第32話 サムジャは仲間とダンジョンへ向かう

「ちょ、ちょっと買いすぎたかしら――」


 大量に荷物が詰め込まれたリュックがドサッと道に置かれていた。すべて店を回って買い込んだものだ。俺も勿論必要そうなのは買ったが、ルンはあれもこれも思いついたものを考えなしに手にとってしまう質なのかも知れない。


 もっとも、一番多かったのは食料だったりする。飲み物にしても何故か水以外にもドリンクも買い込んでいたが。


「これ、流石に持ってはいけないわよね……」

「俺が運ぼうか?」

「え? いや、流石に悪いわよ。こんな重いもの持ってもらうなんて」

「大丈夫だ。この程度なら問題なく入る。居合忍法・影風呂敷――」


 俺は忍法で作成した風呂敷でリュックごと包み込み収納した。地面に置いてあったリュックは消え去りポカーンとした顔を見せるルンだけが残っていた。


「えっと、荷物は?」

「忍法で収納したんだ。勿論言ってくれれば自由に出すぞ」

 

 そう言って改めて忍法でパンパンのリュックを取り出す。ルンが瞳を白黒させた。


「え? え? つまり魔法の袋とかそれと似たことが忍法で出来るってこと?」

「そうなるな」


 魔法の袋、他にも鞄というのもあるが、どちらも見た目以上に物を収納できる魔導具だ。


 一応魔法にも収納魔法というのがあるが、誰にでも使えるというものではない。だから荷物がかさばる傾向にある冒険者などは魔法の袋や鞄に頼ることも多い。

 

 俺の場合はそれを忍法で補っているわけだ。


「驚いた……しかも忍法って複雑な印が必要とも聞いたけど、全くしてなかったわよね?」

「サムジャの場合、居合で印が省略出来るからな」


 その上、今は居合も省略できる。わざわざ刀を全て抜かなくていいのは楽だ。


「――もしかしてサムジャってとんでもない天職なんじゃないの?」

「皆が思ってるほど使えないってわけではないかな。ただそのあたりは使い方次第だと思う」

「そ、そうよね。天職がどうあれ、本人の努力が一番重要なわけだし!」


 ルンが自分に言い聞かせるように口にする。さっきの連中の話でも思ったが、もしかしたら彼女の場合逆に恵まれた天職と思われていることがプレッシャーに繋がってしまっていたのかもしれないな。


「とにかく準備が整ったしダンジョンに向かおうか」

「そうね」

「ワン!」


 パピィも張り切ってるな。そして俺達は街を出て目的のダンジョンへと急いだ。






◇◆◇


 ダンジョンの入口までは徒歩で三時間程度かかった。幸いその間に襲ってきた魔物はいなかった。


「もぐもぐ、ここが入り口よ」

「アンッ!」

「そうみたいだな」

 

 皆でダンジョンの入り口を眺めながら語り合う。ダンジョンへと続く入り口はピーチマウンテンの麓の森にあった。ピーチマウンテンは文字通り桃の実がよくなることで有名だ。


 特に麓の森では甘い桃が実るため、冒険者も依頼を受けて採取しに来ることもある。


 そして今ルンが食べているのは途中でもいだ桃だった。少量なら別に採って食べても問題にはならない。俺もナイフで切ってパピィに食べさせて上げたが凄く喜んでいた。


「さて、いよいよダンジョン攻略よ! 準備はいい?」

「あぁ」

「アンッ!」


 パピィも張り切ってるな。そして俺達はダンジョンへと足を踏み入れる。いかにも洞窟といった構造のダンジョンだ。天井はそれなりに高いかな。


 洞窟の幅は俺とピーチが並んで少し余裕があるぐらいだったが、それも徐々に広がっていった。


「アンッアンッ!」


 パピィが俺達の数歩先を歩く。吠えながらこっちこっちと案内してくれたのでそのとおりに進んだ。


「パピィって道がわかるの?」

「俺と口寄せしてから、天職が忍犬になったからな」

「忍犬……そんな天職があるのね。動物にも天職ってあるんだ……」


 ルンは動物に天職がつくこともあることは知らなかったようだ。もっともそう多くはない。


「パピィは天職がついたおかげで気配察知の他、周囲探知と五感強化のスキルを覚えた。だから周囲の地形も把握できるし魔物がいても気がつける。斥候としては俺より優秀かもしれない」

「ワンッ! ワンッ!」

 

 俺が褒めたことに気がついたのか、戻ってきて嬉しそうに尻尾を振った。


「偉いねぇパピィ」

「ハッハッハッハ――」

 

 目線を合わせたルンがその頭を撫でると尻尾をパタパタと振って嬉しそうにしていた。


「グルルルウゥ!」


 暫く進むと今度は伏せるような姿勢で唸り声を上げる。どうやら魔物が近づいているようだな。


「ルン。何か来るようだ」

「ま、魔物かしら!」

「多分な」

「なら、狩人の刻印!」


 ルンが自分の掌に刻印を刻んだ。


「シノも何か」

「いや、とりあえず俺はいい。相手次第でお願いするかもだが、刻印を付与するのに魔力を使うだろうしな」


 刻印術師というのは今のように様々な効果が得られる刻印を付与できる術士のことだ。魔法系の天職であり刻印によってはかなり強力な効果が期待出来る。


 恵まれた天職と言われる所以だ。自分だけではなく仲間にも付与できるのも大きい。


 さてと、警戒しているパピィから数メートルほど離れた先にある十字路、その向かって右側から魔物が姿を見せた。


 巨大な蜥蜴といった様相の魔物だな。皮膚は随分とクリーミーな色でもあるが、確かあれは。


「アケオシリスだな。顎の力が強いのと、尻尾を振り回すのが主な攻撃だ」


 俺の知識にもあった魔物だ。近づかれてからの攻撃は強力だが、遠距離攻撃は持たない。


 とは言え、距離はそこまで離れていないが。


「とりあえず近づかれる前に先制で攻撃を当てていくべきだな」

「詳しいのね。助かるわ!」


 ルンがその手に弓矢を現出させた。


「弓を持っていたのか?」

「違うわ。狩人の刻印を施せば魔力さえあれば弓が生み出せるの。元々弓を持ってる場合は手持ちの弓が強化できるし、狙いも外しにくくなったりするわ」


 そういう効果か。なるほど。


 そしてルンが魔物に向けて矢を放っていく。さて、俺も負けていられないな。


「居合忍法・抜刀鎌鼬!」


 居合で抜くと同時に鎌鼬が発生。アケオシリスの一匹を一刀両断にした。


「嘘! 凄い!」

「攻撃力には自信があるんだ」

 

 そのかわり防具がほぼ装備出来ないんだがな。


「グルルルゥウウ!」


 パピィはある程度前に出ていたからか、魔物の一匹が狙いを定めたようだ。パピィに向けて飛びかかってくるが後ろに飛び噛みつき攻撃を避けた。


 そしてカウンターで相手の首に噛みつき、持ち上げるようにして飛び上がり地面に叩きつけた。


 天地落としだな。まだレベルも低いから一撃で倒しきれなかったがフラフラになったところをルンの矢が射抜いていた。


 これでとりあえずやってきた三匹は倒したか。ダメージもないし幸先はいいかもな――

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