首相官邸(2) 首相の回想
グラウンドを濡らす
試合後のミーティングが終わって、メンバーがシャワールームに向かっていた時だった。
「健ちゃん、ちょっといいか?」と次期キャプテンに指名されている毛利が鬼塚に話しかけた。
「急になんだ」と鬼塚が応えた。
「いよいよ来年は俺たちも四年生だ。チーム全体のレベルも上がって、来年は優勝も狙える地力がついたと俺は思っている」と毛利が言った。
「当たり前だ。次はリーグ優勝が目標だ」と鬼塚が力強く言った。
「――健ちゃん、すまん。次期キャプテンに指名されたばかりだが、これ以上アメフトを続けられなくなった」毛利が努めて明るく振舞った。
「いきなり、どうしたんだ。いまクォータバックのお前が抜けたら、うちのチームは大幅な戦力ダウンだ」と鬼塚が抗議した。
「俺だってわかってる。でも仕方ないんだ」毛利が悔しそうに言った。
「試合の直前で言えなかったが、今朝、田舎の父が亡くなったんだ」
「これからすぐ、山口の田舎に帰らないといけないんだ」
「これまでは奨学金と少しの仕送りで何とかやってきた。これまで少しのアルバイトしかせずに、アメフトに打ち込んでこられたのも親からの仕送りのお陰だ」
「しかし、事情が大きく変わった。これからは学費と生活費を自力で稼ぐ必要がある。だから、休学して学費を稼ぐことに決めた」毛利が事情を説明した。
「そういうことか・・・・・・。力になってやりたいが、俺も親のスネかじりの身だ。役に立てなくて、すまん」黒田が申し訳なさそうに言った。
「気にすんな。大学を辞めるわけじゃない。ちょっと卒業が遅れるだけだ」毛利が笑いながら言った。
「健ちゃんにお願いしたいのは、次期キャプテンのことだ。うちの大学は頭のいい奴が揃っているが、協調性はあまりない。チームをまとめられるのは、お前しかいないんだ」毛利が力を込めて言った。
「仕方がない。お前の頼みなら、引き受けるしかないな。でもな、困ったときは遠慮なく連絡するんだぞ」と鬼塚が言った。
次の年、東大アメフト部は開幕前の予想を裏切って、リーグ優勝は逃したものの八校中の二位と大健闘した。
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