けた。パピィはこのボスなら信用できると思ったのだろう。


「……どうやら大事なもんなようだな。わかったしっかり俺たちが預かっておくぜ!」

「あの、御名前をお聞きしても?」

「僕はパピィだよ!」

「パピィ様……」


 ボス犬は快く金貨の入った袋を預かってくれた。

 そしてメス犬は名前を聞き頬を染めた。


「じゃあ行ってくるね!」

「おう、頑張れよ!」

 

 そしてパピィは尻尾をふりふりさせながら下水を目指した。それを見送るボス犬を含めた面々。


「あいつ、肝っ玉の座った犬だったんだな」

「ところでボス」

「何だ?」

「にんけんって結局なんなんですか?」

「……」


 周りの犬たちがボス犬に聞く。期待に満ちた目でだ。ボスは一瞬沈黙するが。


「そ、そりゃおめぇ、に、にんにく好きな犬のことに決まってるだろう」

「「「「「…………」」」」」


 答えてボスの顔が赤くなった。しまった! という感情も読み取れるが。


「「「「「流石ボス! 物知りだな!」」」」」


 だが、皆納得してくれたようだ。ボスの威厳はどうにか保たれた――





 一方パピィはボス犬の情報を頼りにネズミたちが住処としている下水の入り口にやってきた。そこで早速灰ネズミと遭遇する。


「「「キィキィ!」」」

「お前たちだな! この辺りを荒らしている悪いネズミは!」


 灰ネズミは普通のネズミより大きなネズミの魔物だ。サイズだけならパピィとそう変わらない。


「「「キキィイイイイ!」」」



 そして問答無用でネズミがパピィに襲いかかってきたが。


「僕は負けないよ! 旋風爪牙!」

 

 パピィは得意のスキルで突撃。灰ネズミを纏めてふっ飛ばし片付けた。


「やった! 僕はやったよ御主人様!」


 空を見上げながら鳴き声にそんな思いを乗せた。尻尾がぱたぱたしている。


 そしてパピィは下水の中を進んでいく。その途中でも灰ネズミは襲いかかってきたが問題なく倒した。


 だが――


「こいつ、火の玉を吐くのか!」

 

 そう、赤いネズミがパピィに襲ってきた。しかも火球を口から吐いてくる。


「こいつ、何か灰色の三倍強い!」

 

 パピィはなんとなくそんな気がしたからいってみた。


「でも、負けないよ! 旋風爪牙!」


 しかし、やはりパピィの突撃には叶わなかった。赤いのも大きく吹っ飛び無事撃退する。


 こうして下水道を順調に進むパピィだが、正面に黒い毛のネズミが三匹姿を見せる。


「まさかここまで来るのがいるとはな」

「こいつ、喋るぞ!」


 パピィが思わず吠える。もっとも喋るといってもパピィに伝わる形でという意味だが。


「俺はペスト!」

「俺はハンタ!」

「俺はワイルだ!」

「「「三匹揃って黒毛三連鼠とは俺達のことよ!」」」


 黒いネズミがそんな自己紹介した。パピィは身構える。


「お前たち、ただものじゃないね!」

「ふ、当然よ」

「この先には俺達のボスがいるが」

「絶対通すわけにはいかねぇ!」

「そうなんだその奥にボスがいるんだ」

「「「しまった!」」」


 三匹がギョッとした顔を見せる。


「く、上手いこと誘導しやがったな!」

「うん。僕は忍犬だからね!」


 パピィが得意がる。尻尾もパタパタしている。


「だが、それを知られた以上もう生きて帰すわけにはいかないぜ! 行くぞ! ペスト! ハンタ! ワイル! ラットストリームアタックだ!」

「「「おう!」」」

「旋風爪牙!」

「「「ぐわぁああぁああぁあああ!」」」


 黒毛三連鼠が何かをしようと一直線にならんだが、パピィにとってはいい的だった。旋風爪牙の突撃で纏めてふっとばされたのだ。


「やったぁ勝ったよ! あ、わーいレベルが上った~」


 そして嬉しさの余りぴょんぴょんして尻尾をパタパタさせるパピィであった。さぁ残ったのはボスだけだ!


――パピィはレベルが上った!


ステータス

名前:パピィ

レベル:3

天職:忍犬

スキル

気配遮断、気配察知、周囲探知、五感強化、空蝉の術、天地落とし、旋風爪牙、影走り、影潜り、影移動、影操作

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