第33話 サムジャ、罠を勘ぐる
魔物を倒しながら先に進む。パピィは俺達より少し先を歩いていた。鼻を地面に擦り付けるようにしてスンスンっとしながら進んでいた。
「きゃ、きゃわいい……」
ルンはそんなパピィの姿にも心を奪われている。可愛いのは確かだが、この溺愛ぶり。犬が好きというのは確かなようだ。
「アンッ!」
すると道の途中でパピィが立ち止まり、顔を俺達に向けて何かを訴えている。前足が地面の一部を示しているようだった。
「そこに何かあるのか?」
「ワン!」
ふむ――俺は忍法で作成した手裏剣を投げて地面に突き刺した。左の壁から矢が飛んできて逆側の壁に当たる。
「トラップか」
「あそこを踏むと、矢にやられていたのね――」
「よくやったぞパピィ」
「偉いわパピィ」
「ワフゥ」
パピィを褒めてルンと一緒に撫でてやるとご満悦の様子だった。
さてそれから更に進むが、その度にパピィが罠を見つけてくれた。罠は落とし穴や天井から飛び得る槍。小爆発から毒ガスと随分と多彩だった。
「こんなに罠が多いなんて……私だけだったらどうなってたかわからないわ」
「パピィのおかげで助かったな」
「アン! アンッ!」
褒めると嬉しそうに俺達を中心にぐるぐると回った。尻尾も振ってごきげんだ。褒められると伸びそうなタイプだな。
「だが、ちょっと罠が多すぎな気がするな」
「Dランクだとこんなに多いものなのかな?」
ルンがパピィを撫でながら小首をかしげる。俺のダンジョンの記憶は前世や前前世のものでしか無いが、少なくともDランク規模のしかも初っ端の第一層からここまで激しいなんてことはなかった。
勿論作成するダンジョンマスターの性格もある程度出てくるが、ダンジョンマスターになった物はある程度攻略されるを想定してダンジョンを組み立てることが多い。
最初からあまり厳しい罠を設置してしまうと攻略者の数が減ってしまうというのもある。
ダンジョンマスターにとってはダンジョンの作成は一つのゲームのようなものだ。その観点で見ても少々不自然に感じられる。
「ワウ――」
ダンジョンの攻略を続ける。するとパピィの足が止まり困ったような顔を見せた。
「どうかしたのか?」
「ワン! ワンワン!」
「何て言ってるの?」
「う~ん……」
俺は苦無を投げて床に突き刺した。途端に爆発が連鎖し前方の通路が爆発で埋め尽くされた。
「な、何これ!とんでもないわね!」
「あぁ、ちょっとでも足を踏み入れたら爆発に巻き込まれるな」
「パピィが見つけてくれなかったら危なかったわね」
「クゥ~ン」
ルンがパピィの察知能力に感心するが、パピィは浮かない顔をしている。その理由は俺にはなんとなくわかった。
俺も気配察知があるから近づけばある程度怪し雰囲気が掴める。それで察するに……もう一度苦無を投げる。するとやはり爆発が生じた。
「え! また!」
「やはりだ。この罠は持続型トラップ。このままだと消えることはない」
トラップには一度で消える使い捨てトラップとその場で一旦は消えるがしばらく経った後にまた起動する復活型トラップ。そして作動しても消えることなく残る持続型トラップがある。
ダンジョンの場合は圧倒的に多いのは復活型トラップだ。一度で消える使い捨てではいずれダンジョンのトラップはなくなるからな。
一方で持続型トラップもないわけじゃないが、にしてもこんなどうみても行く手を邪魔する為だけにあるようなトラップはいまいち考えにくい。
「他のルートで言ったほうがいいのかな?」
「ワン! ワン!」
ルンが口にするが、パピィが吠えて俺達に訴えてきた。
「いや、パピィは地形も把握できる。途中で分岐もあったが、パピィがこっちを選んだということはルート的にこちらが正解とみたからだろう」
もっと広くて複雑な構造ならパピィでも仔細に把握するのは困難だろう。だが一層はそこまで分岐は多くない。
構造も簡単だろうからパピィが間違うとは思えない。つまり、このルートでないと先には進めず攻略は不可となる可能性が高い。
「つまりこの罠をなんとかしないといけないってこと? でもどうしたら……」
ルンが頭を悩ませる。無理矢理突き進むという手もなくはないが、爆発の威力は高い。サムジャは防御が弱いのが欠点だ。
土纏で防御力を上げることは可能だが、爆発し続ける通路を進むのは危険が伴うしパピィとルンが厳しいだろう。
「一応、鉄の刻印というのがあるけどこれだけの爆発で完全に耐えられるかは保証できないわね」
鉄の刻印は皮膚を鉄のように固くする刻印なようだ。元々鉄製の防具などを着ている場合は防具に刻印を施すことでより強固になる。
ただ、見たところトラップは前方に八メートルほどの範囲で展開されている。たかが八メートルと思うかも知れないが、連続する爆発の中で八メートルを駆け抜けるのは用意ではない。
ふむ、実は俺には一つ思いつくことがあった。問題はその予感があたった場合、一体誰が? ということでもあるが……とは言えこのまま引き返すわけにはいかないし、何もしないよりはいいだろう。
「ルン、俺が一先ずこの罠を抜ける」
「え? でも、そんなこと出来るの?」
「俺だけなら問題ない。予想したとおりなら、向こうに渡ればなんとかなるかも知れない」
そして俺は右の壁に足をつけ、そのまま壁走りでトラップを起動させることなく駆け抜けた。
「す、凄い! なにそれ!」
「ただの壁走りだ」
これもチャクラ操作の恩恵さ。チャクラを上手く利用すればこれぐらいは容易い。
トラップは床を踏むと起動する仕掛けだが壁にまでは設置されていなかった。ここは予想通りだな。
さてトラップの設置されていない場所で足をつける。そしてルンとパピィに向けて手を振った。
「無事くぐり抜けられてよかったけど、その先はどうするの?」
「うん、少し待ってて」
壁の辺りを注意深くチェックする。俺の予想通りなら――あった!
俺は壁の一部に手を添え強めに押した。すると壁が引っ込みカチャンっと音が鳴った。
そして再び苦無を床に投げたがもう爆発することはなかった。
「もう大丈夫だろう」
「あ、本当だ。爆発しない」
「ワン! ワン!」
そしてルンとパピィとも合流。パピィが飛び込んできて俺の顔をペロペロしてきた。
「きっとシノのことを褒めてるのよ。私も凄いと思ったわ! でも、こんなところに罠の解除装置があるなんてよくわかったわね?」
「妙だと思ったからな。もしこの罠が仕掛けられたトラップなら先に向かった連中は戻れないことになる。だったらこっち側に解除用の仕掛けがあって当然だろうってね」
「え? 仕掛けられたってダンジョンマスターが中にいるってこと?」
「そうじゃない。俺が言いたいのは先にこのダンジョンに来ていて、トラップを仕掛けた奴らがいるってことだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます