第48話 パピィの冒険 其の壱
今の飼い主であるシノが眠ったのを認め、パピィはそっと起き上がり、主であるシノのベッドから離れた。
器用に窓を開け、外に出てまた閉める。そして屋根伝いに移動し、教会の見える屋根までやってきた。
――ここだ!
そして教会の前に着地した。夜の帳が落ちたこの時間は、当然教会堂の扉も開いていない。鍵だってしまっているだろう。
しかし、パピィには問題なかった。レベルが上がり覚えた影潜りと影移動があるからだ。影に潜りそして教会堂の中へ潜入する。
そしてパピィは匂いを頼りに移動し、部屋の前まで来た。パピィが辿った匂いは主であるシノの匂いだった。
「畜生、どうして俺がこんな時間までぇ!」
聞き覚えのある声が聞こえてきた。扉には鍵がかかってなかったのでそっと開いて中を覗き見る。
そこには主が一生懸命頼んでいたのに、口汚く罵り取り合おうともしなかった教会の神官がいた。
パピィも思わず歯牙をむき出しに唸り声を上げそうになったがすぐに止めた。ここで見つかっては意味がない。
「はぁもうやってられるか!」
すると神官が立ち上がり、近づいてきた。パピィは影潜りでその場から消え失せる。
「あれ? ちゃんと閉じなかったかなぁ?」
神官のそんな間の抜けた声が聞こえそして足音が遠ざかっていった。
パピィは影の中から姿を現し、改めて部屋を見る。机の上には金貨が大量に並んでいた。一体何をしていたかまではパピィにはわからないが、とにかくこれはラッキーだなと思った。
机の上に移動する。主の匂いが染み付いた金貨を探した。パピィの嗅覚は鋭い。あれから時間も経ち匂いも大分薄れた筈だがそれでもパピィには嗅ぎ分けることが出来た。
テーブルには袋も置かれていた。パピィは神官が戻ってくる前に済ませようと前足で器用に金貨を掻き集めた。全て主の匂いが残っていた金貨であり合計百万ゴッズ分を袋に入れて口で袋に備わっていた紐を締めた。
そして金貨の詰まった袋を背中に乗せて移動する。
「あぁすっきりした」
神官の声が聞こえ影に潜ろうと思ったが袋は影にいれることが出来なかった。
ヤバいと思い隠れられそうなところにパピィは移動する。
「全くあの量の金貨を全部数えろとか本気かよ。こうなったら何枚かチョロまかしてやろうか……」
神官はぶつぶつと呟きながらパピィに気づくことなく部屋に戻っていく。パピィはホッとした表情を見せながらも再び袋を背負って出口を目指した。
パピィがここまでしたのは皆の話から教会はろくでもないと判断したからだ。そしてそんな教会に不当な金額をお布施として支払うなんて納得いかないと思い、主の為に今こそ自分が動くときだと使命感に燃えていたわけである。
再び教会の出入り口のドアへ。しかし影潜りはつかえない。金貨の入った袋を背負っていたからだ。
だが、パピィは賢い犬だ。ドアノブに飛びつき鍵を先ず外し、それからドアを開けて外に出た後ドアを閉めた。
「ワンワン!(やった悪い連中からお金を取り戻したよご主人さま!)」
そんな思いを鳴き声に乗せながら夜の街を疾駆するパピィ。これで目的は果たしたと、そう考えていたのだが。
『俺たちの餌場を勝手に荒らすとはいい度胸してるじゃねぇか』
『お、お許しを……最近は餌になりそうなものも全く手に入らず……』
『知ったことか! 俺たちだって同じなんだよ!』
『お、お願いです許して下さい!』
『ふん、全く弱っちそうな親の割にいいメス犬をつれてるじゃねぇか』
『この子は私の娘で』
『うるせぇ! おい、そこのメス犬、ちょっとこっちこい!』
『いや、やめて! 放して!』
そんな声が宿に戻るパピィの耳に届いた。足を止め耳をピコピコと動かす。
「こっちだね!」
パピィは宿に行く道から脇へ逸れて悲鳴の聞こえた方へと移動した。そこには愛らしい雌の犬と痩せこけた雄の犬がいてガラの悪そうな野良犬に囲まれていた。
「お、お前だけでも逃げろ!」
「そんな、パパを見捨ててなんて」
「ふん、もういいメス犬を残してやっちまうぞお前ら!」
「「「「「ガウッ!」」」」」
そして一斉に野良犬達が親子の犬に襲いかかったが――
「旋風爪牙!」
「「「「「ギャンっ!」」」」」
間一髪パピィの忍法によって纏めて弾き飛ばされた。親子の犬の前にパピィが立ち、顔を向ける。
「大丈夫?」
「あ、あなたは?」
「僕は通りすがりの忍犬だよ!」
「に、にんけん? 何かよくわかりませんがありがとうございます」
雌犬と父犬がお礼を言ってくる。パピィは人助け、いやひょんなことからおこなった犬助けが出来たことが嬉しかった。
「て、てめぇ一体何処のシマのもんだ!」
するとパピィの一撃でダメージを受けた犬たちがフラフラになりながらも立ち上がってきて睨みを利かせる。
「島? …………僕は町育ちだよ!」
「そういうこときいてんじゃねーよ!」
パピィの返しに犬の一匹が目を剥いて吠えた。しかしパピィは首を傾げている。
「お前ら一体何の騒ぎだ」
「ボス!」
するとパピィから見て向こうの奥からのそりと一匹の大型の犬が姿を見せた。目には縦に一本の傷が走っている。見るからに厳つい如何にもといった風格のある犬であった。他の犬も一目置いているようでありこの犬が彼らのボスなのは間違いなさそうだ。
「それが、俺らのシマであっちの痩せた犬が餌を漁ってたんです!」
「だから懲らしめようと!」
「お前らこっちの女の子もいじめてただろ!」
「そ、それは見せしめに」
「この馬鹿野郎!」
パピィが吠えて訴えると、言い訳をする犬をボス犬がぶっ叩いた。軽々と吹き飛び壁際のゴミ箱に頭を突っ込む。
「ぼ、ボスどうして……」
「それはこっちの台詞だ。いつも言ってるだろうが! 弱いものに牙を剥いて調子こくのは駄犬の証拠だと! お前ら犬畜生にまで堕ちたいのか!」
「え? でもボス俺たちは犬――」
「いいわけすんじゃねぇ!」
「ギャフン!」
ボスに殴られそしてもう一匹がゴミ箱行きになった。
「すまねぇな。うちのもんが乱暴はたらいちまって」
「うん。わかればいいよ!」
近づいてきて頭を下げたボスをパピィは許して上げることにした。親子の犬も恐縮している。
「とはいえだ、ここはうちのシマだ。勝手に餌を荒らされても困るのも事実だ」
「そ、それはもうしわけありませんでした」
「シマってなんで? ここ街だよね?」
「は?」
父犬が謝るなか、パピィが尻尾をパタパタさせながらボスに聞いた。さっきからパピィはシマを勘違いしている。
「……いや、縄張りって意味だよ」
「へぇ! 勉強になったよ!」
「そ、そうか……」
「でも縄張りって誰が決めてるの?」
「俺だ」
「どうやって?」
「マーキングだよ! お前だってするだろう!」
「マーキング、う~ん……」
パピィは悩んだ。本気でだ。
「いや、だから壁とかにこう、おしっこをだな」
「駄目だよ! おしっこは決められた場所でしないと!」
「さてはお前、飼い犬だな?」
ボスが突っ込んだ。トイレのルールをきちんと守っているのは大体飼い犬なのである。
「なんだよあいつ飼い犬かよ」
「家の犬ってことだな」
「家の犬にようはないんだよ! おうちへお帰り!」
「黙れ!」
ボスが睨みをきかせると吠えていた犬が黙った。
「ふん。その飼い犬に負けたのがお前らだろうが」
「う~ん、よくわからないけど餌が足りないの?」
「はい。実は最近私達の餌場が鼠に荒らされてましてそれでつい……」
「鼠……灰ねずみどもか……」
「知ってるの?」
ボスが思い出したように言うのでパピィも聞いてみた。
「最近うちのシマにも現れやがるのさ。しかも灰ねずみ以外のネズミもいてな。下水道に住み着いたらしくて派手に暴れまわって迷惑してる。こいつらがピリピリしてるのもそのせいだろう。奴らこの辺りの餌も好き勝手漁るからな」
ため息交じりにボスが語ると、パピィが、考える仕草を見せ。
「だったら僕がそのネズミをやっつけるよ!」
そう言い放った――
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