第18話 サムジャ、アンポンタンを助ける

「ふぅ、こんなものかな」


 セレナ草が大分採れた。もっとも忍法を駆使しての採取だから口ではこういったがそこまでの疲れはない。普通は薬草採取は屈んでやる必要があり結構疲れるんだろうけどな。


 もっとも居合は腰を落とした構えから発動するスキルだ。この体勢の維持もなれないとつらかったりする。俺は問題ないけどな。


 さて、ギルドに戻ってもいいが、まだ時間は早そうだ。折角だからこの辺りで魔物も何体か狩っておくかな。


 魔物を狩って得られる素材も冒険者にとって大事な収入源だ。だから意識を周囲に向けた。気配察知は普段から発動しているが、その範囲を更に広げてより遠くの情報を掴む。


 うん? 何か妙な気配があるな。この森にふさわしくない相手だ。明らかに一匹、格の違うのがいる。しかも好戦的なようだ。


 強い気配を持つものが一匹。そのすぐ近くに小さな気配。更にちょっと離れた場所に気配が三つ。これは人だ。しかも最近感じた気配を持つ三人――脳裏にファイト団の三人が浮かぶ。


 どうやら大きな気配の相手に狙われているようだな。


 ふむ、色々と言われはしたが同じ冒険者だ。放ってはおけないだろう。


「居合忍法・影走り――」

 

 居合省略で術を発動。これにより俺の動きが軽くなり木々の間を縫うようにして気配のある場所に向かった。


 まもなくして開けた場所に出た。そこにいたのは円筒状の柱のような頭が特徴的な魔物と今まさにその手に掛けられようとしているタンの姿だった。


 マズイな、俺はチャクラ操作で脚にバネを仕込むようなイメージを持つ。そして地面を蹴りチャクラを利用して一気に加速! 振り下ろされた斧がタンの頭を捉える直前にその肩を掴んで引っ張った。


「え? うわ、うわわわわわッ!」


 タンの慌てる声が耳に届く。多少強引になってしまったが命が危なかったのだから勘弁して欲しいところだ。


 振り下ろされた一撃で地面に一筋の溝が出来た。大した怪力だな。


「危なかったな。怪我はないか?」

「え? え? う、嘘だろ! あんた――サムジャの冒険者!?」


 俺が確認すると、タンが随分と驚いていた。これだけ大声が出せるなら問題ないな。


「タン、良かった無事だったんだ」

「本当に馬鹿! ちょっとは考えて行動しなさいよ!」


 そしてポンとアンが駆け寄ってくる。アンの言葉はキツイが本気でタンを心配しているようだった。


「でも、え~と」

「俺はシノだ」


 そういえばこっちから名乗っていなかったことを思い出す。


「シノ、あ、ありがとう! まさか貴方に助けて貰えるなんて思ってなかったけど……」

 

 アンは少し戸惑った表情で俺をみていた。まぁ天災職と呼ばれる二つの組み合わさった天職だからな。まともに戦えるとは思っていなかったのだろう。


「でも、あれは何なんだよ。俺たちガンズモンキーを狩りに来ただけなのに!」


 タンが憤る。ふむ、あの魔物を知らないようだな。


「あれはゾイレコップという魔物だ。ガンズモンキーを飼うことがある魔物で、獲物をおびき寄せる際にガンズモンキーを使う」


 俺が答えると三人が目を丸くさせ。


「良くそんな魔物のこと知ってるなあんた……」

「で、でもこれ一大事よ! 早くギルドに戻って報告」

「お前ら急いで耳をふさげ!」


 その時、ガンズモンキーが口を開けるのが見えた。ガンズモンキーの喚声は本来はちょっと耳障りな程度の鳴き声を上げるスキルだ。


 だがゾイレコップが一緒の時に至ってはその様相は大きく異る。


『キキキキキキキィエエエエエエェエエェエエェエエエエエエ!』


 ガンズモンキーが叫んだ。その鳴き声がゾイレコップの頭に共鳴し増幅されて広がった。森の昆虫がぼとぼとと落ちてきた。飛んでいた鳥も地面に落下し息絶える。音の衝撃で木々が揺れ細い樹木はバタバタと倒されていった。

 

「ひ、ひいぃいぃ! ひぃいいい!」

「な、何よこれぇ!」

「あ、頭が痛いぃい!」

「耐えろ! 歯を食いしばれ!」


 俺はチャクラ操作で耳を覆えるから問題ないが、三人はそうもいかないだろう。とは言え耳をしっかり塞いでおけば体力はかなり持っていかれるだろうが何とか耐えられるだろう。


「ウキャッ!?」

 

 鳴き声がやんだところで俺の苦無がガンズモンキーの眉間を貫いた。全くゾイレコップと一緒にいるだけでこんなにも厄介になるんだからな。


 さっさと倒しておくに限る。


「あ、俺達の獲物が……」

「おバカ! そんなことを言ってる場合じゃないでしょう!」

「そうだ、ここは早く逃げ出さないと!」


 三人が慌ててタンと逃げ出そうとする。それが懸命な判断だ。


「グォオォオォオォォオオォオ!」

「な、何か興奮してるし!」

「ヤバいって早く!」

「お、おう」

「そうだな確かにお前たちは逃げたほうがいい」

「お前たちはってお前はどうするんだよ?」

「俺は残る」

「え? ちょ、何言ってるの! 貴方だってランクは低いんでしょ?」

「Fランクだ。冒険者としてもまだ活動を始めたばかりだな」

「そんなの無茶だ。助けてくれたのは嬉しいけど、冒険者ならただちにギルドに戻って異常事態を報告した方がいいよ」

 

 最後にポンがそう言って一緒に逃げるよう促してくる。確かに本来ならそれが正しいだろう。だが、こいつは既に俺たちを獲物と認識している。おまけに相棒のガンズモンキーを俺が倒したことで興奮状態だ。このまま全員で逃げたら森で暴れて手がつけられなくなる。


「誰か一人が残る必要がある。そうでないとあれからは逃げられないだろう」


 実際は逃げる手はあるが、こうでも言わないと納得してくれないからな。


「つまり、お前が囮になるってことか?」

「そうだ。だからお前たちは急いでギルドに戻ってくれ」


 そんなやり取りをシていると、ゾイレコップの顔がこっちに向いた。マズイな。


「頼んだぞ!」

「あ、ちょ!」


 跳躍しゾイレコップの間合いに敢えて入り込んだ。ガンズモンキーを倒したのは俺だ。ならば俺が動けばゾイレコップも俺を狙う。


「グォオオオォオオオオオ!」

「キャッ! 嘘! あいつが!」

「だから言わんこっちゃない!」


 ゾイレコップの振るった斧が俺の身を切り株にした。それを見た三人が驚きの声を上げる。


 しかし、それはまさに切り株のように切断された丸太に変化した。


「変わり身の術だ。居合忍法・影鎖!」

 

 鞘から伸びるように発生した影の鎖がゾイレコップを縛り付ける。


「す、すげぇ何だよあれ……」

「魔法なの?」

「いや、ニンジャの忍法だと思う。けど、普通は印が必要なはずなんだけど」


 三人の声が耳に届いた。俺の忍法に印はいらない。おまけに居合省略のおかげで更に発動が早まった。もっとも抜刀した方が威力が高いものもあるが。


「これでわかっただろう 足止めは俺で出来る。だから早く!」


 俺が再度三人に戻るよう促すと、流石にわかってくれたのかコクリと頷いて去っていった。


「兄貴! この恩は忘れないぜ!」

「必ず応援を呼んでくるから!」

「ば、馬鹿にして悪かったよ!」


 思い思いの言葉を残して立ち去る。さて、あとはこいつだが。


「グォオオォオオォオオオォオ!」


 ふむ、鎖が切られたか。やはりこれぐらいの巨体となるとそう長くは持たないか。


「さてと、時間稼ぎとは言ったが、倒せるものなら倒しておきたいところだ。それでは征くぞ!」

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