第19話 サムジャVSゾイレコップ

 ゾイレコップが斧を振るう。巨大で鋭利な刃がついた斧だ。まともに喰らえばただではすまないだろうが。


「ンゴッ?」

「こっちだ間抜け」


 俺の声にゾイレコップが反応し振り向いた。俺は奴が振った斧の上に乗っていた。ゾイレコップの武器の扱い方はお世辞にも優れてるとは言えない。振りも大ぶりで当たれば無事では済まないが当たらなければ意味がない。


「居合忍法・抜刀落雷燕返し!」


 忍法を刃に乗せて二度繰り返す。発生した雷が柱頭に二回落ちた。


「グゴォオオオ!」


 ゾイレコップが悲鳴を上げ斧を振り上げたので飛び退いて地面に着地。どうやらしっかり攻撃は効いてるようだ。


「ゴォ! ゴォ!」


 地団駄を踏み出したぞ。攻撃が効いたのが悔しいのか。


「ゴオォォオォォオオ!」


 そして今度は柱頭を大きく振り上げた。これは、ちょっとマズいな。


「ゴォ!」


 ゾイレコップが垂直になるように頭を地面に叩きつけた。意外と体の柔らかい奴だ。そして地面が跳ね俺の体が弾かれたように上空に舞った。


 そして更に大きく頭を振り上げ、俺めがけて長大な頭が振り下ろされる。


 俺のレベルが1のままだったらヤバかったかもな。だけど、レベルは上がっている。チャクラ操作で脚にチャクラを纏わせ空中を蹴って迫る頭突きから逃れた。


 地面に柱頭が叩きつけられ地響きが起き、衝撃で俺の体も流されそうになる。地面に大きな窪みが出来上がった。雨が降ったらちょっとした湖になりそうな窪みだ。

 

 頭突きの余波で周囲の大木さえもなぎ倒してしまっている。大した威力だ。


 だが、直後ゾイレコップがキョロキョロと辺りを探し始めた。ゾイレコップの最大の攻撃は頭突き。だがその柱のような頭が災いし頭突きをした直後相手を見失ってしまうのがあいつの弱点だ。


「居合忍法・影分身!」


 忍法で自分の分身を生み出す。今の俺で本体の分身は三体まで出せる。当然今後レベルがあがれば更にチャクラ量も増え更に大量に生み出せることになるだろうが本体の分身を生むのに消費するチャクラは多い。数が増えれば増えるほど消費量は増すし分身が忍法を使った時のチャクラは本体持ちだ。


 だから使うならここぞという時に限る。


「いくぞ!」

「「「「おうっ!」」」」


 生み出した三体の分身とゾイレコップを囲んだ。ゾイレコップが?顔で首を左右にふる。


 分身が現れたことで明らかに動揺している。頭が最大の武器な魔物だが、おつむは決して良くない。


 戸惑って動きが止まった今がチャンスだ。ここで決める気でやる!


「「「「居合忍法・抜刀落雷燕返し!」」」」


 燕返し分も含めて合計八本の落雷がゾイレコップの頭に直撃した。さっきのでわかったがこいつに雷は良く効く。


 あの天を貫くような柱がネックになっているのだろう。高い木には雷がよく落ちるがそれと似たようなものだ。


 弱点がわかればそこを攻めるのは鉄則だ。俺たちはダメ押しで更に何回か落雷を放ち続けた。


「グ、ゴォ――」


 するとゾイレコップの膝が折れ、地面に前のめりに倒れていった。ズシィイイィイン、と随分派手な音が耳に響く。


 ふぅ、動く様子もないな。一応影分身の一体に確認させたが完全に事切れていた。


 分身は消しておく。分身を維持するのにもチャクラが必要だからな。しかし影分身四体と居合忍法の組み合わせは消費が激しい。


 サムジャはサムライの特性も備わっていたから何とかなったようなものだ。チャクラは体力と直結しているからだ。


 さて、倒した以上すみやかに報告しないといけない。ゾイレコップで役立つ素材はまさにこの柱のような頭だ。


 この部分が非常に硬いというのもあるが共鳴しやすいというのもあって楽器の素材としても役立っている。


 それ以外の部分は特に使えるものはない。ゾイレコップは死ぬと肉体が石のように変化する。かなり重いんだよなこれ。影風呂敷はレベルが上ったことでしまえる容量は増えているが、それでも八千キロ入る程度だ。これは全身だと間違いなくそれ以上あるし時間が経つと石みたいになって更に重くなる。

 

 頭の部分だけは持っていけるしこれを見せれば討伐した証にはなるだろう。あとはガンズモンキーか。


 こいつはこの大きな目玉が素材として取り引きされている。素材はそのまま討伐証明にもなるから持っていくが、元々この依頼を受けたのはあの三人だったからちょっと申し訳なくも思うな。


 まぁでも倒したのは俺だしな。気にしても仕方ないだろう。


 さて、それじゃあ急いで戻るとするか。木の枝を利用して飛び移り森の外を目指す。


「うん?」

 

 ふと目端にあの三人の姿が映った気がした。ふむ、だがそんなわけないか。三人はとっくにあの場を離れている。流石にまだ森の中をウロウロしているわけがないだろう。


 さて、森を出た後は影走りで街を目指すことにする。





 街に戻り、冒険者ギルドに顔を出すとギルドの職員が慌ただしそうにしていた。


 何かあったんだろうか? 


「シエロ、随分と慌ただしそうだな」

「あ、シノくん! そうなのよ。ちょっと厄介な案件がね。もしかして依頼達成の報告?」

「あぁ、それもあるのだが、他にもちょっとした魔物を退治してな。その報告も兼ねて来たんだが大丈夫か?」

「勿論よ。それとこれとは別だもの」

「すまないな。しかし、一体何が起きたんだ?」

「それが、恥ずかしい話なんだけどギルドが見落としたミスがあって本来あってはならないのだけど相当な大物が絡む依頼を低ランク任務として受け付けちゃったの」


 それは、確かに大変だな。逆ならともかく高ランクの魔物に低ランクで挑むのは命のリスクが高い。


「だからこっちも至急動ける冒険者を探していて……あ、そうだシノくんなら申し分ないわ! ランクの問題はあるけど腕は確かだもの」


 縋るような目でシエロが訴えてきた。美人受付嬢にこういう顔をされると弱い。


「わかった。考えおくよ。だけど、その前に狩ってきた魔物をみてもらってもいいかな?」

「勿論よ。ならここに置いてみて」

「いいのか?」

「え? 勿論よ?」

「そうかわかった」

 

 そして俺は影風呂敷からゾイレコップの頭を取り出し床においた。ズシンっと重苦しい音が響き渡る。頭だけとは言えかなり重いからな。


「みてもらいたいのはこのゾイレコップの頭なんだが、ん?」

 

 俺が説明するためにシエロに視線を向けると、唖然とした顔の彼女がいた。何だ? 一体どうしたんだ?


「て、いやいや! どうしてそれがここにあるのよーー!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る