プロローグ・終わりと始まりの日(4) 交通事故
「お母さん!」
娘は、ベッドに横たわる変わり果てた母親の姿を見て、現実を受け止められなかった。父を亡くしてから十年、女手一つで自分と弟を育ててくれた大好きな母のことを思うと、娘は無念でならなかった。職場に警察から連絡が入ったときには、頭が真っ白になって、何も考えられなかった。娘は混乱する思考が整理できないまま、上司に付き添われて病院に来ていた。
「――どうして、こんなことに・・・・・・。これからやっと親孝行ができると思っていたのに・・・・・・」
その日の朝、いつものように母親は娘と息子の二人分の朝食を作り、『お味噌汁は温めて食べてね。母♡』と書置きをして職場に出かけて行った。母親の職場は自宅から少し遠いため、二人の子供たちより早く出勤するのが母親」の日常だった。しかし、その日常が非日常に代わるのは一瞬だった。
病院には医療従事者の他に、報道関係者や警察官らしき人たちが大勢集まっていて、いつもは静かな病院の待合室が騒然としていた。
「詳しいことはまだわかりませんが、高齢者が運転していた車が、歩道を歩いていた歩行者の列に突っ込んで、次々に人を
娘は遠くを見つめ、「これから弟と二人でどうしよう・・・・・・」と考えながら、長々と続く警官からの説明を上の空で聞いていた。
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