第41話 サムジャ、ダンジョン攻略を報告する

「――えっと、シノくん?」

「そうだが?」


 ダンジョンの攻略も終わり、ギルドに戻った俺だったが、俺の専属受付嬢になってくれたシエロに攻略が終わったことを告げるも妙にぼ~っとした様子を見せていた。疲れているんだろうか?


「大丈夫か?」


 俺が問いかけるとシエロが目をまん丸くさせて慌てた。


「ハッ! ちょっと、見惚れ、いえ! その着ている物変わったのね」


 うん? シエロの視線が俺の着衣に向けられていた。そういうことか。


「あぁこれか。ダンジョンの戦利品だ。ボスを倒したら宝から出てきたんだ。その、もしかして似合ってないかな?」

「そんなことはないわ! すごく良く似合ってると思うわよ!」


 ぐいっと顔を近づけてシエロがそう言ってくれた。お世辞でも悪い気はしないかな。


「ありがとう。シエロにそう言ってもらえたなら嬉しいよ」

「そんな……」

「私も似合ってると言ったと思うけどね」


 するとルンが細めた目で俺を見ながら不機嫌そうに言った。あれ? どうしたんだろうか? ふむ……


「勿論ルンもありがとう。それにルンには感謝している。色々と助けられたしルンがいたからこそ攻略も上手くいった」

「え? そ、そう? ま、まぁ私もそれは同じよ。シノがいてくれたからこそ、一緒に・・・ダンジョンを攻略出来たんだし」


 うん? 何故か一緒にの部分だけ強調したように思えたが気のせいか? その際に特にシエロを見ていた気もしたが……


「――そ、そうね。でも私だってサムジャとしてのシノくんの専属・・になれたのは本当幸運だったかも。これからも専属としてしっかりサポートしていくわ」


 今度はシエロが専属の部分を妙に強調していた気がする。ふむ、これも多分気のせいか。


「それはご苦労さま。でもいくら専属でも一日中一緒にというわけじゃないわよね。私は仲間としてこれからも一緒に行動することになるかもだけど」

「う~ん、でも正式なパーティーじゃないわよね? 今回は一時的に組んだみたいだけど」


 なにか良くわからないがルンとシエロの間でやり取りが続いていた。


「全く、二人とも仲がいいんだな」

「「はい?」」


 俺が二人の印象を伝えると揃って目をパチクリさせた。うん、やっぱり息があってる。


「なぁ? パピィもそう思うだろう?」

「アンッ!」


 パピィの尻尾が振られる感触が背中を通じて伝わってきた。そして俺の顔に擦り寄ってきて、二人を見ながらもう一度、ワンッ! と吠えた。


 その様子に二人の表情に笑みが灯る。


「全くパピィにはかなわないわね」

「同感ね。大体こんなことで言い争っていても不毛だし」

「うん? 言い争っていたのか?」


 仲良く話しているように見えたのだが違ったのだろうか? そう思っていると今度は二人揃ってお腹を抱えて笑い出した。


「全く、そうよね。それが貴方よね」

「本当、何だか馬鹿らしくなってきちゃった」


 う~ん、良くはわからないが、どうやら二人共よりわかりあえたようだ。


「おう、戻っていたかルン。で、どうだった?」


 すると今度は二階からギルド長がおりてきて、ルンに成果を聞いていた。


「バッチリよ! 攻略も終わったわ!」

「何! も、もうか!」


 ギルド長が驚いてみせる。もう、と言っても一日はダンジョンの中で潰れている。ただ、ギルド長は護衛として二、三日と言っていたからそう考えたら早く攻略出来たほうだろう。


「全く、まさか攻略までするとは思ってなかったんだがなぁ」


 しかし、どうやら想定外というのは攻略も含めての話だったようだ。


「私も別なことについ気を取られていたけど、良く考えたらかなり早いわね。しかも見つけたばかりで初攻略のダンジョンをそのまま踏破しちゃうなんてね」


 シエロにも感心されてしまった。既に攻略が続いているダンジョンなら内部構造もある程度パターンが見えるし敵の強さや罠の危険度も知られていく。故に難易度は自然と下がるが最初の攻略となるとそうはいかず必然的に難易度も上がる。


 だから最初に攻略するダンジョンでそのまま踏破出来る確率は低いとされているようだ。


「シエロ、報酬の件」

「わかってます」

「うん? 今なにか言ったパパ?」

「はは、こっちの話だ。別な仕事のな」


 そういいつつもギルド長のオルサが俺に向けてニカッと笑った。報酬については任せておけと言っているようでもある。


「それでどうだったシノは?」

「そ、そうね……ねぇシノ」

「うん?」


 オルサに問われたルンだが、オルサにではなく俺に話しかけてきた。


「あのね。可能ならこれからも一緒にパーティーを組んでくれると嬉しいんだけど、だ、駄目?」


 ルンが不安そうに俺に聞いてきた。でも、そんなのはもう答えも決まっている。


「こちらこそ宜しく頼むよ。ルンとは連携も取りやすかったしパピィも懐いている」

「ほ、本当! いいの? ぱ、パパ!」


 ルンが今度は訴えるような目でオルサを見る。

 するとオルサがニカッと笑い、俺に顔を向けてきた。


「勿論相手がシノなら俺も文句はないさ。だけど、正式にパーティーを組むならしっかり頼むぞ?」


 今のしっかりは守ってやって欲しいという意味なのかもしれない。


「あぁ勿論だ」

「やった! パパって何か男の人には厳しいから不安だったのよね」


 俺が答えると、ルンがホッとした顔で胸をなでおろす。まぁそれは親心というものなんだろうな。


「ただしシノ、念の為に言うがすぐに手は出すなよ?」

「いやいや、そんなのは当然だ」


 そしてオルサが俺に耳打ちしてくる。だけど、そんなつもりは流石にない。というかすぐにって何だ?


 さてこれで正式にルンとパーティーを組むことになり、今度はダンジョンで何が起きたかを説明することになったのだが。


「実はルンを狙う冒険者がいてな。ダンジョンにまでやってきてちょっかいを掛けてきたんだ」

「よし、殺そう♪」


 オルサが笑顔で言った。その笑顔が逆に怖い。

 そしてどうみても本気だ。


「落ち着いてくれ。確かにちょっかいかけに来たが返り討ちにした」

「よくやったぞ! シエロ護衛料上乗せしておいてくれ」


 ルンには聞こえないよそっとシエロに耳打ちしていた。俺には聞こえていたけどな。


 大体からして、そもそもそういうのも含めての護衛だと思うだが……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る