第10話 サムジャ、三人と再会?

「やっぱり妙だな……」


 俺はあの化物を倒した後、開いた壁を調べてみることにした。だが、やはりおかしい――


 そうこうしている内にまた壁が閉じ始めたので中に入る。それにしてもこれ、あの三人は何故わかったんだ?


 今調べて見た限り、特にヒントのようなものは見当たらなかった。ダンジョンマスターというものは承認欲求が強いので、この手の条件が伴う隠し通路だとヒントが用意されていることが多い。


 だがそれはなかった。ただの隠し通路ならシーフの天職持ちなどでも見つけることは可能だから情報がなくても問題ないが、これは生贄が必要という条件があったようだからな。


 恐らく生贄を部屋に置いたまま、壁の前でキーワードを発することで発動する仕掛けなのだろう。


 さっきの様子を思い出すに生贄をのフレーズがそうだったと思われる。奴らは生贄の間とも言っていたしな。


 そうなると、奴らはどこかからその情報を手に入れていたということか。あの三人だけで見つけられるとは思えない。


 だが、一体どこの誰がこんな情報を? そもそも情報は宝だ。自分の得になるような情報ならそう易々と教えたりしないだろう。


 色々と気になることもあるがここまで来たからには先を見てみたい。素直に戻るという手もあったかもだが、やはりこの手の隠された部屋というのには惹かれるものだしな。


 それにあの三人に騙されたままというの癪に障る。


 さて、そういえばレベルが上ってたんだったな。俺はステータスを確認してみることにする。


ステータス

名前:シノ・ビローニン

レベル:2

天職:サムジャ

スキル

早熟晩成、刀縛り、居合、居合忍法、居合省略、抜刀燕返し、活力強化、抜刀追忍、忍体術、暗視、薬学の知識、手裏剣強化、チャクラ強化、チャクラ操作、苦無強化、気配遮断、気配察知、土錬金の術、土返しの術、土纏の術、鎌鼬の術、草刈の術、旋風の術、火吹の術、烈火弾の術、浄水の術、水霧の術、影分身の術、影走りの術、爆撃の術、影縫いの術、影風呂敷の術、影鎖の術、変わり身の術



 ふむ、色々とスキルが増えたようだ。しかし中々の相手だったのは確かだがそれにしてもレベルが上がるのが早い。通常はもう少しレベルが上がるのは遅いものだ。


 ただこれはニンジャなら納得できた。ニンジャは早熟というスキルがあって最初のうちはレベルが上がるのが早かったからだ。一方でサムライには大器晩成というスキルがあり最初はレベルが上がるのが遅くあとになるほど成長速度が早くなる。


 サムジャになったことで得た早熟晩成はその二つが合わさったものだ。つまり単純に成長が早い上それがずっと続く。


 何とも都合が良すぎる気もするが、前前世と前世では苦労も多かったからな。その見返りということで納得しておこう。


 さて新しく覚えたスキルとしては居合省略がかなり役立つ。これは居合忍法を使う際、わざわざ刀を全て抜かなくても発動できるようになるというものだ。


 そしてもう一つの抜刀追忍、これは居合忍法を完全に行使した場合に抜刀分のダメージが忍法に追加されるというものだ。


 斬撃のダメージが加わると見ても良い。これは勿論居合省略と併用できない。攻撃系の忍法の場合は省略しないほうがダメージは大きくなりそうだな。


 あとはチャクラ操作か。これも使いこなせば強い。ちょっと試してみるか。俺はその場でジャンプし天井付近で逆立ちになった。足は天井にひっついている。そのまま歩いてみるが問題ない。地面を上にして歩けている。


 チャクラ操作はこのようにチャクラを操り壁にひっついたり出来るようになる。水の上もこれで歩けるし便利な技だ。


 後は土纏、爆撃、旋風といった忍法か。それぞれ敵と戦う時にでも試してみるとしよう。

 

 さてここから先は一本道のようだな。魔法の明かりは消えたが、サムジャはスキルに暗視があるから暗闇に強い。横穴を突き進むと先が広がっていた。ちょっとした空間に出るとそこにあの三人の姿があった。


「おい、一体これは――」

「アァ、ガ、ア"ァ"」

「ギィ、ガ、ギィ」

「ヴァ、グゥウウゥヴッヴヴヴ」


 文句の一つでも言おうかと思ったが、すぐにさっきまでと様子が違うことに気がついた。


 気配察知の効果もあってこの連中には既に生気がないことも見て取れる。目の焦点もあっていないし、ところどころ肉が抉れ骨が見えてしまっている。


 あのファイって女は首がやたらブランブランしてるしな。骨が折れてるんだろう。当然普通ならそれで動き回れるわけがない。


 アンデッド化だ。この三人は既に死亡しアンデッドになってしまったようだ。


 しかし、あの中ボスと戦っていた時間があったとはいえ、まだそこまで経っていないだろう。吸収されずアンデッド化されるようなダンジョンであればそれなりにアンデッド化も早いが、だとしても早すぎる。


 それにその場合ここで死んだ他の冒険者もアンデッド化してなければおかしい。それがないってことはこの先で何かあったと見るべきか。


「ヴヴガァアァアアァアア!」


 こっちに気がついて襲ってきたな。既に理性はない。生者に対しては敵対心と食欲しかわかなくなったような連中だ。


「ヴガァ"!」

 

 アンデッド化したカイルが剣を振ってきた。一発切り更に続けてもう一発。動きも切り返しも速い。


 剣士のスキル二段斬りか。アンデッド化した場合でも行動によってタイプがわかれる。ただ闇雲に襲うことしか出来ないタイプと、本能的にスキルや魔法の発動が出来るタイプ。そして意識が残っているタイプ。


 当然より知能が働くタイプの方が厄介になる。この連中は知識はないが本能でスキルや魔法は使えるタイプと見るべきだろう。


 矢が迫る。ヤンが射ったのだろう。外れたが地面が大きく抉れる。向こうはアーチャーのスキル、パワーショットか。


「ヴグヴ!」


 杖を振るファイ。火の礫が飛んできた。ファイヤーボルトだろうな。しかし首も座ってないのに器用に狙ってくるものだ。


 こうなったら仕方ないか。思うところが全くないわけでもない。騙されたとは言え少しの間でも一緒にパーティーを組んだ仲だ。俺にとっては今世で初めて出来た冒険者仲間と言えただろう。


 ま、裏切られたからノーカンだがな。アンデッド化した以上、ここでしっかり葬ってやるのも情けというものだろう。


「ウァア」


 ファイが杖を振る。かと思えば俺のいた場所が燃え上がった。


「ヴァ!」

「残念。上だよ」

「ヴァヴ?」


 俺のいた場所には丸太が転がっていた。変わり身の術だ。


「居合忍法・抜刀影分身――」


 ファイに十二の斬撃が降り注ぎばらばらになって地面を転がった。それでもまだ動いている。


 アンデッドは死なないのが基本だ。完全に倒すには僧侶や神官の扱う聖魔法か燃やすしかない。


 だが動きを止めるだけならこうやって五体をバラしてしまえばいい。


「グガァ!」

「居合忍法・抜刀燕返し鎌鼬!」


 ヤンが弓で狙ってきたので居合忍法で先手を打った。燕返しを絡めることで鎌鼬が二発飛んでいき、ヤンが三等分になり地面に落ちた。ふむ、威力が高まっているのは抜刀追忍の効果だろう。


「ア"ァ"ア"ア"ァ"ア"ァ"ア"ア"ァ"!」


 最後はカイルか。踏み込んで水平に剣を振る。間合いが本来のリーチより長い。これはワイドスラッシュだな。


 扇状に斬撃が広がる剣士のスキルだ。だがいち早く俺は空中に逃げていた。見るとカイルは身構え、俺が落下してくるタイミングを見計らっている。


 本能的にとは言え中々考えている。が、甘い。


 俺は空中を蹴ってカイルの背後に回った。チャクラ操作の恩恵だ。このスキルを上手く利用すれば空中を蹴って移動することが出来る。


 虚を突かれたカイルは俺の動きに目が追いついていない。後は――


「居合忍法・抜刀爆撃!」


 一閃――刀を振り抜くと激しい爆発が生じた。攻撃を当てると同時に爆発が発生するのが忍法・爆撃の術だ。


 カイルの五体がバラバラになり砕け散る。肉片も燃えているしこれでこいつは片付いた。


 さて、後は残った二人のバラけた肉体を一箇所に纏めて始末をつけるか。と、その前にギルドカードだけは回収しておいてと。


「居合忍法・抜刀火吹――」


 残った肉体が炎に包まれた。これでもう動くことはないだろう。精々成仏してくれよ。


 さてと、後はこの奥に何がいるかってところだがな――

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