第31話 サムジャとルンが絡まれる
強闘士は戦士系ではわりとレアな方の天職だ。力も強くなる。俺の天職を小馬鹿にしていたが、天職の違いで自信があるってことか。
「なぁ、だからそんな使えねぇ弱っちいのより俺らとよ」
「ばっかじゃないの!」
「……何?」
ダンに向かって嫌悪感を顕にルンが叫んだ。
「使えない天職とか馬鹿みたい。だったら貴方、彼が戦ったところとか見たこと有るの?」
「は? いや、そんなの見たこと無いが、だが天職で大体わかるだろう?」
「だから馬鹿だって言ってるのよ。そんな天職だけで全てが決まるわけじゃないでしょう! 私はそういう風に見た目とか天職とかそういう外側だけで判断するような人が一番大嫌いなのよ!」
ルンが怒りを顕にした。それにしても、そうか。俺がサムジャでも気にしないか――
前世や前前世でもそうだが、得てして人はイメージで判断してしまいがちだ。勿論そのイメージに至るまでの経験や情報があるからこそと言えるが、とくに天職がわりと重要視される世の中ではそれが顕著に出る。
だけど、ルンはそうではないようだ。それがわかったことは大きな収穫と言えるか。
「……はは、おいおいルンあんたがそれを言うかよ?」
「な、何よ」
「いやいや、だってルンはギルド長の娘、しかも天職は刻印術師だろう?」
「何から何まで恵まれているあんたが、そんなことを言っても説得力無いぜ」
「あ、うぅ……」
連中に言われルンが口をつぐみ悔しそうに呻いた。
「別にそんなことはないだろう。ルンの境遇がなんだろうと、彼女の考えには共感出来る。大体生まれも天職も彼女が最初から望んでいたわけでもない。たまたまそうなっただけだ」
ダンたちに言われてついつい気後れしてしまったようなので、口を挟ませてもらった。この件に関してルンが後ろめたく思うことなんて何一つない。
「ワンワン!」
「パピィ? 励ましてくれてるの? ふふ、ありがとう」
ルンがパピィを撫でた。良かった、沈みかけていた気持ちが上手いこと引き上げられたようだ。こういう時愛らしいパピィは頼りになる。
「チッ、まだいたのかテメェは」
「それはいるだろう。俺はルンとパーティーを組んだのだから」
「ふん! 何がパーティーだ。どうせテメェもルンの天職とギルド長のコネ狙いなんだろう?」
「俺はルンの天職を今初めて知ったんだがな」
「ウソつけや! 自分の天職が使えないからルンに任せて評価を上げてやろうって魂胆が見え見えなんだよ!」
「嘘じゃないわよ。シノにはまだ私の天職の事を言ってなかったし」
「え? い、いやだとしてもあんたの天職は有名だ。それなら知っててもおかしくねぇよ。だからこいつもお前を利用しようとしてるってことだ」
「なぁ? さっきから俺も利用しようとしてとか言ってるが、それはつまりお前たちはルンを利用しようとしていたってことだろう?」
「「「「へ?」」」」
揃いも揃って間の抜けた顔を見せているが、語るに落ちるはこいつらのことを言うんだな。
「い、いや今のは言葉の綾で……」
「――とにかく、私は彼と組むし貴方がたとなんて一緒に行動するつもりはないわ。これ以上付きまとわないで!」
「そういうことだ。あまりしつこいと嫌われるだけだぞ」
「て、てめぇ、ふざけたこと抜かしてんじゃねぇぞ!」
ダンが腰の得物に手を掛ける。だが、すぐに仲間が止めに入った。
「なんで止める!」
「いや、流石にここで武器を抜くのはヤバいって!」
「おいおい、何だあれ?」
「喧嘩か?」
「武器を抜こうとしてないか?」
「まぁ怖い」
何気にここは通行人も多い。こんなところで得物を抜いたら流石に騒ぎになるだろう。ダンはともかく他の連中は流石にそれぐらいの判断力はあったようだな。
「くっ、こ、この!」
「アンッ!」
「あん? 何だこのクソ犬!」
――チョロロロロロォ。
怒鳴るダンだが、その足に向けてパピィが小便を掛けた。
「なぁああぁあ! こいつ俺の脚に! く、くそ! 待てこらぶっ殺してやる!」
「だから駄目ですって!」
荒ぶるダンを他所にすました顔でパピィが戻ってきた。それを見ていた通行人も笑っている。
「ふふ、ちょっといい気味」
ルンがクスクスと笑った。ふむ、本来なら褒められた行動ではないが、今回に関してはパピィもグッジョブだな。
さてと、あいつらは放っておいて、俺はルンと買い物に向かった。
「それにしてもルンは刻印術師だったんだな」
「え? うん。勿論どこかのタイミングで言うつもりだったけど、黙っててごめんね」
「別に謝ることじゃない。俺だってまだ天職については言ってなかったし」
「そういえば、サムジャという天職はちょっとびっくりだったかも。私も本で天職の知識はあるつもりだったけど、聞いたこと無いから」
「確かに珍しいというか初めて知ったという人も多い天職だ。もっともサムライとニンジャの複合職ということで軽んじられることも多いのだけど」
「それっておかしいわよ。大体貴方一人でEランクに昇格したんでしょう?」
「まぁそうだな」
「つまりそれだけの実力があったってこと。天職がどうとか関係ないのよ。例えどんな天職でも最終的には本人の頑張り次第だと私は思うの」
その考えには共感できる。同時にこの子とパーティーを組めてよかったなとも思う。まぁ、実際は護衛という名目つきなんだが。
「さ、それよりも早く道具を揃えてダンジョンに向かいましょう。できれば今日中に向かっておきたいし」
「あぁ」
「ワン!」
「はう、可愛い――」
早くと言った割に途中で足を止めてパピィをモフりだしてしまった。パピィも嬉しそうだし別にいいけど――
◇◆◇
「くそ、あいつ、俺らがあの女を利用して折角顔を売ろうと思ったのに邪魔しやがって!」
そう怒りを顕にするのは先程パピィに小便を引っ掛けられたダンであった。ルンのこともあってそうとう頭に来ているようである。
「でもどうするんだダン? 結局あいつと一緒にダンジョンに行くみたいだぞ」
「諦めるか?」
「馬鹿言うな! こうなったら……おい、あいつらの行くダンジョンがどこにあるかはわかってるよな?」
「あぁ。Dランク認定されたダンジョンだ。こっから東に向かったピーチマウンテンの麓に出来たもんだな」
「よし、だったら先回りするぞ!」
「おい、俺達で攻略するってことか? 既にルンに優先権が発生しているから勝手に探索するのは不味いぞ?」
「そんなのはわかってる。だから奴らに恥をかかせる為に攻略を失敗させるんだよ」
「失敗だって?」
「そうだ。おい、お前の天職は罠師だ。ダンジョンでも罠は張れるな?」
「そりゃ可能だが……そんな真似、バレたら流石にただじゃ済まないぞ?」
「は、ダンジョンなんてそもそも罠があるもんだ。増えたからってバレるかよ。ならいくぞ。あの連中を嵌めて目にもの見せてやる!」
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