第9話 サムジャ、置き去りにされる
さて、結局あの連中に置き去りにされたわけだが、このままどうすればいいんだ? ただ閉じ込められただけか?
……いや、そんな筈はないか。段々と異様な気配が高まっていくのを感じる。そして部屋の一部に魔法陣が浮かび黒い光を迸せながら何かが出現した。
「グガァ、アギィ、ガ、ァ――」
「また面妖な相手だな」
出現したのは三メートルは優にある巨体を誇る化物だった。魔法陣が光り続けているから明かりは問題ない。
膨張したような暗紫色の筋肉、ボロボロのズボンに上半身は裸。顔は包帯でグルグル巻きにされていて、ギョロギョロした右眼だけが包帯の間から外に飛び出していた。
右手には血塗れの斧が握られている。両刃で巨大な戦斧だ。
「アァ、ア”ア”ァ"エ、モノ、ゴロゴロゴロゴロズゥウゥウウゥウウ!」
あぁ、こりゃとても話し合いで解決出来るタイプには見えないな。殺る気満々そうだし。
仕方ない。やるか――とは言え相手の力もわからないからこっちも気を引き締めないとな。
「グガァアアァアアアア!」
目の前の相手が斧を振り下ろしてきた。俺との距離は離れていたが、地面を削りながら衝撃波が飛んでくる。
横に飛んで避けるが大男が一直線に向かってきた。体格の割に動きは早いな。
「ウガァ!」
半身を逸らして切り落としから逃れる。地面が凹み風圧で体が持ってかれそうになる。相当な怪力だ。流石にこれをまともに受けたらシャレにならない。
ただでさえサムライは紙装甲と言われているぐらいだ。
「居合忍法・影分身――」
忍法を行使した。刀を抜くと俺の分身が姿を見せる。実体のある分身だ。一撃でも攻撃を受けると消えてしまうが、実体だから攻撃に役立つ。
二手に分かれ、別々に大男を攻める。
「居合忍法・抜刀鎌鼬――」
「居合忍法・抜刀烈火弾――」
俺と分身との挟撃。抜刀と同時に放たれた風の刃と火球が巨体に命中した。
「グォオオォオォオオオ!」
怒りは買ったようだがかなりタフだな。そこまでのダメージに繋がっていない。
「ならこれだ! 居合忍法・影走り――」
この術は移動速度を上げる。シュタタッと近づき。
「居合忍法・抜刀影縫い!」
相手の影を居合で切った。大男の動きが止まる。よしこの術は相手の影を縫い付けて動きを止める。もっとも長時間拘束できるものでもないが――しかし俺の分身が迫り。
「抜刀燕返し――」
「ウガアァアアァアアア!」
悲鳴が上がる。だが、まだ倒れないか。しかも今度は派手に暴れだした。影縫からもう逃れたか。
目標も定めてないようなめちゃくちゃな攻撃だが、それだけに読みにくい。分身は避けきれず消えてしまった。俺にも当たるが丸太を残して離れた場所に着地する。
変わり身の術だ。さて、いまいち火力が足りてないな。遠目からチクチク攻撃するか? しかしこの狭い空間だ。それにチャクラを練るには体力がいる。サムライの体力があるとはいえ、あの化物と持久戦というのもな。
――影分身か。これは別に対象は自分でなくてもいい。やろうと思えば手裏剣だって影分身で増やせる。だが、手裏剣や苦無を連射しても限界がある。
いや、待てよ、それなら――俺は再びダッシュして相手に近づいた。斧が振られ衝撃波が飛んでくる。
「居合忍法・抜刀土返し」
捲れ上がった土が盾になり衝撃波を防ぐ。跳躍し俺は大男に近づいた。
「居合忍法・抜刀影分身!」
これが俺の考えた手だ。分身は質量でチャクラの消費が変わる。だから俺本体の分身はそんなには作れない。
だが、抜刀した斬撃ならそこまでじゃない。これなら一度に斬撃を十二ぐらいまで増やせるはずだ。
「ウグゥウウウウウオオオオォオオオオォオ!」
よし、これまでと明らかに反応が違う。たたらも踏んだな。もう少しだ。
「居合忍法・抜刀影分身燕返し」
俺は更に別な形で忍法を行使。影分身で増やした十二の斬撃に燕返しを加えたことで斬撃が倍の二十四に増えた。
「グォオォオォォオオオオオオ!」
大きく悲鳴を上げて動きも止まった。だがまだか、なら――
「居合忍法・影分身」
俺はもう一度分身を作り、再度大男に迫る。
「抜刀影分身で斬撃が十二、それに燕返しで斬撃が二十四、更に影分身を加えて倍の四十八斬撃だーーーーーーーー!」
俺と分身が同時に【居合忍法・抜刀影分身燕返し】を放ち、凄まじい斬撃の雨が大男に降り注いだ。
「グ、ガ、ァ、ガァ――」
そして遂に大男が膝を付き前のめりに倒れていった。ズシィイインという重苦しい音を奏でた後、地面に俯せになって倒れた大男が光の粒子になって消えていった。
するとドクンッ胸が高まる。これはレベルが上ったようだな。この感覚はレベルが上った時に得られるものだ。
そして相手が消えたのは中ボスやボスに見られる現象だな。ということはここはこのダンジョンにとって大事なポイントだったということか。
中ボスを倒した後には斧だけが残った。いわゆる戦利品って奴だ。
ふむ、中ボスが使っていた時はとても持ち運べないぐらいに大きかったが、常識の範囲内の大きさになっている。これなら持っていくことは出来そうだ。
ただ、何だろう? 直接触れるには躊躇われる。
「居合忍法・抜刀影風呂敷」
俺は斧を影風呂敷でしまった。これで触れなくて済んだな。そして中ボスを倒したことで閉じていた入り口も開き、あいつらが進んでいった壁も開いた。
◇◆◇
一方、シノを置き去りにした蒼の流星はケタケタと笑いながらダンジョンの奥へ奥へと進んでいた。
「上手くいったねカイル」
「でも、こんな情報よく知っていたわね」
「ちょっとした筋からねーでもサムジャなんて使えないかと思ったら意外とやるようだったねー」
「もったいなかった?」
「まさかー逆にあんなのがいたら僕たちの活躍の場が奪われかねないからねー他の連中みたいに心を折るか死んでもらった方が助かるよー」
「よっ! 流石新人殺し!」
ヤンがカイルを褒める。彼らは以前からこんな真似を平気でやっていた。有望な新人が育つとそれだけ稼げる仕事が減ることになる。
それがカイルとこの三人の考えだった。その精神はかなり歪んでいると言えるだろう。
「でも、こんな隠し通路の先、危険はないの?」
「問題ないさーいざという時のために帰還の玉も持ってきているしねー」
帰還の玉は使用することで予め登録されていた町に戻ることが出来る魔導具だ。便利な道具だが値段はそれなりに張る。だから出来ればこれは使いたくないのが本音でもあるが。
「と言ってもここは出てくる魔物も大したことなかったしねーいくら隠されていたと言ってもたかが知れてるさー」
「あ、奥に何か見えるよ!」
「お宝が眠ってたらいいんだけどなぁ」
そんなことをわいわい話しながらカイル達は奥にたどり着くが――
「ひ、ヒィ! な、なんでこんなのが!」
「カイル、早く、早く帰還の玉ぁ!」
「わ、わかってるさーー!」
それは大凡この場にはそぐわない相手だった。カイル達が勝てるような存在ではなかった。
瞬時に死を悟った。だから帰還の玉を使用した――だが。
「そ、そんな帰れない……まさか魔導具が使えない仕掛けが――」
「そ、そんな!」
「う、嘘でしょいやぁあああぁあああ!」
こうして三人の悲痛な絶叫がダンジョン内に響き渡ることとなった――
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