第42話 サムジャが情報を得る?

 あのダン達がルンを襲ってきたことは回収しておいたギルドカードでわかった。その後はダンジョン攻略中に手に入れた素材を売却し最初に踏破した場合に貰える賞金も含めてルンと分け合う。


 俺はそれに護衛分として百五十万ゴッズが加わり、全部で約二百万ゴッズにもなってしまった。


「こ、こんなに沢山貰えるなんて」


 ルンがわりと驚いている。どうやら受け取った報酬としてはこれまでで最大だったようだ。


「ルン。無駄遣いするなよ?」

「しないわよ! て、パパ! もう私は子どもじゃないんだからね!」

「はは、悪い悪い。でもな、幾つになっても子どもは子どもなんだよ」


 頬を掻きながらオルサが言った。いつでも子どもは子どもか……結局転生前も含めて親になった経験のない俺だが、何かそういう関係もいいものだな。


「ところでこれで実力はある程度信じてもらえたかな?」

「まぁ信じるも何も、最初からお前とんでもなかったしなぁ」


 オルサが後頭部を擦りながら答える。とんでもないというのはあまり実感がわかないが。


「クゥ~ン」

「よしよし」


 足に擦り寄ってきたパピィを撫でた後、ヒョイッと持ち上げてオルサの前に持っていった。


「ワン!」

「おう、お前はめんこいな」


 オルサがパピィを撫でる。そのすぐ後ろでシエロが羨ましそうにしていた。後でしっかりモフらせてあげよう。


 それはそれとしてだ。


「俺はパピィの為に力になってやりたいんだ」

「……そういうことか」

「え? どういうこと?」


 ルンが小首を傾げる。そういえばルンはこのことを知らなかったな。


「オルサ……」

 

 俺は目でルンに伝えていいものか聞く。ある程度は親の判断も聞いておかないと。


「――ま、パーティーを組むなら隠し事はしない方がいいだろう」

「だからなんなのよ! もう!」

「ごめんごめん」


 ルンがぷくぅっと頬を膨らませた。可愛らしいがあまり蚊帳の外にしていては気の毒だろう。許可ももらったしな。


「実は、パピィの飼い主は巷を騒がせている通り魔にやられたんだ」

「え?」


 ルンが目を丸くさせて驚く。


「通り魔って、ギルドでもずっと貼られているあの依頼よね?」

「あぁ、既に何人も殺されている凶悪犯だ」

「クゥ~ン……」


 パピィが悲しそうに鳴いた。俺達の話している内容を理解しているのかも知れない。やはり賢い犬だと思う。


「パピィ、辛かったんだね」

「クゥ~ン、アン! アン!」


 ルンの声かけに細い声で返すが、すぐに元気な声に戻り俺の背中をよじ登ってきた。


「ワン!」

「うふふ。そういうことね」

「どういうことだ?」

「きっと、今はシノくんが側にいるから大丈夫だって、そういいたいのよ」

「そうなのか?」

「アンッ!」


 頭の上に問いかけるとパピィが元気に吠えた。そうか、そう思ってくれているなら飼ってよかったと思える。


「でも、通り魔は私も許せないと思っていたの! パピィの為にも私に出来ることがあったら何でも言ってね! 協力するから!」

「あぁ、ありがとう。それでこれまで集まった情報は何かあるかな?」

「ふむ、ま、今回の件も片がついたしな。だが無茶はするなよ」

「あぁ、わかってる」


 今の俺には仲間のパピィやルンがいる。仲間を危険な目にあわせるわけにはいかないだろう。


「前回の情報で性別もわかったが、今回調べている内に最近の相手の行動パターンが読めた」

「パターン?」

「あぁ、この通り魔はひと目のつかないところで出る。基本夜が多いが、こないだみたいに夕方頃に出るときもある。朝や昼間は起きてねぇから行動時間は夕方から夜にかけてひと目のつかない路地に出ることが多い。そして性別が男だが姿は何かで隠している」

「なるほどな。他に特徴は何かありそうか?」

「それがうちの調査班にも今回の情報を元に推測してもらったのだけど、性別は男性で髪は長いか短いかはたまた薄いか全く無い可能性があり年の功は二十代から三十代、もしくは四十代から五十代で老人の可能性も拭いきれなく天職は戦士系か盗賊系、あるいは魔法系の可能性もあるって話でちょっとしぼりきれないのよね」

「それ男ってこと以外全くわかってないのと一緒よね?」

「クゥ~ン……」


 ルンが率直な意見を言った。事実上パピィの情報以外役立ってないな。


「ただし一点だけ有力なことがわかった。犯人は最近大体四から五日おきに犯行を重ねている」


 四から五日おきか。これは有力な情報かもしれない。


「ん? でも待てよ。パピィが襲われたのは……」

「あぁ、確か三日前だったか。そうなると明日か明後日ぐらいに再度現れる可能性が高そうってことだな」


 そういうことになるな……ちょっとは用心して置いた方がいいか。


「ねぇ、その犯人って女性を狙うことが多いのよね?」

「あぁそうだな。男はついでで殺されることがあってもメインじゃない」

「なら、私が囮になるわ! それで相手を――」

「馬鹿言うな! 絶対に許さんぞ!」


 ルンがいいことを思いついたと言わんばかりに自身を囮にする作戦を語りだしたが、すぐさま父親のオルサに怒鳴られ却下された。


「そんな頭ごなしに言わなくてもいいじゃない!」

「これが言わずにいられるか! 大体Eランク程度の未熟者が囮作戦なんて百年早い!」

「な、何よ何よ! 私だってダンジョンだって攻略したし日々成長してるんだからね!」

「成長だぁ? そんな小さな胸で良く言うぜ」

「む、胸のことは関係ないでしょう! 胸のことはーーーー!」


 あ、胸のことにオルサが触れた途端、偉い剣幕で怒り出した。どうやらそこは触れてほしくなかったらしい。


「もう、女の子はそういうことに敏感なんですからねマスター!」

「な、何だよお前まで怒ることはないだろうが」

 

 シエロの激が飛ぶとオルサが急に小さくなった。娘の剣幕もあるし、女性も怒ると怖いもんだな。


「でもねルン。マスターの気持ちも考えて上げて。たった一人の娘ですもの。危険な真似をしていざとなったら後悔してもしきれないと思う」

「でも、冒険者なら危険はつきものでしょ?」

「それはそうだけど、自ら危険に足を突っ込むのはやっぱり話が違うのよ」

「む、むぅ」

「それにね。そもそもで言えば囮作戦は無駄になる可能性が高いのよ」

「無駄って?」


 シエロがルンを窘め、更に理由を続けた。

 

「実は似たようなことをやろうとした冒険者が何人かいたのよ。でも相手が冒険者だと決して手は出してこないのよ。いくら変装したとしてもね」


 あぁ。そういえばそんな話を前に聞いた気がするな。

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