第8話 サムジャ、騙される
宿はそのあと割とすぐに見つかった。一泊四千ゴッズで共用のではあるがお風呂があり食事もつく。
その日はしっかり食事を摂り風呂で体を洗い疲れをとってベッドで眠りについた。
明朝、約束の待ち合わせ場所に向かう。予め必要なものは土錬金で作成しておいた。
待ち合わせ時刻はギルドが開く時間の一時間前に集合だった。時刻は教会の時計や鐘の音で確認出来る。
そして場所は街の中心にある広場の噴水前だ。
ちなみに本来なら迷宮探索は勝手には出来ない。ギルドで依頼を受ける形で届け出る必要がある。だけどそれはカイルがやっておいてくれるって話だったからな。
「やぁー約束通り来てくれて嬉しいよー」
広場には既にあの三人が待っていてくれた。カイルも人の良さそうな笑顔で俺を迎えてくれる。
「今日はよろしく頼む」
「こちらこそさーそうだ改めて自己紹介しておくねー僕はカイル。天職は剣士さー」
剣士か。剣を得意とした天職だな。カイルは金髪碧眼で好青年といった印象だ。
「私はヤンさ。天職はアーチャー」
弓を持っているだけあってそれに関係した天職なようだな。ボーイッシュな女性である。
「私はファイ。魔法使いよ」
杖持ちでローブ姿の彼女は見た目通り魔法使いか。ふむ、剣士のカイルが前に出て残り二人が後衛で援護といったところかな?
「ありがとう。俺はもう知ってると思うが名前はシノで天職はサムジャだ」
俺も改めて自分のことを伝える。お互いの名前と天職を知るのはパーティーを組んでの行動では大事なことだ。特に迷宮攻略ではそれぞれの特性を十全に活用しなければいけない。
チームワークが大前提になる以上、名前だってしっかり覚えておく必要がある。
「ちなみに僕たちは蒼の流星というパーティー名でやってるんだよー」
パーティーはその時々で一時的に組む場合もあればギルドに登録して固定のメンバーで長く続けることもある。ギルドにパーティーとして登録する場合はパーティー名をつけることになる。
「いいパーティー名だな」
「はは、ありがとうねー」
「ところで向かうダンジョンはどこに?」
「うん。ここから北東にあるアズチ山にあるダンジョンだねー」
なるほど。どうやら馬車で一時間程度かかるようで馬車の手配は済んでるとのことだった。
町の出入り口近くに確かに馬車が停まり待っていてくれた。今の俺なら馬車よりも速く動けるが、パーティーで動くのだから足並みは揃えないとな。
そして馬車に揺られて俺たちはアズチ山についた。馬車から降りて徒歩でダンジョンへ向かう。
「ついたよーここがそうさー」
ダンジョンは切り立った崖にぽっかりと口を開く形で存在していた。洞窟タイプのダンジョンはわりとポピュラーなタイプだが、中には城そのものがダンジョンだったり塔の形をしているものもある。
「中は暗いな」
「大丈夫。魔法で照らしていくから――トーチ」
そう言ってファイが魔法を行使。杖の先端に炎が灯る。魔法の火が松明代わりになるわけだ。
「さぁーいこうかー」
「お宝が眠っているといいけどなぁ」
確かに。ダンジョンにはお宝が眠っているものだ。ダンジョンマスターは罠や魔物も配置するが同時に宝も設置する。何でそんなことを? と思われがちだがダンジョンマスターになると本能的にそうしたくなるという話もあるし、折角出来たダンジョンに獲物を引き込むための餌という話もある。
「罠には気をつけて進まないとねー」
「なら俺に任せてくれ」
「罠がわかるの?」
「ニンジャの能力もあるからな」
気配察知は罠の位置もわかる。シーフなどと違って解除までは出来ないが場所さえわかれば回避は可能だ。
「でも黒装束着てないじゃん。それだとニンジャは力を発揮できない筈だよ」
「そうそう、何も強がらなくてもいいよ。刀があるからサムライの力は発揮できるんだろうけどね」
「いや、本当だぞ。例えばそこだ」
俺は道に転がっている石を拾って投げつける。地面にあたると地面が砕けて穴がぽっかりと空いた。
「あれを踏んでいたら下に落ちるところだな。それとその壁に近づくと何かが発動する。危ないから気をつけることだ」
「……た、ただの偶然かもしれないじゃん」
そういってヤンが壁に向けて矢を放った。すると壁から槍が飛び出る。しかしここ、結構危ないダンジョンだな。
これだけ殺す気満々なダンジョンだと結構死んでしまった冒険者も多いかもな。ダンジョンでは死ぬとダンジョンの養分にされるから腐敗が早い。逆に言えば死体が残らない。
もっとも中にはダンジョンの意思でアンデッド化して利用される場合もあるようだが。
「へ、へー君凄いだんねーサムジャだって周りが馬鹿にしているからちょっと心配ではあっただけどねー」
心配されていたのか。確かにサムライとニンジャの複合職だからな。俺も最初はどうなるかなと思ったが結果的に理想に近い天職だった。
「罠が多そうだから俺が先頭を歩こう。いいかな?」
「むしろ助かるよー」
なら良かった。俺は罠の場所を回避しながら移動する。
途中でブラックバットというコウモリに似た魔物が出現した。見た目はコウモリだがかなり大きく、超音波で目眩を引き起こしたりと鬱陶しい。
「スピードショット!」
「ファイヤーボルト!」
だけど、ヤンとファイが弓のスキルと魔法であっさりと退治した。
「流石だな」
「ははー僕の仲間は皆優秀だからねー」
「素材はどうする?」
「う~ん、これなら別にいいかなー」
ブラックバットは牙が一応素材として売れるがそこまで高値はつかない。肉も食用に適さないしな。
「欲しいなら取ってもいいよー」
「そうか。なら貰おう」
「はは、初心者は大変だよな」
「キャハッ、本当ね」
ヤンとファイが笑いながら口にする。確かに、最初のうちはこういうところから地道にやらないといけないしな。
「よし終わった。先に進もうか」
「は?」
「え?」
「も、もう?」
ブラックバットの牙も回収したので立ち上がると三人が目を丸くしていた。どうしたんだろう?
ブラックバットは全部で五匹程度だったし牙の回収ぐらいなら一秒もかからないだろう。それに影風呂敷もあるから回収は早い。
だけどカイルが見てみたいと言うから解体した素材を見せた。
「こ、これは解体も完璧だねー……ブラックバットは価値の割に牙を上手く取り外すのが厄介だから忌避されやすいのにー……」
確かにブラックバットは歯肉の部分が特に強靭だから慣れてないとその部分を避けて折るように回収してしまう事が多い。
だがブラックバットは特に根本の価値が高いからそこをないがしろにすると価値が一気に下る。元々そこまで高い素材ではないとは言え可能なら根本からしっかり採取した方がいいからな。
それからも進んでいく。ラットマンというネズミ人間みたいな魔物も出てきたがそれはカイルが前に出て倒していた。
攻略は進むが途中で馬蹄形の穴が見えた。まっすぐも行ける道で壁に出来た穴の先は空洞になっている。パッと見は特になにもない場所だ。
「ここ凄く気になるんだよねー」
「何かありそうだよな」
「調べてみましょう」
「そうなのか?」
とりあえずカイル達に付き合って中に入る。
「シノはここでそこの入り口を見張っていてくれるー? 魔物がやってくるかもしれないからねー」
「わかった」
カイルに言われ、入り口を見ていた。気配察知があるから近づいてくれば何となくわかるが、俺はまだまだこっちでは冒険者として日が浅いからな。
先輩冒険者の言うことは聞いておいた方がいいだろう。
そう思いながら見ていると――
「生贄をここに捧げる」
そんな声が聞こえてきたかと思えば、突如壁が閉じ入り口から出れなくなった。
「大変だカイル入り口が……」
カイルに注意を呼びかけようとするとニコニコしたカイルが奥の穴から手を振っていた。
あんなものさっきまではなかったが……
「助かったよーここは生贄の間と言ってねー誰か一人残してないとこっから先に進めないんだー」
「あはは、まんまと騙されてやんの」
「じゃあね。お馬鹿な素人さん」
そして向こうの壁もしまってしまった。
ふむ、どうやら俺はあいつらに利用されてしまったようだな……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます