第5話 気づき
「うぉー、こんなふかふかなベッドは初めてだ!」
アレクはベッドの上でぴょんぴょんと飛び跳ねている。
彼らは冒険の成果を元手に新しい家に移り住んでいた。
とは言っても、新人冒険者が使う一番グレードの低い奴だ。
それでも、以前のボロ家から比べれば天と地の差がある。
「ホント夢みたい。これからも冒険を続けられるんだね」
ラケシスは口元に両手を当てると涙目で言った。
「やだ、ラケシス。泣かないでよ」
パティはラケシスの背中をぽんぽんと叩く。
「え? どういうこと?」
ハヤトはいきなりの事態に動揺して尋ねた。
「実は今までの状態がこれ以上続くようだったらパーティーを解散しようとしていたんだよ」
リーフは少ししんみりした雰囲気でハヤトに説明する。
「ギルドの意地悪な人には『史上最低の新人』とか言われてバカにされたり、逆に親切な人が別の仕事を紹介してくれたり、それが逆に余計に辛くて。でもあたし達は冒険者になりたかったの……」
パティは昔話でも語るかのように空中を眺めながら話す。
「しらなかったな」
ハヤトは自分の事に手一杯で他のパーティーのことなどほとんど知らなかった。
ましては、自分が『鋼の置物』と呼ばれるのと同じように『史上最低の新人』などと不名誉な異名を付けられた新人がいるなど考えてもいなかった。
それは、いかに自分が自分の事しか考えてなかったかを気づくと同時に、アレク達に親近感を持つような不思議な気分にさせた。
「あたし、解散するのがすごく嫌だった。なかなか上手くいかないのは辛かったけど、それでもみんなと一緒に居るのは楽しかったから。だから、ハヤト。ありがとう」
ラケシスは涙声になりながらハヤトにお礼を言う。
「いや、俺は大したことして無いよ。泣かれちゃうと困っちゃうな」
女性に泣かれた事のないハヤトは頭を掻きながらドギマギと答える。
「まったく、ラケシスは泣き虫なんだから。せっかく望みが出来たんだから笑わないと」
パティは少し呆れたようにやさしい表情をラケシスに向ける。
「おい! せっかく引っ越したんだからお祝いしようぜ! ラケシス、旨い物を作ってくれ!」
ベッドではしゃいでいてまったく話を聞いてなかったアレクが空気を読まずに提案してくる。
しかし、その言葉は少し重かった空気を一気に発散させた。
「そうよね。これからの再出発とハヤトの歓迎を祝って腕を振るうわ」
ラケシスは先程とは打って変って明るい表情になると、袖をまくり上げて台所に向かった。
「あたしも料理、手伝うわ」
パティはラケシスを追うように席を立ちながら小声で「ありがとう」と言った。
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